技能と貿易

ILO/WTO新刊-包摂的な貿易のための技能投資

記者発表 | 2017/07/04
7月4日に開かれたILO/WTO共同刊行物『Investing in skills for inclusive trade』発表会の模様(英語)

 2017年7月4日に世界貿易機関(WTO)本部で開かれた発表会で発表されたILOとWTOの共同研究成果物『Investing in skills for inclusive trade(包摂的な貿易のための技能投資・英語)』は、就労に係わる中核的なスキル、技術的スキル、管理スキルの向上は、国家や企業がコスト削減及び製品の品質改善によって一層競争が熾烈化しているグローバル経済の課題に対応する助けになる可能性があることを示しています。報告書は対応する技能開発の仕組みを備える国の方が交易可能な活動で技能を活用し、したがって、グローバル経済における国の競争上の地位を改善する上で、より多くの成功を収めている傾向があることを指摘しています。

 ロベルト・アゼベドWTO事務局長は、貿易は数億の人々が貧困から抜け出すのを助け、成長、開発、雇用創出にとって決定的に重要な手段であるものの、置き去りにされている人々が存在することを指摘して、労働者及び管理者のこれらの変化に応える能力の改善が「より包摂的な貿易を育む最善の手段であることは明らか」と説いています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、生産性向上とより良い仕事という貿易の利益を摘み取り、貿易が包摂的な開発に寄与することを確保するには、「適正な技能の提供が必要不可欠」と指摘した上で、「急速に変化する仕事の世界においては、技能開発が現在のそして新たな技能ニーズに応え、労働者と企業の双方にとっての現在及び将来的な結果を高めること」がかつてないほど重要になっていると説明しています。

 政治変動や貿易統合・科学技術の進歩といった力に推進されて奥深い変容を遂げつつあるグローバル経済への適応を図り、機会を模索する中、先進国、途上国を問わず、どの国にも技能改善の必要性が存在します。報告書は、貿易が相対的な技能需要に影響する主な仕組みとして、以下の四つを挙げています。

  • 貿易は各国が比較優位を持つ製品に対する需要を高めるため、例えば、技能集約的な部門に比較優位を持つ国では高技能労働者に対する需要が増大します。
  • 国際貿易は最も生産的な企業の拡大をもたらしますが、こういった企業は相対的により高技能の労働者を雇用している傾向があります。
  • 国外に業務を外注する費用の低下に伴い、生産工程の中でも最も複雑度が低いものは高所得国から低所得国へと移転する傾向があります。
  • 貿易コストの低下は自動化などの生産技術における変化の触媒となる可能性があり、これにより先進国・途上国双方で、輸出入部門で競争している企業の生産性向上、高技能労働者の優遇がもたらされます。

 より競争力の高い労働力を育成する必要性に対する取り組みは長期的なプロセスであり、開発段階にかかわらず、どの国においても、大学や技術・職業教育訓練の形での教育と訓練の継続、そしてオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)が、大なり小なりグローバル化によって引き起こされている技能需要における大きな変化に労働者及び管理者が対処する助けになる可能性があります。

 4章構成の本書は、技能と貿易が重要な理由を説明した上で、技能と貿易について現在知られている事項を列挙し、貿易に関連した技能需要における変化に対応する様々な方法を紹介し、最後に結論を提示しています。貿易に関連した技能ニーズに効果的に応える上で重要な原則として、報告書は、政策整合、政労使間の社会対話、教育・技能開発・生涯学習の幅広い機会、行き場のなくなった労働者やその危険にさらされている労働者を対象とした訓練、従業員の訓練に対する投資、問題解決力や協調性など就労に係わる中核的な技能の強化、技能ニーズの分析・技能予測などを挙げています。

 ILOの「貿易と経済多角化のための技能(STED)計画」から見出された事項などをもとに、報告書は、適切な技能開発戦略は企業の貿易参加や労働者が良い仕事を見つけるのを手助けする上でカギを握っていることを示しています。STEDとは、国際貿易における成功を将来達成する上で必要な技能開発戦略を特定するための技術支援を産業部門毎に提供しているILOの事業計画です。

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 以上はジュネーブ発ILO/WTO共同英文記者発表の抄訳です。