2016年第105回ILO総会

第105回ILO総会閉幕:グローバル・サプライチェーン、紛争及び危機からの移行において、そして2030年までに貧困を歴史と化す上でディーセント・ワークを促進する進路を定めたILO

記者発表 | 2016/06/10
閉会演説を行うライダーILO事務局長

 2016年5月30日からジュネーブのパレ・デ・ナシオン(国連欧州本部)で開かれていた第105回ILO総会は日程を終えて6月10日に閉幕しました。ガイ・ライダーILO事務局長は閉会演説で、「私たちは増大の一途をたどるグローバル・サプライチェーン(世界的な供給網)における生産組織がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の促進に寄与するよう確保するために何が必要かに関して答えを出し、紛争、危機、災害後の平和と安定にディーセント・ワークが貢献できる方法、貢献すべき方法の輪郭を描く作業を開始し」、さらにまた、加盟国が批准条約を適用する義務を満足するよう導くコンパスを定め、世界の海事労働法典を改良し、ILO自らの活動を組織する方向を指し示し、「2030年までに貧困を歴史と化すための進路を定めた」として、仕事の世界に関する重要な事項を巡る2週間にわたる審議を評価しました。

 187ILO加盟国から5,982人という記録的な数の政労使代表が出席した今年の総会で賓客として特別演説を行ったヨハン・シュナイダー=アマン・スイス大統領(5月30日)ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長(6月9日)はいずれも、仕事の未来を形作る際には政労使の社会対話を中心に位置させるべきことを強調しました。6月9日に開かれた仕事の世界サミットでは、若者も交えて政労使ハイレベル代表が若者のために仕事の未来をどのように形作れば良いかについて議論を交わしました。6月12日の児童労働反対世界デーに先立つ6月8日にはサプライチェーンにおける児童労働をテーマとするハイレベル・パネル討議が開かれました。総会ではアラブ被占領地の労働者の状況に関する事務局長報告の検討も行われました。第105回総会の議長は南アフリカのミルドレッド・オリファント労働大臣、副議長はパナマの政府代表、コロンビアの使用者代表、ルワンダの労働者代表が務めました。

◎海事労働基準の改正

 総会は海事分野の条約に関する複数の改正提案を承認しました。

 2006年の海上の労働に関する条約の規範部分については、労働安全衛生の枠内で船上における嫌がらせといじめの撤廃に向けた指針を採択する第4.3規則の改正と、海上労働証書更新の際に、船舶が関連する検査に合格していてもただちに新しい証書の発行を受けて船上に備え付けることができない場合に現行証書の有効期間を最大5カ月間延長することを許す第5.1規則の改正の二つの提案が出されていましたが、総会は、前者については賛成388票、反対2票、棄権15票、後者については賛成389票、反対2票、棄権14票(日本はどちらについても政労使共に賛成)の圧倒的多数で改正提案を採択しました。第4.3規則には、国際海運会議所(ICS)と国際運輸労連(ITF)が共同で発行したこのテーマに関する手引きに対する言及が含まれることになります。

 また、船員の身分証明書を国際民間航空機関(ICAO)の仕様に合わせる形の2003年の船員の身分証明書条約(改正)(第185号)附属書の改正提案についても、賛成374票(うち批准国は21票)、反対3票(同1票)、棄権28票(同4票)で採択されました(日本は政労使共に賛成)。これにより、今後の身分証明書には非接触式チップに内蔵された顔写真画像データが用いられます。

 総会は四つの議題について、委員会を設けて審議しました。

◎グローバル・サプライチェーン

 グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークについて一般討議を行った委員会は、グローバル・サプライチェーンがディーセント・ワークと持続可能な開発に効果的に寄与できる方法を探って9日間にわたり熱心な討議を繰り広げ、一連の行動指向型結論を含む決議を全会一致で採択しました。これは産業・国内・地域レベル、そして国際的なサプライチェーンに見られる統治の間隙を埋める行動を求める地球規模の呼びかけを主導する強い使命をILOに付託するものです。加盟国はILOに対し、動的で時宜を得た行動計画を実施すること、そして理事会の決定を条件として政労使三者構成の会議を開催して、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの不足につながるような欠陥を評価し、ディーセント・ワークの達成を阻む統治上の顕著な課題を特定し、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの促進に向けてどんな事業計画、方策、イニシアチブまたは基準が必要かについて検討することを求めています。

◎社会正義宣言

 2008年に採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」の影響評価を行った委員会は、ディーセント・ワークを各国の持続可能な開発戦略に組み込み、昨年国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の枠内における活動を通じて、この宣言の潜在力をフルに発揮する具体的な行動を求める決議を採択しました。この決議はまた、経済・金融分野の国際・地域機関とのパートナーシップ及び政策整合を通じて各国レベルでディーセント・ワークを促進することを求め、2030アジェンダ及びその関連する目標の達成に寄与できるようILO及び加盟国政労使の能力強化を図る必要性を強調しています。

◎平和へ移行するための雇用とディーセント・ワーク

 現在の情勢、そして紛争・災害状況に応える必要性を考慮に入れる形で1944年の雇用(戦時より平時への過渡期)勧告(第71号)の改正を検討する2回討議手続きの第1次討議を行った委員会は、来年の第106回総会で改正された勧告の採択に向けた第2次討議を行うことを決定しました。この改正は再建と復旧に当てられた第71号勧告の焦点を広げ、予防、備え、強靱性を含むものとなる予定です。危機に対応し、平和と強靱性を構築する上での雇用と仕事の創出、そしてディーセント・ワークをすべての人に実現するというILOの目標の重要な役割についてますます広がる国際的な合意を基礎としたこの改正案は、人道主義、平和構築、災害対応、開発の諸問題が交差するような状況に対処する能力を強化する必要性を認めたものとなっています。

◎基準適用

 基準適用委員会は、加盟国の基準適用状況を審査した条約勧告適用専門家委員会の年次報告をたたき台に労働者の権利の実行からもたらされた問題に係わる24の個別案件を審議して結論を採択しました。また、1949年の移民労働者条約(改正)(第97号)と付属する同名の勧告(第86号)1975年の移民労働者(補足規定)条約(第143号)と同時に採択された移民労働者勧告(第151号)という移民労働者に関する条約・勧告各2本を対象とする総合調査についても審議し、この問題には人的側面があることを認め、労働力移動が労働者、使用者、そして広く社会全体に利益をもたらすことが必要不可欠であり、あらゆる利害関係者の権利、責任、ニーズを均衡させる必要があると考え、国際労働力移動の実効的な管理に必要な世界規模の良い統治と国際協力にILOはとりわけ貢献できようと結論づけました。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。