1975年の人的資源開発条約(第142号)

ILO条約 | 1975/06/23

人的資源の開発における職業指導及び職業訓練に関する条約(第142号)
(1986年6月10日批准登録)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十五年六月四日にその第六十回会期として会合し、
 その会期の議事日程の第六議題である人的資源の開発(職業指導及び職業訓練)に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百七十五年の人的資源開発条約と称することができる。)を千九百七十五年六月二十三日に採択する。

第 一 条

1 加盟国は、特に公共職業安定組織を通じて雇用と密接に関係付けられる職業指導及び職業訓練に関する包括的なかつ調整された政策及び計画を採用し、及び発展させる。
2 1の政策及び計画は、次の事項に妥当な考慮を払うものとする。
 (a) 地域的及び全国的な求職状況、雇用機会及び雇用問題
 (b) 経済的、社会的及び文化的発展の段階及び水準
 (c) 人的資源の開発の目的と他の経済的、社会的及び文化的目的との間の相互の関係
3 1の政策及び計画は、国内事情に適する方法によつて遂行する。
4 1の政策及び計画は、個人が労働環境及び社会環境を理解する能力並びに個人が個別的又は集団的にこれらの環境に影響を及ぼす能力の向上を図るものとする。
5 1の政策及び計画は、すべての者が社会の必要に考慮を払いつつ自己に最も有利にかつ自己の希望に従つて職業能力を開発し及び活用することを、平等の基礎の上にかついかなる差別もなく、奨励し及び可能にするものとする。

第 二 条

 加盟国は、前条に定める目的のため、一般教育、技術教育、職業教育、教育指導、職業指導及び職業訓練(これらの活動が学校教育の制度の下で行われるものであるかないかを問わない。)に関する開放的、弾力的かつ補完的な制度を設け、及び発展させる。

第 三 条

1 加盟国は、包括的な情報及びできる限り広範な指導がすべての児童、年少者及び成人の利用に供されることを確保するため、職業指導(雇用情報の継続的な提供を含む。)の制度(すべての心身障害者のための適当な計画を含む。)を漸進的に拡充する。
2 1の情報及び指導は、職業選択、職業訓練及びこれに関連する教育の機会、雇用の状況及び見通し、昇進の見通し、労働条件、労働安全衛生並びに経済活動、社会活動及び文化活動の各種の部門並びに職責のすべての段階における職業生活の他の側面に関するものとする。
3 1の情報及び指導は、労働協約の一般的側面並びに労働に関する法令に基づくすべての関係者の権利及び義務の一般的側面に関する情報により補足する。この情報は、関係のある労働者団体及び使用者団体のそれぞれの機能及び任務を考慮に入れて国内法及び国内慣行に従つて提供される。

第 四 条

 加盟国は、経済及び経済活動のすべての部門並びに技能及び職責のすべての段階において年少者及び成人の生涯にわたる職業訓練の必要を満たすため、職業訓練の制度を漸進的に拡充し、適応させ、及び調和させる。

第 五 条

 職業指導及び職業訓練に関する政策及び計画は、使用者団体及び労働者団体と協力し並びに適当な場合には国内法及び国内慣行に従つて他の関係団体と協力して、策定し、及び実施する。

第 六 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 七 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 八 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 九 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 一 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 ニ 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第八条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 三 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。