活躍する日本人職員 第10回: 中富玄

中富 玄
ILOジュネーブ本部 パートナーシップ・現地業務支援局
対外パートナーシップ・資金調達担当官(JPO)
-------------------------------------------

略歴
東京都出身。横浜国立大学教育人間科学部卒。在学中、中東のクウェート大学へ留学。ジュネーブ高等国際開発研究所(IHEID)にて国際関係学修士課程を修了後、ブルームバーグLP東京オフィスに入社し、データアナリストとして政府機関から発表されるマクロ経済指標・貿易統計データの収集・加工・自動化等を担当。その後、アクセンチュア株式会社へ転じ、マネジメントコンサルタントとして金融機関(銀行・証券会社・保険会社)向けの業務改善支援・AML(マネーロンダリング対策)システム導入・InsTech(テクノロジーを通じた保険業務支援)等のプロジェクトに参画。2019年、外務省の国連JPO制度を通じてILOに入局し、ILO開発協力戦略2020-25における「開発のための資金調達(Financing for Development)」の立ち上げ・推進に従事。また、開発プロジェクトに資金を拠出する各国ドナー政府・プロジェクトを実行するILO現地事務所との間に立つ仲介役として、案件形成・資金調達に関するコーディネーション全般を担当している。仕事と並行して、2020年よりロンドン大学SOASの公共政策・管理修士課程(パートタイム・遠隔学習)へ入学し、「理論と実践」の両面的なアップデートを目指して日々勉強中。
--------------------------------------------
スイス、ジュネーブのILO本部で、パートナーシップ・現地業務支援局での業務にJPOとして従事されています。現在主にどのような仕事に取り組んでいらっしゃいますか。

ILOパートナーシップ局の主要業務である、開発協力プロジェクト案件に関するドナー政府との協議・拠出金の調整に携わっています。具体的には、5か国政府(日本・韓国・ノルウェー・オーストリア・クウェート)と1機関(国連開発機関アラブ湾岸プログラム(AGFUND))を担当し、これらドナー国政府と相対するILO側のカウンターパートとして、開発プロジェクトの予算金額及び合意内容の交渉・現地プロジェクト実施チームの仲介・プロジェクト実施に向けた本部管理部門(財務部・法務部・人事部等)の連携等を含む対外関係の全体的なコーディネーションを行っています。また、プロジェクトが無事にローンチされた後は、ILO現地事務所側・ドナー政府側の双方と日々連絡を取り、突発的に発生する進捗課題やプロジェクト合意内容の修正・追加等について、両者の仲介役として対策を講じています。

この仕事では、大別すると3つのILO内部関係者「プロジェクト実施主体であるILO各国現地事務所」、「現地事務所に対して技術支援・アドバイザリーを提供するジュネーブ本部の政策専門チーム」、「プロジェクトの財務・法務・人事側面を支援する本部管理部門」全てと関わることが出来るので、世界中で実施されているILO開発協力プログラムの全体像を俯瞰出来る点や、プロジェクトの一連のサイクルを立ち上げからクロージングまで見届けることが出来る点にやりがいを感じています。また、ドナー政府や財団等の対外関係者と協議することで、各国のODA政策や国際協力の方針を垣間見ることが出来る点も非常に興味深い側面です。一方で、日々世界中の関係者と複数の案件を同時に調整する必要があるため、プレッシャーを感じることもあります。突発的な依頼やデッドラインが迫る案件が来ても、関係者誰もが納得する結果となるよう、常に迅速かつ冷静に判断して、最も効率的・効果的な解決策を提示することを心掛けています。

写真1:日本政府・ILO年次戦略協議はコロナ禍の影響によりバーチャルで実施(パートナーシップ局の局長・直属の上司と共に)
 
通常業務と並行して「開発のための資金調達(Financing for Development)」にも従事されていますが、具体的にどのような内容のプログラムなのか教えてください。

国連経済社会理事会の主導により、国連全体で進められている「開発のための資金調達(Financing for Development)」について、ILOパートナーシップ局内部での計画策定・実施を担当し、他の部署(ILOニューヨーク事務所・企業局等)との連携を取りながらイニシアチブを一歩ずつ推進しています。この取り組みでは、SDG2030を最終的な目標として、従来のドナー政府拠出のODAのみならず、それ以外の公的機関・民間企業・財団法人等からの新たな資金調達フローの確立に向けて、政策ガイドライン作成や環境構築を目指しています。様々な国連機関が当イニシアチブを支援・推進する中で、ILOでも2019年の第335回理事会の政策開発部会(Policy Development Section)において取り上げられて以降、SDG目標8番目で定義されているディーセントワーク(権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事)の達成に向けた新たな資金調達の計画案として、ILO開発協力戦略の5か年計画の俎上に載せて協議を続けていました。その後、2021年3月開催の第341回理事会にて、「開発協力戦略2020-25」の実施計画が承認されたため、今後ILOにおける当イニシアチブの体制作りがより本格化する方針です。パートナーシップ局の役割として、具体的には以下の3点を中心に計画しています。

まず第一に、国連事務総長主催の「新型コロナウイルス時代における開発のための資金調達ハイレベル会合」において、途上国における社会的保護やジェンダー平等性の制度確立等、“社会経済的分野”の復興に向けた資金調達の政策案作りについて、ILOがリードを任されています。今後、ILOニューヨーク事務所が中心となり、WHOやUNDP等の複数の国連機関と協議を重ね、最終的に政策案として文書に落とし込む予定です。パートナーシップ局は有識者としてニューヨーク事務所へ助言を提供し、ハイレベル会合における資金調達の政策設定を支援しています。

第二に、トリノにあるILO国際研修センターと連携し、「Financing Decent Work(ディーセントワークに向けた資金調達)」オンラインコースの内容作りから実施までを担当しています。2020年10月に試験的に第1弾を実施し、多くの参加者から前向きなフィードバックを頂きました。今後2021年中に第2弾の実施を計画しています。このコースでは、ILOの理事会を構成する三者(政府・労働者団体・雇用者団体)の参加を募り、開発のための資金調達の概要・ILOとして想定している資金調達に向けた体制作り等の理解を深める研修を実施する予定です。

最後に、途上国の現地レベルで「開発のための資金調達」、或いは開発金融全般の対話・取り組みが進められるよう、現地の政労使三者に向けて知識共有や助言を提供する予定です。今後パートナーシップ局として、どのような支援を通じて現地レベルの活動を推進出来るか、具体的な実施計画の策定に向けて引き続き協議検討が必要であると考えています。

COVID-19により、仕事の世界はあらゆる面で影響を受けています。現在の職務を通じて、この危機を乗り越えるため、どのような取り組みが重要と思われますか。

コロナ禍の影響による雇用・労働の諸問題に対処するため、ILOの各政策分野において様々な開発協力プロジェクト・調査業務・ウェビナー等が実施されています。パートナーシップ局では、各分野の専門チームの活動と横断的に連携しているため、あくまで私見ではありますがILO全体として以下2点の取り組みが重要であると考えています。

第一に、コロナ影響により開発協力では社会的保護(Social Protection)及び雇用政策(Employment Policy)の需要が特に高まっている点です。この2分野の政策局は前述の「開発のための資金調達」ハイレベル会合において主要有識者として言及されており、他の国連機関からも注目が集まっています。また、ドナー政府との関係性の観点より、コロナ禍におけるODA政策の方針転換により、上記2分野に職業安全衛生(Occupational Safety and Health)・持続可能な企業(Sustainable Enterprises)を加えた計4分野への拠出を検討する政府機関が特に目立つ印象を受けています。この点、パートナーシップ局の役割として、これらのILO政策分野の専門チームが提供するそれぞれの強みを活かし、受益者である途上国側とドナー政府側双方の意向に沿う案件を形成出来るよう仲介し、支援していくことが重要であると考えています。

第二に、マルチ・ドナー・ファンド(複数のドナー政府が特定の支援内容を目的とする基金に拠出金をプールする支援形態)の動きがより活発化している点です。国連全体では、2020年にグテーレス事務総長が社会経済的側面の壊滅的影響に対処するためのグローバルファンド(UN COVID-19 Response and Recovery Fund)を立ち上げ、各国政府に拠出金を要請したことが大きなニュースとなりました。ILOの開発協力でも、2020年にノルウェー政府と社会的保護や強制労働に対処するためのファンド立ち上げを合意し、現在他のドナー政府の拠出金プールを計画しています。このように、COVID-19に付随する社会経済的な各課題に対して、より大きなインパクトをもたらす支援を実施する上で、拠出金の規模拡大が必須であると思います。その最も現実的な手段として、各国ドナー政府が他国と合意文書を交わして、プール基金を設立する例が増加している印象を受けています。この点、ILOパートナーシップ局の役割として、今後各国ドナー政府との年次会合や定期的なビデオ会議等を通じてマルチ・ドナー・ファンドへの参加を呼びかけ、拠出金使途(イヤーマーク)の制限緩和による柔軟な開発援助を提案していくことが望ましいと考えています。
写真2:直属の上司(ユニットヘッド)のオフィスにて、今後の開発協力の方針・ドナー政府との関係構築について相談。

エッセーをご覧になる方の中には、将来国際公務員を志望されている方もいらっしゃると思います。普段の業務やプロジェクトを成功させる上で、日々大切にされていることについて教えてください。

国際公務員を志望される方は、どうすれば就職できるのか、入局するためにどのような語学力や学歴・職歴が必要かという点について、非常に気になると思います。しかし実際内部に入ってみると、むしろ入局した後にどのように継続的・持続的に組織に貢献し、評価を得て生き残るかという点の方が遥かに重要な点であると感じています。つまり、「国連への入り方」よりも「国連に入ってからの価値の出し方」を研究して、準備することがより大切であるということです。例えばILOでは、様々な国籍・文化的な背景を持つ職員が同じオフィスで勤務しているため、一つの案件を進めるだけでも意向が合致せずに発散することが日常茶飯事です。このような現場でプロジェクトを前に進めるためには、教科書的な専門知識・ハードスキルのみならず、混沌とした大量情報を交通整備して困難な課題を捌いていく“やり抜く力”や、現場の複雑な人間関係を調整したり、目標に向かって周囲を巻き込んでいくソフトスキル(共感力・コミュニケーション力)が必要不可欠です。

個人的に大切にしている考え方は、「内外の関係者に対して価値を提供することで、信頼を積み重ねる」ことです。この価値(バリュー)のある仕事を目指す姿勢は、担当業務の内容・種別に関わらず、日々の原理原則として振り返るようにしています。具体的には以下の概念を意識しています。①業務・プロジェクトの案件に対して“そもそもなぜこの業務が必要なのか”、”何が問題の根本原因となっているのか“という本質を素早く理解する。②この本質に対応する上で、自分に求められている最低限の役割・期待値を把握する。③その期待値に対して+1でも付加価値を付ける。この期待値に上乗せ出来た差分が自分のパフォーマンスの価値であると考えています。逆に、本質から乖離した枝葉の作業に大量の時間・リソースを投入しても、生み出される価値は相対的に低く、インパクトの小さな結果となってしまいます。常に業務の最も本質的かつ重要な根幹が何であるかを把握し、自分のジョブディスクリプションに定義されている最低限の期待値のみならず、付加価値を上乗せすることを重視しています。その結果、同僚や外部関係者の信頼を得て、ILO開発協力の一端を担っていると実感することが日々のやりがいとなっています。