労働政策

欧州の社会モデルは危機克服のカギと説くライダーILO事務局長

記者発表 | 2014/02/28

 ILOは2月27~28日にブリュッセルにおいて、経済危機と緊縮政策の時代における欧州社会モデルの状況を検討する会議を欧州連合(EU)と共催しました。会議のためにILOが作成した刊行物『The European Social Model in times of economic crisis and austerity policies(経済危機と緊縮政策の時代における欧州社会モデル・英語)』などをたたき台とした幅広い議論は、社会対話など欧州社会モデルの6本の柱すべてに危機が強い影響を与えていることを明らかにしました。

 労働者の権利と労働条件の柱に関しては、賃金成長を抑える数々の動きが実質賃金、さらには名目賃金までもの下降を引き起こし(例えば、ギリシャでは名目で22%の賃金カット、ポルトガル、スペイン、英国の賃金上昇率は物価上昇率を下回る)、こういった措置は既にそうであるように今後も疑いなく、多くの労働者の労働条件悪化を招き続けると思われます。労働市場の柱に関しては、これを巡る政策の変更や改革、緊縮政策が危機以降急増し、あらゆる分野に広がり、例えば、ギリシャやエストニアでは解雇手続きが簡略化され、スロバキアでは解雇規制の緩和さえ見られます。危機の影響が深刻な国で最近行われた雇用保護法制の変更などの改革の影響は長く残り、今後何年も欧州社会モデルをさらに弱めていく危険があり、さらに根本的なこととして、これまでに採用された措置が均衡を欠いていることから、今後行われようとする改革が社会基盤を強化するようなものであったとしてもなかなか社会の支持が得られないと思われます。参加者が口々に指摘するこのような変化は社会紛争の増加を招いており、経済にも生産の混乱などの直接的な影響が出ています。労働市場改革と教育分野への支出削減は将来世代の技能や雇用展望に影響を与えると見られます。最も警戒すべきこととして、貧困と排除が中流階級の間にも急速に広がり、差別の問題について達成された進展は止まり、ナショナリズムと一部の集団に不名誉な烙印を押す動きが増加しています。こういった傾向は、欧州社会モデルの解体が多くの国で続けば、この存続が危うくなることを指し示しています。

 会議では元気づけられる兆候も幾つか紹介されました。積極的労働市場政策の予算を増やしたフランスやアイルランド、2016年までに全国的法定最低賃金の導入を図るドイツなど、方向転換が必要との意識が少なくとも一部では高まりつつあります。会議参加者はこの方向性の正しさは評価しつつも、まだ不十分として、欧州には再出発が必要と訴えました。

 開会式で演説したガイ・ライダーILO事務局長は、欧州の社会モデルは前代未聞の課題とストレスにさらされていることを指摘しつつ、このモデルには危機を克服する力があるとして、より強靱な欧州社会モデルの構築に向けて、「投資、科学技術、社会の安定性、労働者の流動性、技能といった本当に重要なものに絞った改革、経済政策と労働政策の調和、欧州の通貨統合を真に持続可能なものとし、その社会モデルの将来性を確保するために必要な競争力問題の解決に向けた、より調整の取れた取り組み」などを提起しました。欧州委員会のラースロー・アンドル雇用・社会問題・社会的包摂担当委員も、欧州統合の画期的な業績の一つである欧州の社会モデルが力強く持続可能であるよう確保する必要性を強調しました。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。