フィリピン

超大型ハイエン台風後の生活再建に向けて

記者発表 | 2014/02/05

 2013年11月8日にフィリピンを襲った、上陸台風としては史上最強のハイエン台風(フィリピン名:ヨランダ)の影響は少なくとも1,420万人に及び、590万人以上が主たる収入源を失いました。このうち260万人以上が被災前から脆弱な就業形態にあり、貧困線以下またはその付近の生活を余儀なくされていました。ILOは国連の支援計画の中で早期復旧・生計手段分野の活動を主導する機関の一つとして、フィリピン労働雇用省による緊急雇用計画の実施を支援してきました。この計画の下で、2013年中に2万人以上に仕事が提供され、約10万人の労働・生活条件の改善が助けられました。今年1月、ノルウェーは支援活動に対する任意拠出金を積み増して合計2億5,500万ノルウェークローネ(約42億7,000万円)としましたが、このうち2,000万ノルウェークローネ(約3,400万円)がILOの生計回復支援活動に充てられます。

 日本政府や国際海事使用者委員会(IMEC)などからも任意資金協力を得て展開されているILOの事業計画は、被災直後の数カ月間に提供される、がれき除去、清掃作業、地域の重要施設の仮修繕などに貢献する短期的な緊急雇用に加え、中期的な活動要素も含み、台風被災者の即時のニーズに対処すると同時に生計手段を再確立し、自立するための道を提供することを目指しています。ジェンダー問題にも対応した被災労働者向け技術・職業訓練、技能開発、企業の回復を通じた持続可能な雇用の創出も優先事項です。現在得られる資金では、今後4カ月間で1日当たり700人近い労働者に緊急雇用計画に基づく仕事の提供が可能です。計画の第2段階として、ILOは労働力を基盤とした技術と地域社会への業務発注、そして被災地の地元パートナーと協働することによって、地元の資源を基盤としたインフラ構造及び環境に対する投資を通じて地域社会で雇用及び所得を創出することを目指しています。緊急雇用計画に従事した労働者の約2割がこの段階に移行し、技能訓練を受けて地域社会を基盤とした仕事に移行する予定です。2014年12月末までに延べ10万人分の日雇い仕事が創出され、約250人の起業家候補が事業開発・回復支援を受け、賃金や資材・道具の購入によって130万ドル(約1億3,000万円)が地元に注入されることが期待されます。

 台風襲来後間もなくにILOの活動を記録するために被災地に飛んだジャン=リュック・マルチナージュILO上級広報官は、災害から3カ月経ったのを機にILOのブログ「Work in progress」に2月7日に投稿した記事の中で、地域社会の最も貧しい層が被災者の中心を占めていたことを振り返り、自分が話を聞いた被災者が望んでいたのは、ただ被災前のような生計を得る手段の回復という単純な要求だったことを報告し、このささやかな望みに耳を傾けようではないかと呼びかけています。

ハイエン台風襲来から100日経ったフィリピンで復興にはもっと多くの仕事が必要と語る被災者ら

 ハイエン台風襲来から100日が経った被災地では電力が回復し、あちこちから金槌やのこぎりの音が聞こえるなど、ゆっくりながら着実に復興への歩みが見られます。被災前から脆弱な就業形態にあり、貧困線以下または貧困線すれすれの生活を送っていた被災者の状況は前より悪くなり、生き残るためには人道支援に頼っています。ILOの支援を受けて労働雇用省が実施している緊急雇用計画は、がれきの除去や清掃などといった復旧に係わる仕事の機会を被災者に2週間にわたって提供し、貴重な現金収入の道を開いています。ILOが目指す「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をすべての人へ」というディーセント・ワーク課題に沿って提供されている仕事は単なる仕事ではなく、最低賃金が保証され、保護具や保護衣の支給によって労働安全衛生が確保され、健康保険や社会保障への加入機会も開かれています。希望する参加者には技能訓練や助言を提供し、起業の支援も行っています。事業に参加した被災者は口を揃えて、家財も生計手段も失った状況下で提供された何よりも必要な現金収入の機会の貴重さを指摘しています。

 台風で何もかも失ったエバンジェリン・ティオソンさん(49歳)は、緊急雇用計画に参加したおかげでゆっくりながら生活を再建することができ、今は小規模事業を再び立ち上げることを考えられるまでになっています。

 サマール島近くのバセイ島で溶接工として働き、十分な収入を得ていたロメオ・エリャソ氏(59歳)も台風で道具も家屋も流され、仕事も自宅も失いました。緊急雇用計画に参加したおかげで家族とともに食べていくのに十分な現金を得ることができたエリャソ氏は今は小さな修理工場にパートタイムで勤務し、そのうち新しい溶接工具を購入できるだけのお金を貯めることを望んでいます。

 タクロバン市でゆっくりと事態の収拾に当たっている漁師のロベルト・ラグ氏は9歳の息子が海に流されてしまった悲しい出来事を思い出すと今でも涙が止まりません。台風によって生計手段は失われてしまいましたが、何とか新しい船を手に入れて今では再び漁に出られるようになっています。いとこのロヘル・ゴナ氏が緊急雇用計画で仕事を見つけることができたのも大いに助けになりました。

 ILOフィリピン国別事務所のローレンス・ジェフ・ジョンソン所長は、「台風の被害を受けた人々が復興過程で再び被害者とならないよう確保することが私たちの望み」と語っています。仕事を求める声は被災地のあちらこちらから聞こえてきます。被災者が台風で失った生計手段を完全に回復する手助けを行うためには、やらなくてはいけないことがまだまだ多いのは確実です。

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 以上はILOフィリピン国別事務所によるマニラ発英文記者発表及び広報記事の抄訳です。