LGBTIの人々を対象とした訓練講習

ブラジルのLGBTIの人々に労働市場の門戸を開く手助けをするILO

 この画期的なパイロットプロジェクトは、脆弱な集団に生産的なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進する、より幅広い戦略の発想源になり得ます。

「性差を超える人々の就業能力-厨房と発言力」プロジェクトによるLGBTIの人々を対象とした厨房助手訓練講習受講者

 ILOブラジル国別事務所のマーチン・ハーン所長が指摘するように、「国連の『持続可能な開発のための2030アジェンダ』の諸原則に則ると、一人の労働者も置き去りにすべきではありません」が、LGBTIと総称される同性愛者、両性愛者、トランスジェンダー、インターセックスの人々とその家族にとっては「職場をより包摂的にすることに関し、進展は見られるものの、まだ多くの課題が残されています」。

 そこで、ILOはブラジルの労働検察庁との共同イニシアチブ「性差を超える人々の就業能力-厨房と発言力」プロジェクトを展開してLGBTIの人々の公式の労働市場への包摂を促進しています。2018年4月にブラジルで最も人口が多いサンパウロ市で実施されたプロジェクトの第2回厨房助手訓練講習には16人の異性装者とトランスジェンダーの人々が参加し、サラダ・ドレッシング技術、魚や肉、野菜の調理法、ゴミ処理、食品保存法などレストランの厨房で働くための基礎技能を教える九つの教科を受講しました。学習者の対人コミュニケーションスキルと自信を育むため、ジャーナリストでもある女優のエリザ・ルシンダさんとそのパートナーである舞台監督兼女優のジェオバナ・ピレスさんによる詩のワークショップも開かれました。

 講習参加者の1人であるダニエラ・デリさんは修了式で、ブラジルの有名な作家マルタ・メデイロスの作品の中から、社会や家族から様々な差別や嫌悪感の表明を受けている多くのトランスジェンダーやLGBTIの人々の生涯に関連した詩を数節朗読しました。17歳の時に性同一性障害を理由に実家を追放されたデリさんは現在、サンパウロ市にあるLGBTI文化とこれらの人々を受け入れる場であるカーザ・ウン(一つの家)で調整役として働いています。

 ILOプロジェクトのタイス・ファリア調整官は「声を上げ、自らを表現し、コミュニケーションを図るのにしばしば困難を感じている人々にとって、詩は大いに助けになった」と評価しています。共同イニシアチブの調整役を務めたアルゼンチン人のパオラ・カロセージャさんは傑出したシェフとしてブラジルでも有名ですが、今回は訓練カリキュラムの編成を担当してくれました。シェフはまた、パートナーである企業家のベニー・ゴールデンバーグさんと共に、参加者に職を提供する企業ネットワークを設立し、トランスジェンダーに対する偏見に反対するキャンペーンも開始しました。

「おめでとう。君たちはよくやった」:「性差を超える人々の就業能力-厨房と発言力」プロジェクトによるLGBTIの人々を対象とした厨房助手訓練講習の模様(ポルトガル語)

 2017年末に開かれた第1回厨房助手訓練講習に参加したヤスミン・ビスポさんは第2回講習に協力して受講生の選定・支援を担当しました。「参加者との対話を容易にするためにプロジェクトチームにトランスジェンダーの者が参加する必要がありました。私にとっては非常に有益な経験でした」とビスポさんは感想を述べています。また、「講習に参加したおかげで自分自身の人生について新たな展望を得、自分が有能であると感じることができ、自分の尊厳、自尊心を高めるのに大いに役立ちました。というのも社会は私たちから自分自身である権利を奪い去り、私たちの存在を忘れたがっているからです」と語っています。

 同じく第1回講習に参加して、修了後にブラジルでも複数のレストランを経営するグローバル企業のソデクソ社に採用されたバネッサ・オランダさんは、「以前は公式の仕事を見つける機会はあまりありませんでしたが、今の会社の対応は非常に好意的で、今は新しい職場環境において歓迎されているように感じています」と喜びの声を上げています。

 ソデクソ・ブラジル社のアンドレイア・ドゥットラ社長はオランダさんの採用を自社の企業文化におけるより大きな多様性に向けた変化の指標と捉え、「今回の講習によって他の企業にもプロジェクトに参加し、非常に才能がありながらいまだに大部分が排除されている人口集団の就業能力を団結して推進することを奨励できるでしょう」と語っています。

 「厨房と発言力プロジェクト」の初回講習修了者の約7割がパートナー企業ネットワークから採用の申し出を受けました。プロジェクトは今後、8月にサンパウロ市で同時に二つの講習を開始し、9月までに新たに40人余りの修了生を生み出す予定です。「LGBTIの権利と企業全国フォーラム」とのパートナーシップの下、既に40以上の多国籍企業及び国内企業がILOのプロジェクトに参加しています。

 カロセージャ・シェフも「厨房と発言力プロジェクト」には、活動を広げて様々な形で多様な集団の労働市場参加を手助けできる大きな潜在力が秘められていると評価し、「プロジェクトの育成・継続」の必要性を説いています。

 「厨房と発言力プロジェクト」は、LGBTIの人々を対象とした就業能力全国プロジェクトの一部です。今後はバイアやリオデジャネイロ、ゴイアス、パラーといったブラジル国内の他の州にも活動を広げていくことが期待されます。対象を不利な立場にある黒人の若者のような他の集団に広げていくことも考えられます。このイニシアチブはやがて、すべての脆弱な集団に生産的なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に就く機会を促進する、より幅広い戦略の一部になるかもしれません。


 以上は2018年8月16日付のサンパウロ発英文広報記事の抄訳です。