ILOヘルプデスク:団体交渉に関するQ&A

企業はいかにして団体交渉権を支持できるか

1.企業にとって、なぜ団体交渉は大切なのでしょうか。
2.労使関係の当事者が、団体交渉プロセスの一環として協約を締結することは、なぜ重要なのですか。
3.企業はどのようにして団体交渉権を支持できるのでしょうか。
4.企業は「団体交渉の推進」の原則に則って団体交渉を推進又は尊重する責任を負いますか。企業はこの原則をどれだけ積極的に推進しなければなりませんか。従業員から要請があった場合に団体交渉に応じれば十分ですか。それとも、自社の従業員のみならずサプライチェーンにおいても、団体交渉を推進しなければならないのですか。

成熟した労使関係構築

5.労使関係に関する手続を定める上での指針、より具体的には、成熟した労使関係構築のために必要な要素とメカニズムについて教えてください。
6.「誠実」に交渉するとは、どういう意味ですか。
7.使用者は、自社の労働者をその構成員とする労働組合をいずれも承認し、交渉しなければならないのですか。
8.団体交渉はどのレベルで行うべきですか。

団体交渉の対象範囲

9. 国際労働基準は、賃金を団体交渉の対象とすべきか否かに関し、指針を提供していますか。この問題に関し、多国籍企業による最良事例を取りまとめた資料はありますか。
10.会社のリストラクチャリングや売却のプロセスに対する労働者代表の関与は、団体交渉の対象範囲に含まれますか。
11.団体交渉では、どのような主題を対象にできますか。
12.団体交渉においてどのような情報が労働者の代表と共有されるべきですか。

ストライキ権

13.ILOの基準にストライキ権は含まれますか。Q14
14.自社の業務がストライキ権の制限の対象となる「不可欠な業務」に当たるかどうかは、どうすれば分かりますか。その場合、労働者のストライキ権はどうなりますか。
15.企業が閉鎖、売却又は民営化された場合、労働協約に基づく労働組合の諸権利が一定期間、有効であるか否かについて規定したILO条約はありますか。


Q1.企業にとって、なぜ団体交渉は大切なのでしょうか。

A1.団体交渉は、労働条件及び雇用条件、並びに、労使関係又は労使団体の関係について建設的に議論する場です。団体交渉はしばしば、国家による規制よりも効果的かつ柔軟な手段となります。また、潜在的な問題を予期することに役立つとともに、このような問題について取り組み、労使双方の優先課題とニーズを考慮した解決策を見出すための平和的なメカニズムの促進にもつながることがあります。健全な団体交渉は、経営者と労働者の双方にとって利益となり、これによって平和と安定が促進されれば、社会全体の利益にもなります。また、団体交渉は重要なガバナンスの手段ともなりえます。労働者が自らに直接影響する決定に関与することで、その理解と同意を促す手段になるからです。

団体交渉は、労働条件を決定し、労使及び労使団体間の関係を規制するために用いられる自主的なプロセスで、その結果として締結されるのが労働協約です。団体交渉には、紛争や衝突ではなく、対話と合意を通じて問題を解決するという利点があります。

結社の自由と団体交渉権の行使は、対立的ではなく建設的な対話の機会を提供し、これが企業とその利害関係者、ひいては社会全体にとって有益な解決策へとエネルギーを集中させることになるのです。


Q2. 労使関係の当事者が、団体交渉プロセスの一環として協約を締結することは、なぜ重要なのですか。

A2. 2009年の団体交渉に関するILOハイレベル三者協議では、団体交渉の重要な利点が多く明らかにされました。企業にとっては、以下の利点があります。
  • 団体交渉プロセスを通じ、労使双方がその利益を主張することで、共通の利益を明らかにし、異なる利益を相互にバランスさせ、妥協点を見つけるべく交渉することが可能になります。例えば労働時間に関し、いくつかの国では、ワーク・ライフ・バランスを図りたいという労働者の利益と、柔軟な労働時間配分と超過勤務費用削減を図りたいという使用者の利益を調整するために、団体交渉が用いられています。誠意をもって交渉プロセスに臨むことで、団体交渉の成果は公正であるとみなされる可能性が高くなり、また、個別の交渉や片務契約による結果よりも公平なものとなります。このことは、労働者のやる気、安定性及び生産性という点で企業に利益をもたらす一方、労働者にとっても、賃金と労働条件の改善という利益があります。
  • 労働者は団体交渉を通じ、生産性向上のより大きな取り分を賃金として受け取る傾向にあります。このことが社内の協力体制と生産性を向上させ、経済全体の需要拡大に貢献します。
  • 団体交渉は、制度化された合意に基づく紛争解決方法を提供することにより、労使関係の風土を改善します。労働協約は、その有効期間内の平和義務条項と、苦情に対処するための申立手続を定めることがあります。これによって、労使関係をさらに安定化、健全化することができます。
  • 団体交渉は、労使関係を律する規則に正当性を与えます。労働条件と雇用条件が交渉の対象となっている場合、これらが遵守される公算は大きくなります。
  • 団体交渉により、両当事者は、該当する産業又は企業に特有の事情に合わせて雇用関係を律する労働協約を締結できるようになります。また当事者は、その業界または職場に固有の問題を解決できるようにもなります。景気低迷時や、技術的・組織的な変革を行う際には、労働者をリスクから守り、望まれる結果を実現できるような形で、企業の適応能力を促進できるような合意が、当事者間で成立する例も見られます。
Q3.企業はどのようにして団体交渉権を支持できるのでしょうか。

A3. 企業は様々なレベルで行動できます。

職場では、以下の対応が可能です。
  •  実効的な労働協約の策定を支援するために、労働者の代表に適切な便宜を供与すること。その中には、給与や諸手当の減少を伴うことなく、その代表機能を遂行したり、労働組合の会合に出席したりするために必要な時間だけ、業務を離れる許可を与えることが含まれます。
  • 団体交渉の当事者となる代表的な労働組合を承認すること。使用者が労働組合の承認や団体交渉への関与を拒めば、労働者が団体交渉のために団体を結成したり、これに加わったりする権利は実現できません。
  • 有意義な交渉に必要な情報を提供すること。この情報は、労働者の代表が自社の業績に関し、真実かつ公正な見解をもち得るものとすべきです。
団体交渉の場では、以下の対応が可能です。
  • 労働組合の代表に対し、団体交渉における会社側の実質的な意思決定権者へ働きかける機会を与えること。
  • 誠実に交渉すること。両当事者が誠実な姿勢で交渉に臨まなければ、団体交渉は事実上、機能しません。
  • リストラや訓練、余剰人員解雇の手続、安全衛生上の問題、苦情申立と紛争解決の手続及び懲戒規則を含め、労使が利害を有する問題解決その他のあらゆるニーズに取り組むこと。
事業を営む先の地域社会では、以下の対応が可能です。
  • 特に労働組合の承認及び団体交渉のための適切な制度的及び法的枠組みのない国においては、労使関係の風土を向上させるための対策を講じること。
Q4.企業は「団体交渉の推進」の原則に則って団体交渉を推進又は尊重する責任を負いますか。企業はこの原則をどれだけ積極的に推進しなければなりませんか。従業員から要請があった場合に団体交渉に応じれば十分ですか。それとも、自社の従業員のみならずサプライチェーンにおいても、団体交渉を推進しなければならないのですか。

A4. ILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(「多国籍企業宣言」)は、企業が「1998年に採択された労働における基本的原則及び権利(FPRW)に関するILO宣言とそのフォローアップの実現に貢献すべき」ことを定めています[1]。FPRWは、結社の自由と団体交渉権のほか、児童労働、強制労働及び差別禁止に関するその他の「中核的労働基準」を尊重することの重要性を指摘しています。企業はまた「国内法及び受諾した国際的義務に従い ながら、その自由になした約束を尊重すべき」でもあります[2]。サプライチェーンにおいて団体交渉権の承認を奨励することは、1998年宣言の実現に貢献する効果的な手段となりえます。

ILO多国籍企業宣言は、労使関係に関する章で、企業の労使双方の代表が、労働協約を通じ、賃金と雇用条件に関して交渉することの重要性を次のように説明しています。「多国籍企業に雇用される労働者は、国内法令及び慣行に従い、自らの選択により、団体交渉の目的で認定された代表的団体を有する権利を持つべきである。」[3]

誠実性という要素は、団体交渉のプロセスで重要な側面となっています。誠実に交渉に臨むことのねらいは、相互に受入可能な労働協約を成立させることにあります。協約が成立しない場合、調停からあっせん、仲裁に至るまで、幅広い紛争解決手続を利用することが考えられます。

ILO多国籍企業宣言は、国際労働基準に根差し、多国籍企業と国内企業の双方に適用できるもので、労使及び政府の国際的な合意を反映し、すべての企業にとっての好ましい慣行を示すと考えられています[4]。

政府には、団体交渉権を保護する責任があります。「労働協約により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者又は使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続の十分な発達及び利用を奨励かつ促進するため、国内事情に適する措置がとられるべき」です[5]。

[1] ILO多国籍企業宣言第9項
[2] ILO多国籍企業宣言第8項
[3] ILO多国籍企業宣言第55項
[4] ILO多国籍企業宣言第5項
[5] ILO多国籍企業宣言第56項

Q5.労使関係に関する手続を定める上での指針、より具体的には、成熟した労使関係構築のために必要な要素とメカニズムについて教えてください。

A5. ILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(「ILO多国籍企業宣言」)は、成熟した労使関係の発展のための有用な枠組みを企業に提供しています。

多国籍企業宣言は、国際労働基準に根差し、雇用、訓練、労働・生活条件、労使関係などの分野における労使及び政府の国際的合意を反映しています。

多国籍企業宣言に含まれる原則は、多国籍企業と国内企業の双方に適用でき、かつ、すべての企業にとっての好ましい慣行を反映しています[1]。

多国籍企業宣言の労使関係に関する部分は、成熟した労使関係システムにつき、以下の5要素を定めています。

1.    結社の自由と団結権を承認することの重要性
2.    団体交渉の推進
3.    協議とコミュニケーション
4.    苦情の審査・解決手続
5.    労働争議の解決手続

これらの要素をそれぞれ敷衍すると、以下のようになります。

1. 結社の自由と団結権を承認することの重要性

企業で雇用される労働者は、使用者又は経営者、さらには政府当局のいずれによる介入もなく、自ら選択する団体を設立し、これに加入する権利があります[2]。

労働者の結社の自由には、労働組合への参加に関連する差別待遇からの保護も含まれています[3]。

労働者の代表は、企業活動の機能を阻害しない限り、互いに協議し意見交換するために会合することを妨げられるべきではありません[4]。

労働者の代表には、当該企業の規模及び能力を考慮したうえで、その任務を迅速かつ能率的に遂行できるように、適切な便宜が与えられるべきです[5]。

2. 団体交渉の推進

国内法令及び慣行に従い、企業の労使双方の代表が労働協約を通じ、賃金及び雇用条件の規制に関して自主的に交渉できるような措置をとるべきです[6]。

労働者には、団体交渉を行うための代表を選出する権利があります[7]。

交渉プロセスへの実質的な参加を促進するため、労働者の代表に対しては、交渉の準備を行えるよう便宜を供与すべきです[8]。

交渉を有意義なものとするために、交渉事項に関する決定権限を与えられた企業の代表によって、交渉が行われるべきです[9]。

交渉プロセスでは、威嚇や脅しを用いるべきではありません。

労働者の代表には、企業の実績に関する真実かつ公正な見解を持ち得るような情報を含め、有意義な交渉をするのに必要な情報を提供すべきです[10]。

労働協約は、その解釈及び適用をめぐって生じる紛争を解決し、相互に尊重された権利及び責任を確保するためのメカニズムを盛り込むべきです[11]。

3. 協議とコミュニケーション

労使及びその代表者間で、双方の関心事項についての定期的な協議を行うためのメカニズムに合意すべきです[12]。

協議は、団体交渉に代わるものとみなすべきではありません。

協議には、特に雇用に影響しかねない場合に、労働者とその代表者が組織内で下される決定に影響力を及ぼす機会を確保するために行う、真正な意見と情報の交換が含まれます[13]。

コミュニケーションの方針を定める場合には、従業員の規模、構成及び利益に沿ったものとすべきです[14]。

コミュニケーションは、次の者の間において真正かつ規則的に、双方向で行うべきです。
(a)    経営者の代表(社長、部長、職長など)と労働者との間
(b)    社長、人事部長その他経営幹部の代表者と労働組合の代表者又は国内法令若しくは慣行または労働協約に基づき企業内で労働者を代表する者との間

経営者が労働者の代表者を通じて情報を伝達することを希望するときは、これらの代表は、情報を迅速かつ完全に関係労働者に通報する手段が与えられるべきです。

伝達すべき情報及びその伝達の方法は、企業の活動の複雑性に応じて、相互の理解に基づき決定すべきです。

経営者が与える情報は、当該情報の開示が両当事者にとって損害を与えない限り、企業の運営及び将来の見通し並びに労働者の現在及び将来の状況に関する事項で労働者が関心を有するものをできる限り含むべきです。

伝達内容に関し、経営者は以下に関する情報を提供すべきです[15]。

(a)    雇入れ、配置転換及び雇用の終了を含む一般的な雇用条件
(b)    職務記述及び企業の組織内における個々の職務遂行の場所
(c)    企業内における訓練の可能性及び昇進の見通し
(d)    一般的な労働条件
(e)    労働安全衛生規則並びに災害及び職業病の予防のための指示
(f)    苦情審査手続、その手続の運用に関する規則及び慣行並びにその手続を利用するための条件
(g)    労働者福利厚生(医療、保健、食堂、住宅、余暇、貯蓄及び社内金融など)
(h)    企業内の社会保障制度又は社会扶助制度
(i)    労働者が企業に雇用されていることにより適用を受ける国の社会保障制度に関する規制
(j)    企業の概況及び将来の発展の見通し又は計画
(k)    企業における労働者の状態に直接又は間接に影響を及ぼすと思われる決定についての説明
(l)    経営者及びその代表者と、労働者及びその代表者との間における協議と討議及び協力の方法

労使間の交渉の対象となっているか、労働協約に盛り込まれている問題の場合、情報提供の際にその旨を明確に示すべきです。

4. 苦情の審査・解決手続[16]

苦情又は懸念を申し立てる労働者の権利が尊重され、労働者が不利益を被ることなく、苦情を申し立てられるようにすべきです。

また、苦情を申し立てるための手続を定めるべきです。この手続では、紛争を迅速に、かつ、可能な限り社内の現場に近いレベルで解決することを目指すとともに、問題が解決しない場合、より高いレベルに上訴できる機会を設けるべきです。

苦情申立手続の確立と運営について、詳しくは、1967年の苦情審査勧告(第130号)をご覧ください。

5. 労働争議の解決手続

企業は労働者団体の代表と連携し、労使間の労働争議の予防及び解決を補助するため、任意調停又は仲裁手続を確保すべきです[17]。

上記の5つの要素は、成熟した労使関係を構築するための枠組みとなります。

企業内での相互の理解及び信頼の雰囲気は、企業の能率及び労働者の向上心の双方にとって好ましいものです[18]。

ILO多国籍企業宣言に掲げられたこれらの原則を守ることは、国際労働基準に従った労使関係の構築に役立ちます。

最後に、サプライヤーにとっても、国内の労使団体とのやり取りが極めて有用となることがあります。事業を営む国での労使関係の動向に関し、詳細な情報を得られるからです。

[1] ILO多国籍企業宣言第5項
[2] 1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)第2条
[3] 1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)第1条第1項
[4] ILO多国籍企業宣言第53項
[5] 1971年の労働者代表勧告(第143号)第9項
[6] ILO多国籍企業宣言第56項1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)第4条
[7] ILO多国籍企業宣言第55項
[8] ILO多国籍企業宣言第57項、1971年の企業における労働者代表に与えられる保護及び便宜に関する条約(第135号)
[9] ILO多国籍企業宣言第58項
[10] ILO多国籍企業宣言第61項、1967年の企業内における経営者と労働者との間のコミュニケーションに関する勧告(第129号)
[11] ILO多国籍企業宣言第60項、1971年の労働者代表条約(第135号)第2条
[12] ILO多国籍企業宣言第63項
[13] 1982年の雇用終了条約(第158号)1982年の雇用終了勧告(第166号)
[14] 1967年の 企業内における経営者と労働者との間のコミュニケーションに関する勧告(第129号)
[15] 1967年の企業内コミュニケーション勧告(第129号)第15(2)項
[16] ILO多国籍企業宣言第66項
[17] ILO多国籍企業宣言第68項
[18] 1967年の企業内コミュニケーション勧告(第129号)第2項

Q6.「誠実」に交渉するとは、どういう意味ですか。

A6 団体交渉は自主的、自由かつ誠実に行うべきです。当事者には、交渉を行う自由があり、その決定を下すうえで、当局による干渉を受けるべきではありません。誠実の原則には、当事者が合意に達するためあらゆる努力を尽くし、真正かつ建設的な交渉を行い、交渉の不当な遅滞を回避し、締結された協約を尊重して、これを誠実に適用するとともに、労働争議について議論を行い解決するための十分な時間を確保するという意味があります。多国籍企業は、交渉に不当な影響力を行使するために、事業単位の全部又は一部を当該国から移転するという脅しをかけるべきではありません。

Q7.使用者は、自社の労働者をその構成員とする労働組合をいずれも承認し、交渉しなければならないのですか。

自ら選択する団体を自由に設立し、これに加入する労働者の権利は事実上、既存の団体から独立した団体を結成する可能性を示唆します。ILO結社の自由委員会によると、その中には、労働者が各企業において複数の労働者団体を創設する権利が含まれます。

また、労働協約の自主的交渉は、結社の自由の根本的側面であり、その中には、協調的な労使関係を維持するために、誠実に交渉を行う義務が含まれます。使用者も労働組合も、誠実に交渉に臨み、合意に達するためにあらゆる努力を尽くすべきです。真正かつ建設的な交渉は、当事者間の信頼関係を確立、維持するために必要な要素だからです。

しかし、結社の自由があるからといって、労働組合が自動的に交渉相手として認識されるわけではありません。特に、多数の労組が存在する制度においては、いつ、どのようにして労組を団体交渉の相手として認識すべきかを決定するため、労使関係制度内で運用できる客観的な基準を予め定める必要があります。いくつかの制度では、組合員の数が社内労働者の一定比率以上であるかどうかに基づき、この決定が下されています。また、職場での直接投票や、労働省又は独立の法定機関など、外部の認証機関によって決定が下されることもあります。

Q8.団体交渉はどのレベルで行うべきですか。

A8 団体交渉は企業レベルでも、部門又は業種レベルでも、全国又は中央レベルでも行うことができます。どのレベルで団体交渉を行うかは、当事者に委ねられれています。ILO結社の自由委員会によると、交渉レベルは本質的に、当事者の裁量によって決定すべき問題です。

Q9. 国際労働基準は、賃金を団体交渉の対象とすべきか否かに関し、指針を提供していますか。この問題に関し、多国籍企業による最良事例を取りまとめた資料はありますか。

A9. ILO結社の自由委員会は、賃金、給付及び諸手当が団体交渉の対象となりえると結論づけています[1]。

多国籍企業の好事例については、ILO多国籍企業宣言に以下の提言があります。

「多国籍企業は、他に類似の使用者が存在していない発展途上国で活動するときには、政府の政策の枠内で、できる限りよい賃金、給付及び労働条件を提供すべきである。これらは当該企業の経済的地位に関係することであるが、少なくとも、労働者及びその家族の基本的ニーズを充足するに十分なものであるべきである。」[2]

ILO多国籍企業宣言は、本国と受入国の政府に対し、多国籍企業とその従業員との間の団体交渉を促進するよう奨励しています。「特に発展途上国において、政府は、低所得層や低開発地域が多国籍企業の活動からできるだけ多くの利益を得ることを確保するべく適切な方策を講じるように努めるべき」とされています[3]。 多国籍企業宣言はまた「労働協約により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者又は使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続の十分な発達及び利用を奨励かつ促進するため、国内事情に適する措置」をとるべきことも定めています[4]。

[1] 「ILO Digest of decisions and principles of the Freedom of Association Committee of the Governing Body of the ILO(第5版)」ILO、ジュネーブ(2006年)第913項参照
[2] ILO多国籍企業宣言第41項
[3] ILO多国籍企業宣言第42項
[4] ILO多国籍企業宣言第56項

Q10. .会社のリストラクチャリングや売却のプロセスに対する労働者代表の関与は、団体交渉の対象範囲に含まれますか。

A10. 含まれます。団体交渉はリストラクチャリングを含め、労働条件を定めるために行うものです。労働協約を締結する場合には、交渉当事者が具体的な規定に合意しなければなりません。企業が労働者、その雇用条件又はその雇用全般に影響を及ぼす公算が大きい変革を検討している場合、協議や情報提供、労働者とその代表の討議への関与に関する規定を盛り込むことは、一般的に行われています。

Q11.団体交渉では、どのような主題を対象にできますか。

A11. 団体交渉は自主的なプロセスであり、自由かつ誠実に行わなければなりません。その内容は、労働と雇用に関するあらゆる条件に及びうるほか、労使間の関係と労使団体間の関係を律することもあります。何を交渉事項にするかは交渉当事者が決定します。ILO結社の自由委員会が特定した団体交渉の内容には、賃金、給付と諸手当、労働時間、年次休暇、余剰人員解雇の際の選別基準、労働協約の対象範囲及び労働組合への便宜供与が含まれています。しかし、政府が経済安定化政策を導入する場合には、賃金率などに関し、交渉の対象とできる事項を厳しく制限することもできます。この場合の制限は、例外的措置として、必要な限度においてのみ導入すべきです。

Q12.団体交渉においてどのような情報が労働者の代表と共有されるべきですか。

A12 以下の一覧は、経営者が共有すべき情報の例を示したものです。
  • 雇入れ、配置転換及び雇用の終了を含む一般的な雇用条件
  • 職務記述及び企業の組織内における個々の職務遂行の場所
  • 訓練の可能性及び昇進の見通し
  • 一般的な労働条件
  • 労働安全衛生規則並びに災害及び職業病の予防のための指示
  • 苦情審査手続、その手続の運用に関する規則及び慣行並びにその手続を利用するための条件
  • 労働者福利厚生(医療、保健、食堂、住宅など)
  • 社会保障制度又は社会扶助制度
  • 労働者が企業に雇用されていることにより適用を受ける国の社会保障制度に関する規制
  • 労働者の状態に直接又は間接に影響を及ぼすと思われる決定についての説明
  • 経営者と労働者との間における協議と討議及び協力の方法
Q13.ILOの基準にストライキ権は含まれますか。

A13. ILO第87号条約はストライキ権に明示的には触れていません。しかし、結社の自由委員会を含むILO の監視機構はしばしば、ストライキ権が労働者の基本的権利であるとともに、労働者がその経済的、社会的利益を正当に促進、擁護できる主な手段でもあることを明言しています。

しかし、ストライキ権は絶対的なものではありません。法令により、ストの実施を問う投票や事前通告、事前の調停手続又はあっせんを要求するなど、この権利の行使に条件が課されることもあります。さらに、以下の類型の労働者が関係する場合、または以下に掲げる状況においては、ストライキ権が制限されることもあります。
  • 重大な国家的危機の場合
  • 国防と警察の構成員
  • 国家に代わり権限を行使する公務員
  • その中断が国民全体又はその一部の生命、安心及び安全を危険に晒しかねないものなど、不可欠な公益事業で雇用される労働者。例えば病院、電力供給システム、給水システム、電話ネットワークシステム及び航空管制官は、不可欠な業務を行っています。
Q14.自社の業務がストライキ権の制限の対象となる「不可欠な業務」に当たるかどうかは、どうすれば分かりますか。その場合、労働者のストライキ権はどうなりますか。

A14. ILOの法体系は、ある業務の中断が国民全体又はその一部の生命、身体の安全又は健康を危険に晒しかねない場合、当該業務を不可欠な業務と定義しています[1]。

以下は不可欠な業務とみなされる可能性があります[2]。
  • 病院部門
  • 電気事業
  • 水道事業
  • 電話事業
  • 警察・国防
  • 消防事業
  • 官民の行刑事業
  • 学校給食・清掃関係事業
  • 航空管制業務

何が不可欠な業務に当たるのかは、当該国に固有の状況に大きく左右されるため、国内法を参照することが重要となります[3]。

各国政府は、不可欠な業務についてストライキを禁止することができますが[4]、これらの業務でも、病院の敷地を維持管理する庭師など、一定類型の労働者は、その具体的な機能が不可欠でない場合、ストライキ権を認められるべきです[5]。

以下は通常、不可欠な業務に当たりません[6]。
  • ラジオ・テレビ
  • 石油部門
  • 港湾
  • 銀行
  • 消費税及び物品税徴税のためのコンピューター業務
  • 百貨店及び遊園地
  • 金属・鉱業部門
  • 輸送全般
  • 航空機のパイロット
  • 燃料の生産、輸送及び流通
  • 鉄道事業
  • 都市交通
  • 郵便事業
  • ごみ収集事業
  • 冷蔵・冷凍事業
  • 宿泊業
  • 建設
  • 自動車製造
  • 農業活動と食料の供給・流通
  • 造幣
  • 政府印刷事業、並びに、アルコール、塩及びたばこの専売事業
  • 教育部門
  • ミネラルウォーター瓶詰事業
しかし、ストライキが一定期間以上継続するか、一定の範囲を越えて拡大し、国民の全体または一部の生命、身体の安全又は健康が危険に晒される場合には、ごみ収集のような不可欠でない業務が不可欠とみなされることもあります[7]。

都市交通やフェリー事業などの公益事業が根本的な重要性を帯びるとみなされる場合には[8]、ストライキ中に最低限の業務を確保することも認められます。

最低限の業務によってストライキの影響が限定され、事実上骨抜きにならないようにするため、政府は最低限の業務とこれに必要な労働者の数を決定する際、関連の労使団体と協議すべきです[9]。

こうした最低限の業務の決定において意見の相違がある場合、労働省や関係する省庁又は(公共)事業体ではなく、独立の機関が解決すべきです[10]。

労働者がストライキ権の行使を禁止又は制限される場合には、あらゆる段階で関係当事者を関与させ、下された裁定が全面的かつ直ちに実施されるような適切かつ十分で、中立的かつ迅速な調停・仲裁手続を導入すべきです[11]。

[1] 「ILO Digest of decisions and principles of the Freedom of Association Committee of the Governing Body of the ILO(第5版)」ILO、ジュネーブ(2006年)第576項参照
[2] 同書、第585項
[3] 同書、第582項
[4] 同書、第576項
[5] 同書、第593項
[6] 同書、第587項
[7] 同書、第582項
[8] 同書、第606項
[9] 同書、第612項
[10] 同書、第613項
[11] 同書、第596項

Q15.企業が閉鎖、売却又は民営化された場合、労働協約に基づく労働組合の諸権利が一定期間、有効であるか否かについて規定したILO条約はありますか。


A15. ご質問の内容に直接対応する国際労働基準はありません。

しかし、結社の自由や団体交渉に関する法体系は「企業の閉鎖はそれ自体、特に解雇の場合における補償に関し、労働協約に起因する義務を消滅させるものではない」と定めています[1]。

ほとんどの国は、閉鎖又は所有権移転の場合に関し、労働組合の承認継続、及び、労働協約が存在する場合、それが引き続き有効か否かを法令で定めています。国によっては破産など、所有権移転をめぐる状況を考慮しつつ、法令の適用にある程度の柔軟性を持たせている場合もあります。

当該国の国内労使団体は、国内法と国内慣行に関し、さらに詳しい情報を提供できる可能性があります。

[1] 前掲書、第1059項