活躍する日本人職員 第9回: 多田奏恵

  多田 奏恵
  ILO東ヨーロッパ・中央アジア事務所(モスクワ)
  テクニカル・オフィサー



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略歴
2014年から2016年にJPO(雇用政策と職業訓練)としてILOカリブ事務所(トリニダード・トバゴ)に勤務。JPO卒業後、2016年から2018年の同東部・南部アフリカ事務所(プレトリア、南アフリカ)勤務を経て、2018年6月より現職。これ以外には、UNDPサモア事務所でOne-UNサモア若年雇用プログラムに携わり、同駐日事務所ではインターンシップを経験した。また、国連機関に勤務する以前には、JICA青年海外協力隊の村落開発普及員(フィリピンレイテ州メリダ町役場開発計画課に派遣)や、研究機関の研究助手等を経験した。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業(社会学専攻)。コンコーディア大学(カナダ)修士(社会学)。サセックス大学開発学研究所(英国)修士(開発学)。2020年10月より産前・産後休暇取得中。
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現在ILOモスクワオフィスに所属され、テクニカルオフィサーとしてプロジェクトに従事されていますが、具体的にはどのような内容のプロジェクトでしょうか。またどのような使命を任されていますか。
 
「CIS諸国における若年雇用のためのパートナーシップ(Partnerships for youth employment in the Commonwealth of Independent States [YEP-CIS])」は、ロシアの石油会社LUKOILの出資の下、ILOがCIS地域において2013年から実施しているプロジェクトです。その主な目的は、広く持続的なパートナーシップの中で、若年層のためのディーセント・ワークを推進するような政策やプログラムを改善・拡充することにあります。これまでには、アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ロシアのCIS諸国にジョージアを加えた9か国を対象に、労働市場政策強化のための政策提言や、政労使の能力開発、国の若年雇用政策や行動計画と関連プログラムに関する技術支援、パートナーシップ構築支援、などの形で若年雇用分野の支援を実施してきました。その活動は主に(1)CIS地域、(2)国、(3)(国内の)地方、の三つのレベルにおいて実施されてきましたが、2018年初旬に始まったプロジェクトの第2フェーズでは、ロシア、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタンの4か国を国レベルの活動の重点国とするとともに、ロシア国内の3地域を地方レベルの活動重点地域としています。

私はこれまでに、主にCIS地域や重点国に関する分析、プロジェクトの実施状況のモニタリング、関係機関とのパートナーシップ構築や、政労使、特に公共雇用サービス(Public Employment Services)機関職員の会議の実施などに携わってきました。また、プロジェクトの枠を越え、広くパートナーシップ構築や資金調達、管轄国における他の国連機関との調整業務等に参加することもあります。加えて、COVID-19が広がり始めてからは、CIS地域や周辺の国々における雇用や労働分野の関連政策について情報収集・分析をすることも私の大切な業務の一つとなっています。


写真1:YEP-CISプロジェクトでは、仕事の未来や、COVID-19の仕事に与える影響といったテーマで、若手研究者や学生の議論を推進することもしています。写真はモスクワ大学と共に開催した仕事の未来に関する会議にて。(筆者は前列右から3人目)

特に印象に残っている職務経験があれば教えてください。


さまざまな経験が印象に残っていますが、ここではロシアの国家プロジェクトとの連携について触れたいと思います。ロシアでは、2024年までの内政目標の達成に向け、2019年より13分野に渡る包括的で大規模な国家プロジェクトが実施されてきました。その一部として、労働社会保障省は国全体の公共雇用サービスの改革を進めています。YEP-CISプロジェクトは、これを技術的に支援する形で、公共雇用サービスと仕事の未来に関するマニュアルを作成し、さらに労働社会保障省やその傘下の労働・雇用庁(ROSTRUD)と連携しながらこのマニュアルに基づいたトレーニングを公共雇用サービスの職員を対象として実施してきました。大規模な国家プロジェクトにILOの取り組みがどう貢献できるのかということやその具体的プロセスは私にとっては興味深いものでしたし、一方で、そのようなプロジェクトと足並みを揃えることは時に簡単ではないと感じることもありました。COVID-19の蔓延により、ロシアの国家プロジェクトは当初の計画の延長を余儀なくされるかもしれませんが、YEP-CISプロジェクトとの連携とそれによる相乗効果を引き続き期待したいと思います。

現在従事されているプロジェクト達成に向けて掲げている目標を、日本の状況にも当てはめて考えることはできますか。あるとすればどのような点でしょうか。
 
YEP-CISプロジェクトの目標は若者のためのディーセント・ワークを推進することにありますが、これは日本にとっても重要な視点と言えると思います。日本の若年失業率は他国に比べて高いものではありませんが、新卒一括採用と終身雇用といった旧来の採用・雇用制度が崩れジョブ型雇用が増加しつつある中で、職務経験が無いか少ない状態で労働市場の競争に参入しなければならない若者の就職は、今後より難しいものになっていくのではないでしょうか。また、現在多くの若年労働者が非正規雇用の形で不安定な条件の下で働いていることからも、若年層のためのディーセント・ワークの推進は、日本においても軽視できないテーマの一つと考えられると思います。

加えて、YEP-CISプロジェクトでは、若年層のみならず、女性や障がい者、田舎に住む人々や高齢者など、労働市場で弱い立場にある他の人達にも焦点を当てて活動をしてきました。こうした、より広い視点から見た弱者のディーセント・ワーク推進も、女性の活躍推進や増加する高年齢者の雇用対策に取り組む日本に通じる目標だと思います。

COVID-19の蔓延により、仕事の世界はあらゆる面で影響を受けています。現在、従事されている職務を通じて、この危機を乗り越えるため、どのような取り組みが重要と思われますか。

コロナ禍では、日本でも女性や若者が多くを占める非正規雇用者が解雇されたり収入減に直面したりしていますが、このように経済危機の際に特に大きな影響を受けるのは労働市場における弱い人達だからこそ、そうした弱者に焦点をあてることは現在一層重要になっていると思います。

このような中、失業者や失業のリスクの高い人たちの次の仕事への移行を手助けする雇用サービスの重要性は増していますが、特に、社会的保護と合わせて雇用サービスが提供されることは、雇用サービスの効果を十分に上げるために重要です。収入が途絶えたりした結果貧困に陥ってしまっては、生活に精一杯で、キャリアガイダンスや職業訓練といった雇用サービスのプログラムを完了できなくなるリスクが高まるからです。生活保護のような社会扶助プログラムからの自立を効果的に促すためにも、この二種類の政策のより密接な連携に向けた取り組みは重要だと思います。 

また、ILOは4つの柱から成るCOVID-19危機への取り組みのための政策枠組み を提示していますが、この危機を乗り越えるためには仕事の世界に関する様々な専門分野を含む包括的な取り組みが必要なことは言うまでもありません。

最後になりますが、エッセーをご覧になる方の中には、将来国連職員としてのキャリアを志望されている方もいらっしゃると思います。これまでのご経験を通して大切にされてきたこと、また仕事の未来を考える上で、今後の展望について教えてください。
 
自身の職業人生を通してどういった開発課題にどのように取り組んでいきたいかという考えを、大まかで良いので、常に持っておくことが大切だと思います。国連職員としてのキャリアを志すということについては、他の方々も言われていることかと思いますが、まず自身が国際協力の中のどのような分野でどういう形で貢献していきたいかということを見定め、その一つの手段として国連の一機関での仕事を志すというのが理想的な形ではないかと思います。自分の扱う分野や課題に対する気持ちは、職務に取り組むだけでなく、自身の専門性を高めていく上でも良いエネルギーになります。

仕事の未来に関する議論の中では、一人の職業人生を通し経験する組織や仕事は旧来は一つだけというのが一般的だったのに対し今後その数は増えていくだろう、ということが頻繁に触れられます。これはこれからの日本についても同じかと思います。そのような変化の中では特に、どういう課題にどう取り組んでいきたいかという長期的視点が、良い羅針盤となってくれるのではないでしょうか。


写真2:ロシアのUNグローバルコンパクトネットワーク主催の「2020持続可能な協力フォーラム」にて。(筆者は右から2人目)Photo: Yarolsav Nikitin, Darya Nikitina (Shlykova)