ILO刊行物『世界の雇用及び社会の見通し』
ILO新刊:男女格差の縮小が女性、社会、経済にもたらす相当の利益
現在ジュネーブで開かれている第106回ILO総会の枠内で6月15日に開かれる仕事の世界サミットでは働く女性にとってより良い未来を形成する方法に関する話し合いが行われますが、仕事の世界が直面している最も急を要する課題の一つは男女格差であり続けています。女性の労働力率は男性をはるかに下回り、失業率は男性よりも高く、雇用の質も依然として大きな懸念事項です。
女性の労働市場参加を手助けすることは課題解決に向けた最初の重要な一歩であるものの、2017年でもなお、世界全体で見た女性の労働力率は男性より27ポイント近く低い49%強に過ぎず、状況は2018年になっても変わらないと予想されます。
2014年に開かれた主要20カ国・地域(G20)サミットでは、2025年までに男女の労働力率の差を25%縮小するとの公約がなされました。このたび発表されたILOの新刊書『World employment and social outlook: Trends for women 2017(世界の雇用及び社会の見通し-女性動向編2017年版・英語)』は、世界全体でこの目標が達成されたとしたら、世界経済は5.8兆ドル膨らむ可能性があると推計しています。これによって実現される潜在的な税収も巨額で、例えば、新興国(9,900億ドル増)と先進国(5,300億ドル増)を中心とした税収増により、世界の税収は1.5兆ドル増える可能性があります。最も多くの利益を得ると見られるのは、労働力率の男女格差が50ポイントを超える北アフリカ、アラブ諸国、南アジアで、現在の格差が20.9ポイントに上る日本の場合も労働力は290万人増加し、国内総生産(GDP)は1,769億ドル増えると予想されます。
表-労働力率における男女格差と格差を縮小した場合の潜在的影響力
2017年予測 | 2025年までに格差を25%縮小した場合 | |||||
労働力率 | 追加労働力 | 追加GDP | ||||
国/地域 | 男性(%) | 女性(%) | 格 差 (パーセント・ポイント) | 単位:100万人 | % | 単位:億ドル (購買力平価建て) |
世界 | 76.1 | 49.4 | 26.7 | 203.9 | 3.9 | 5,767 |
途上国 | 82.6 | 70.3 | 12.3 | 7.8 | 2.0 | 31 |
新興国 | 77.5 | 46.9 | 30.6 | 175.5 | 4.8 | 4,195 |
先進国 | 68.0 | 51.9 | 16.1 | 20.6 | 2.6 | 1,540 |
北アフリカ | 74.1 | 22.9 | 51.2 | 11.4 | 9.5 | 301 |
サハラ以南アフリカ | 76.3 | 64.6 | 11.7 | 11.1 | 2.2 | 109 |
中南米・カリブ | 78.3 | 52.7 | 25.6 | 17.4 | 4.0 | 445 |
北米 | 68.3 | 56.2 | 12.1 | 4.8 | 2.0 | 452 |
アラブ諸国 | 76.4 | 21.2 | 55.2 | 7.8 | 7.1 | 372 |
東アジア | 76.8 | 61.3 | 15.5 | 27.3 | 2.5 | 1,013 |
東南アジア・太平洋 | 81.2 | 58.8 | 22.4 | 15.9 | 3.5 | 425 |
南アジア | 79.4 | 28.6 | 50.8 | 92.7 | 9.2 | 1,838 |
北欧・南欧・西欧 | 63.8 | 51.3 | 12.5 | 5.7 | 2.0 | 406 |
東欧 | 68.1 | 53.0 | 15.1 | 4.5 | 2.6 | 189 |
中央・西アジア | 73.5 | 44.1 | 29.4 | 5.3 | 5.7 | 216 |
出典:World employment and social outlook: Trends for women 2017 2017年の格差と労働力率は予測値。 |
相当の経済的利益に加え、ほとんどの女性が働きたがっているため、女性労働力率の上昇はその満足感にも好影響を与えると見られます。デボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長は、「世界の女性の58%が有償の仕事に就きたいと考えている時に半数程度しか労働市場に参加していないという事実は、参加の自由と能力を制約する大きな課題の存在を強く示すもの」と指摘し、したがって、政策策定に携わる人々がまず第一に考えるべきことは、「労働市場への参加を選んだ女性が直面する制約を緩和し、職場で直面する障害に対処すること」と説いています。
失業の可能性は男性よりも女性が高く、2017年に女性の失業率は世界平均で6.2%となり、男性の5.5%を0.7ポイント上回り、2018年にも状況はほとんど変わらないと見られ、現在の傾向が続けば、何らかの改善が見られるのは早くて2021年になろうと思われます。
世界全体では働く女性の15%近くが家族の事業に貢献する家族従業者(男性の場合は男性就業者の5%強)です。この差は途上国で最も大きく、19ポイント(女性就業者の36.6%近くが家族従業者であるのに対し、男性の家族従業者は男性就業者の17.2%程度)になります。
働きたいとの女性の思いや労働市場に参加しようとの決定、良質の仕事に就ける機会に影響を与える要素としては、差別や教育、無償のケア労働、仕事と家庭の両立、婚姻上の地位などを挙げることができます。男女の役割に関する固定観念も女性のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)機会の制約において大きな役割を演じています。
報告書の中心的な著者であるILO調査研究局労働市場動向・政策評価班のスティーブン・トービン班長は、世界全体で男性の20%、女性の14%が女性が外で働くことを「良しとしない」状況があることを挙げ、あまりにもしばしば社会の一部の構成員は、女性が有償の仕事に就くことを「許容できない」とする口実になおも頼っていると指摘し、「仕事の世界と社会における女性の役割に対する姿勢を変えることから始める必要がある」と説いています。
報告書は、同一価値労働同一賃金の推進、性別職業分離・産業分離の根本原因への取り組み、無償のケア労働の認識・縮小・再配分、仕事の世界における差別・暴力・嫌がらせの防止・撤廃に向けた制度機構の変革など、労働条件をより平等なものとし、男女の役割を再形成する包括的な措置を提唱しています。トービン上級経済専門官はまた、仕事と家庭の調和の改善、ケア経済における良質の仕事の創出と保護、マクロ経済環境と非公式(インフォーマル)経済を対象とした政策の導入によって、労働市場への参加に影響を与えている社会・経済的要因にも取り組むべきことを提案しています。
労働力率における男女格差を引き起こす原因
報告書は、2016年にギャラップ社と行った共同調査で得られたデータを用いて労働市場における男女格差を推進する要素について調べました。142カ国・地域のデータの分析からは以下のような事実が見出されました。
- 配偶者またはパートナーの存在は、新興国、先進国、北アフリカ・中東諸国で女性の労働力率を低下させています。一方で、途上国では逆の結果が出ていることは(配偶者・パートナーがいる女性の方が労働力率が3.3ポイント高い)、配偶者がいても途上国では経済的に働く必要があるという事実に光を当てるものです。
- 極度の貧困状態にある女性は、性差に関する規範と無関係に、労働市場に参加する確率が高くなります(途上国で7.8%増、新興国で6.4%増、そして労働力率の男女格差が最も大きい北アフリカ・中東地域では12.9%増)。
- 妥当な料金の育児・介護サービスの不足は世界的に女性の労働力率を引き下げる効果があります(北アフリカ・中東諸国で6.2ポイント減、途上国で4.8ポイント減、先進国で4.0ポイント減)。しかし、子供を持つこと自体にはそれほどのマイナス効果はなく、実際、途上国ではわずかながら引き上げ効果さえ見られます(0.7ポイント増)。
- 安全な交通手段の利用機会が限られていることは、途上国では女性が労働市場に参加する上での最大の課題となっており、16.5ポイント引き下げています。
- 宗教は性別役割にまで及ぶ複雑な価値体系を体現しており、途上国では、性別役割がより制約的であることを表す代用指標としての宗教による女性の労働力率の引き下げ幅が大きくなっています。一方で、先進国と新興国の結果にはばらつきがあり、引き上げる場合も引き下げる場合もあります。
以上より、女性の経済的エンパワーメントが完全に実現・達成されるには、多様な課題に包括的に取り組む方法を提案できようと、トービン上級専門官は説いています。
途上国 | 新興国 | 先進国 | 中東・北アフリカ諸国 | |
個人の希望 | ||||
有償労働を希望 | 12.0 | 14.4 | 18.4 | 23.7 |
社会的・経済的制約要因の存在 | ||||
中程度の貧困 | 5.0 | 4.1 | 0.4 | 6.7 |
重度の貧困 | 7.8 | 6.4 | 1.3 | 12.9 |
配偶者・パートナー | 3.1 | -2.2 | -3.6 | -6.6 |
子ども | 0.7 | -1.1 | -0.9 | -0.3 |
仕事と家庭の両立における課題 | -2.6 | -3.8 | -0.3 | -2.8 |
妥当な費用の保育サービスの不足 | -4.8 | -2.1 | -4.0 | -6.2 |
権利侵害、嫌がらせ、差別 | -4.2 | -2.0 | -1.9 | -2.6 |
交通手段の不足 | -16.5 | -5.7 | 4.3 | -1.5 |
性別役割に従うこと | ||||
都市部 | 0.1 | -2.9 | 1.3 | 1.2 |
受容性 | 2.7 | 3.2 | 7.1 | 3.3 |
家族の反対 | -5.1 | -7.3 | -2.9 | -1.2 |
宗教 | -10.9 | -2.3 | 0.3 | データなし |
教育 | ||||
中等教育修了 | -5.2 | 3.1 | 7.6 | 6.8 |
高等教育修了 | 10.5 | 15.3 | 15.1 | 27.8 |
* * *
以上は次の2点の英文広報資料の抄訳です。
- 2017年6月14日付ジュネーブ発記者発表-ILO新刊:男女格差の縮小が女性、社会、経済にもたらす相当の利益
- 2017年8月1日付論評-労働力率における男女格差を引き起こす原因とは?