性的嫌がらせ

工場現場全体にわたってセクシュアル・ハラスメントに挑むベターワーク・ベトナム計画

 ベトナムではまだ報告されることの少ない問題ですが、ILOと国際金融公社(IFC)の共同事業であるベターワーク(より良い仕事)計画は、職場におけるハラスメント(嫌がらせ)の特徴とそれに取り組む方法に光を当てています。

アパレル工場で働く労働者
© Better Work

 企業の労働基準遵守を支援することによって、労働条件や企業競争力の向上を目指すILOと国際金融公社(IFC)の共同事業であるベターワーク(より良い仕事)計画は、2018年1月に世界の衣料産業における男女賃金格差を縮小し、セクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ、セクハラ)を減らし、女性の地位向上を図ることを目的とした5年間の包括的なジェンダー戦略を発表しました。この新しい戦略はアパレル工場における対象を定めたイニシアチブに加え、国家・地域・国際の各レベルで政策・方針と実務の強化を図ることによって女性の経済的エンパワーメントを促進することを目指しています。

 ベターワーク計画は現在、ベトナムを含む世界7カ国において主として衣料産業で実施されています。対米輸出高では中国に次ぐ2位の地位を占めるベトナムの繊維産業の効率性は評判が高く、約6,000の工場は十分に確立された生産システムと生産性の高い労働力を提供しています。過去の苦難を乗り越えた同国は世界の製造業の中心地の一つとして自信をもって国際通商の波に乗っています。アジアでも屈指の経済成長率を誇り、人口9,200万人の約半分が生産年齢にあり、無限に拡大していくように見えます。

 社会も変化し始めており、若者の間ではインターネット上のチャットルームやウェブサイト、ブログが、社会の変化や性的嗜好、そして同国最大の課題の一つであるセクハラ問題などを話し合う場になってきています。経済発展は三世代同居の標準に革命を起こしたものの、「花は摘まれるもの、女は男にだまされるもの」という有名なベトナムのことわざにも表されているように課題は依然として残されています。女性は望まない性的注目の正当かつ当然の標的とみなす危険な考えが依然として社会全体に広く見られる一方で、非難の文化がしばしば被害者を苦しめます。

 職場におけるセクハラに関する公式の数字はすぐには得られませんが、2015年にILOベトナム国別事務所が行った調査によれば、話を聞いたベテラン労働者150人の最大17%が自分自身または職場内のほかの誰かが「職場における何らかの利益の見返りに上司から性的サービス」を求められたと回答しています。性差に基づく暴力の撲滅に向けて活動している国際組織CAREのハノイにあるベトナム支部は職場のセクハラ被害者の78%が女性と指摘しています。女性労働者が絶えず経験する嫌がらせには、卑猥な電話、ポルノのようなメッセージ、性的コメント、望まない性的注目、凝視、職場内外における直接的な性交渉提案、ストーカー行為などが挙げられます。

 国内外のメーカーから投資が流れ込んでいる衣料産業も例外ではありません。が、就業者約350万人の圧倒的多数が女性で、管理職に女性がほとんどいないこの産業でセクハラの苦情が出されることはほとんどありません。しかし、ILOとベトナム労働・傷病兵・社会問題省が実施した職場セクハラ問題に関する研究からは、報復を恐れて被害者が事件を公式に報告するどころか声を上げることさえ控えている現状が明らかになりました。

 ベターワーク・ベトナム計画のデイビッド・ウィリアムズ技術専門官は、工場におけるコーチングの過程で話を聞くことは多くても、労働者が怖がって報告しないことを指摘します。そして、自らの権利や事件に対処してもらうために工場内でとる必要がある手続きについて女性たちが知らないことに注意を喚起しています。

 これまでにベターワーク・ベトナム計画に参加した工場は530を超え、対象労働者の総数はこの産業の就業者全体の4分の1を上回る73万8,000人に達しています。この8割が女性です。参加工場のほとんどにセクハラに関するポリシーや手続きがあるものの、机上のものに過ぎない場合が多く、上級管理職に至るまでその存在を知らないこともしばしばです。

 セクハラの法律上の定義が曖昧なことも事態をさらに複雑化させています。使用者が問題をより良く理解し、より実践的なポリシーを導入できるようILOはほかの国際機関と共に労働法内にもっと明確な定義を盛り込むよう働きかけています

 ベターワーク・ベトナム計画はILOのほかの部署や国内パートナーと共にセクハラに関する使用者向け職場指針を作成しました。ベターワーク・ベトナム計画のグエン・ホン・ハ・マネジャーは、「次に必要なのは、工場との協働によってこの指針を実践的なポリシーと現実の行動に移し替えると共に、労働者が自らの権利を知り、ハラスメントを経験した場合に声を上げるよう力を付けること」と語っています。

 ベターワーク計画は最近、複数のハラスメント事件に遭遇しました。このどれでも加害者は上司でしたが、これは国際的な研究によってこの産業部門全体にわたる共通事項であることが明らかになっています。ある工場では、身体に触られて不適切なコメントを言われたとして、1人の労働者が生産監督を非難しました。非常に珍しいこととして、この労働者は人事部と工場の労働組合に問題を持ち込みました。その後、本人は別の部署に異動になりましたが、加害者は罰も受けず、同じ部署に留まりました。間もなく別の労働者が被害を受けましたが、年次有給休暇の申請を却下されたり、勤務不良の報告をされることを恐れて、この労働者は苦情を届け出ませんでした。

 別の例では工場監督が夜勤を利用して女性に触っていましたが、複数の労働者から苦情を受けた工場はこの男性を解雇しました。

 こういった幾つかの証拠に基づき、ベターワーク・ベトナム計画は3分間の広報アニメ、工場の壁に貼れる分かりやすいポスターシリーズを制作し、すべての工場が参加できるセクハラ防止研修コースを設けました。しかし、研修の参加者は通常、監督者や人事またはコンプライアンス担当者であり、労働者や上級管理職の出席はあまり見られません。ウィリアムズ専門官は、「工場全体の態度を変えるつもりならば、ここに取り組まなくてはならないギャップがある」と指摘します。

 ホーチミン市にある従業員数1,028人のベターワーク・ベトナム計画参加企業から研修に参加した人事マネジャーは、研修を通じて周囲の人々に対して適切に振る舞う方法を学んだとして、この教訓を同僚と共有することを始めました。同じ工場から参加した男性労働者は、研修は問題の規模に関する理解を深める助けになったとして、「今はこのような事件が自分の工場で起こったとしても、よりうまく対処し、取り組むことが出来るように感じています。時に意図せぬ冗談が一種のセクハラと見られる可能性があることに気づきました。今は何が適切な行動様式かについてずっと理解したように思います」と感想を述べています。


 以上は2018年9月14日付のホーチミン発英文広報記事の抄訳です。