ILO新刊:世界の雇用及び社会の見通し

新刊:ディーセント・ワークなしには2030アジェンダの貧困目標達成は困難

記者発表 | 2016/05/18
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報告書の内容を著者らが3分で解説する広報動画(英語)へのリンク

 新興経済諸国・途上国では1990年に人口の46.9%が極度の貧困層、67.2%が中程度の貧困層に分類されていましたが、得られる最新のデータによれば、107新興経済諸国・途上国における割合はそれぞれ15%弱と36.2%と大幅に減少しています。しかし、「貧困を終わらせるために仕事を変革する」を副題に、5月18日に発表されたILOの定期刊行物『World employment and social outlook(世界の雇用及び社会の見通し・英語)』の2016年版は、良質の仕事の世界的な不足と多くの地域で見られる経済状態の悪化が貧困削減におけるこの進展を脅かす危険性を指摘しています。その上、先進国では、危機開始以来の上昇幅が1ポイントに達する欧州連合(EU)を中心に、相対的貧困率(所得が全国中央値の6割未満の世帯の割合)の上昇が見られます。

 国連の持続可能な開発目標に掲げられているように2030年までに世界から極度の貧困(現在の定義では1日当たり所得が購買力平価で1.90ドルを下回る層)と中程度の貧困(同じく1.90~3.10ドルの層)を根絶するには年間約6,000億ドル、15年で計10兆ドル近くが必要です。報告書は、所得移転だけではなかなかなくならない貧困問題を解決することはできず、より多くのより良い仕事が決定的に重要と結論づけています。

 途上国に暮らす極度及び中程度の貧困層の約3分の1が仕事に就いていると推定されますが、その仕事は低技能職に集中し、時には報酬を得られず、社会的保護がない場合にはほぼ完全に勤労所得のみに頼っているといったように脆弱な性質のものとなっています。先進国では賃金・給与労働者が多いものの、貧困に陥るのを食い止めるには至っていません。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、2030年までに貧困を終焉させるという目標の達成が脅かされているのは明白として、2030アジェンダに真剣に取り組み、数世代に及ぶ貧困の悩みについに終止符を打とうと思うならば、「あらゆる国における仕事の質」に焦点を当てるべきと説いています。レイモン・トレスILO社会・経済事項特別顧問も、世界人口の3割を占める貧困層が世界所得に占める割合は2%に過ぎない事実に注意を喚起して、不安定な生活状態から恒久的に脱却させ、働く貧困層とその家族の生計改善を図るには、「就業者の仕事の質の意識的な改善と新たなディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の創出を通じる以外にない」と強調しています。トレス特別顧問はまた、所得不平等の高さが貧困削減に対する経済成長の影響力を減じることが報告書から見出されている点を紹介し、「貧困の永続化における豊かな国家や個人の責任を非難するだけの時期は過ぎた」として、「現状の容認は選択肢ではない」と訴えています。

 貧困削減における進歩は不均等で、アジア太平洋を中心とする中所得国での減少が著しいのに対し、低所得国の歩みはのろく、いまだに人口の47.2%が極度の貧困状態にあります。先進国では近年、EUを中心に貧困層が増加しています。産業部門毎の貧困削減率にもばらつきがあり、43の新興経済諸国・途上国の得られる最新のデータによれば、貧困層の割合は工業従事者では12%、サービス業従事者ではわずか7%に過ぎないのに対し、農業従事者の4分の1が極度の貧困状態にあると見られます。

 報告書はまた、極度の貧困層の減少については全体的に相当の進歩が達成されたものの、経済成長の弱さのみならず良質の雇用の創出を阻む重要な構造的な障害によっても貧困削減ペースの継続が脅かされていると警告しています。アジア、中南米、アラブ地域、そして天然資源を豊かに保有する国々における最近の経済展望の悪化は雇用と社会進歩の脆弱性を露呈し始めています。これらの国の一部では数十年間にわたり縮小が記録されてきた所得不平等が再び拡大し始めており、貧困削減における進歩が脅かされる可能性が示されています。

 報告書は以下のように良質の仕事の提供とそれに見合った貧困の削減という構造的な課題に取り組むための複数の提案を行っています。

  1. 経済成長と貧困問題未解消は共存する可能性があるため、持続可能な企業の刺激や不安定雇用対策、技能・成長の遅い産業に対する投資などを通じて生産基盤の多角化と貧困の中心に存在する低生産性の罠に取り組むこと
  2. 許容できない就労形態を拒絶できる力の付与などの就労に係わる権利の強化と貧困層の発言力確保に向けた労使団体が貧困層に手を差し伸べられる環境の整備
  3. 児童の貧困対策としての教育と所得扶助を組み合わせた制度の強化など、様々な好事例を範として上手に設計された雇用・社会政策を通じた貧困緩和
  4. しばしば貧困と関連づけられる行政の実施能力の低さや汚職に取り組むことを目指した、政府の貧困削減政策・基準実施能力の強化
  5. 累進課税基盤や大企業・小企業の税務上の公平な取り扱いを通じた奨励措置の改善と資金の底上げ、所得・富の不平等の永続が貧困削減におけるさらなる進歩を妨げる可能性についての富裕層の責任意識の醸成
  6. 2030年までに貧困を終焉させるにはディーセント・ワークが必要条件であることを示す証拠があることから持続可能な開発目標の達成にILOを関与させること

 

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。

 また、報告書の内容を図示するものとして、働く貧困層率や各種貧困率貧困撤廃に要する費用を示す世界地図貧困層の内訳(労働力、非労働力、非生産年齢人口別)を示すグラフも作成されています。