第103回ILO総会

第103回ILO総会:大きな政策課題を提示する移住問題について論じるライダーILO事務局長

記者発表 | 2014/05/28
ガイ・ライダーILO事務局長の第103回ILO総会開会演説模様(英語)

 5月28日に開幕した第103回ILO総会開会演説において、ガイ・ライダーILO事務局長は、現在移民労働者は世界全体で推定2億3,200万人といったように、ますます膨らみ複雑化している人の移動は「成長と開発に非常に大きく寄与する潜在力を秘めている」としつつ、この現象が労働市場において最も脆弱な人々に対する許容できない待遇や虐待と関連づけられる場合が多いことを遺憾としました。ILOは国連のグローバル移住問題グループの2014年の議長機関を務めてもいますが、事務局長は今年の総会に『公正な移住:ILOの政策課題の設定』と題する報告書を提出し、グローバル化、人口構造の変化、紛争、所得不平等、気候変動に対応した政策提案を示しています。来週の総会本会議においては、この事務局長報告を巡る加盟国政労使の見解表明が行われます。ローマ・カトリック教会の教皇フランシスコも総会にメッセージを寄せ、母国を離れて仕事を探さざるを得ない人の多さに懸念を表明しています。

 今年の総会ではまた、強制労働をなくすための活動の強化を目指し、予防、被害者保護、補償に特に配慮した、強制労働条約(第29号)補足文書の採択に向けた審議が行われます。事務局長は、今日でも被害者が世界全体で2,100万人存在し、年間利益が推定1,500億ドルに達する「ビッグ・ビジネス」である強制労働は、「過去の時代の悪習の名残などではなく、最も有毒な形へと自らを作り替える変異を遂げつつある」ことを指摘しました。

 事務局長はさらに、記録的な水準に達してもなお世界的に増加しつつある失業者の問題に言及し、仕事を私たちの活動の先頭及び中心に据えるべきことを訴えました。5月27日に発表されたILOの年次刊行物『World of work report(仕事の世界報告書・英語)』2014年版は、途上国の雇用問題を取り上げ、良質の仕事、すなわちディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を決定的に重要な発展の推進要素と結論づけていますが、このメッセージは、基準設定に向けた2回討議の第1回目として今年の総会で行われる、インフォーマル経済からフォーマル経済への移行に関する議論にも反映される見通しです。ライダー事務局長は、フォーマル化は「労働者には保護と状況の改善、企業には公正な競争と持続可能性の向上、政府には歳入と権限の強化」といったように、関係者すべてに利益をもたらすことを指摘した上で、人間らしく働きがいのある仕事と社会的保護を国連の2015年以降の開発課題の明確な目標に含むことの必要性を説いています。

 6月12日までジュネーブのパレ・デ・ナシオン(国連欧州本部)で開かれるこのILOの年次総会には、日本を含む185の加盟国から政府、使用者、労働者の代表が参加し、仕事の世界に係わる幅広い事項について話し合いを行います。

 総会の討議資料、討議議事録、記者発表など関連資料は第103回ILO総会のウェブサイトでご覧になれます。本会議討議模様の動画や音声ファイルも提供されています。

広報動画-移民労働者の権利保護に向けたヨルダンの活動

 例えば、労働力移動の問題が総会で論じられるのに合わせて、ヨルダンにおける移民労働者問題への取り組みを紹介する広報動画が作成されました。ヨルダンでは主にエジプトからやってくる約75万人の移民労働者の4分の3が技能水準も生産性も低い仕事に就いています。雇用主が保証人となるヨルダンでは移民労働者は許可を得なくては転職もできず、しばしば搾取的な労働状況に陥っています。ILOはこの状況を変えるために同国政労使と協力しています。今では移民労働者には労働組合加入の自由も与えられ、2013年にはアパレル部門で初の労働協約が締結されるなどる相当の進展はありますが、状況改善に向けた政労使の意思をすべての移民労働者のディーセント・ワークに変化させるにはまだまだ努力が必要です。

インタビュー-労働市場における移民の均等待遇を、と説くILO事務局長

 総会での演説後に広報局のインタビューに答えたライダーILO事務局長は、移住拡大の経済的な利益が明らかとなる一方で移住を支持する政治的な論拠の縮小が見られるとして、ILOがこの逆説的な状況に対する解を求める活動の一部となるよう、事務局長報告としてこのテーマの検討を総会に求めたとの理由を明かしました。事務局長は、この逆説的な状況を解消する唯一の手段は権利を基盤としてこの問題に取り組むことであると説き、移民労働者の権利尊重や地元労働者と移民労働者の労働条件面での均等待遇確保による地元労働者及び移民労働者双方へのディーセント・ワークの提供を提唱しています。そして、根本的に移住とは仕事を求めての移動である以上、仕事を中心に据える機関であるILOとしては、この問題に対する世界の取り組みを前進させる上で中心にいなくてはならないと訴えています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳に関連広報素材の情報を盛り込んだ記事になっています。