多国籍企業宣言

ILO理事会が画期的多国籍企業宣言を改定

記者発表 | 2017/03/17

 現在ジュネーブで開催中の第329回ILO理事会は、1977年に採択された「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」を改定しました。宣言は、雇用、訓練、労働・生活条件、労使関係、一般方針の諸分野にわたり、多国籍企業のみならず、国内企業、政府、労使団体に対し、就労に係わる基本的な原則及び権利をはじめとした、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の様々な側面についての手引きを示しています。

 最初の採択から40年の月日が流れていますが、多国籍企業は依然としてグローバル化の中心的な推進要素であり続けており、その活動は世界中の人々の労働・生活条件に影響を与える可能性があり、経済・社会の進歩を促進する極めて重要な役割を演じ続けています。今回の改定は、新たな国際労働基準や2011年に国連人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」、2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」など、2006年の前回の改定以降にILO内外で起こった展開を考慮に入れると共に、国際投資・貿易の拡大やグローバル・サプライチェーン(世界的な供給網)の成長といった経済の新たな現実に応えるものとなっています。

 今回の改定によって、社会保障、強制労働、インフォーマル(非公式)からフォーマル(公式)経済への移行、賃金、労働災害被災者・職業病罹患者への補償、人権侵害を受けた労働者の救済を得る機会の諸分野に係わるディーセント・ワーク関連原則が追加され、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、ディーセント・ワーク、持続可能なビジネス、より包摂的な成長、海外直接投資の利益のより良い分かち合いといった、ディーセント・ワークと経済成長に関する持続可能な開発目標8の達成にとりわけ関連する諸目標の達成に向けた「デュー・ディリジェンス(相当なる注意)」手続きに関する手引きが盛り込まれました。包摂的な経済成長とディーセント・ワークの目標達成における政府、企業、社会的パートナー(労使)のそれぞれの役割と責任を認めることによって、多国籍企業宣言の原則は政府も対象にしています。

 理事会はまた、多国籍企業原則の諸原則に対する全ての当事者の公約を奨励するため、地域別のフォローアップの仕組み、政労使三者による国内フォーカルポイントの任命、企業と組合の対話、宣言諸原則の解釈手続きなどの一連の運用ツールも採択しました。ILOによる政労使に対する国別支援も提供されます。

理事会の多国籍企業宣言見直し特別作業部会のパブロ・ラソ議長による今回の改定についてのコメント(英語)

 多国籍企業宣言について、ガイ・ライダーILO事務局長は、「企業が世界各地における自社事業を通じてディーセント・ワークの実現に寄与できる方法に関する明確な手引きを示すもの」として、国際労働基準に根ざしたその勧告内容は、「全ての企業にとっての良い慣行を反映するだけでなく、企業の良き行動を刺激する政府の役割、そして社会対話の決定的に重要な役割に光を当てている」と説いています。事務局長は今回の改定について、「今日の現実にしっかりと錨を降ろした政労使間の確固とした合意を反映するもの」として評価しています。今回の改定について、理事会の多国籍企業宣言見直し特別作業部会の議長を務めたチリ政府ジュネーブ常駐代表部のパブロ・ラソ労働アタッシェは、企業活動とディーセント・ワークを調和させる必要性への政労使の解決策として、完全ではないものの重要なプロセスの一つと位置づけました。理事会の多国籍企業部門で労働者側スポークスパーソンを務めたアンネリー・ブンテンバッハ労働者側理事は、ディーセント・ワークと人権の問題を多国籍企業の世界に持ち込んだ宣言の改定を、真の前進として評価しました。使用者側スポークスパーソンを務めたエド・ポッター使用者側理事も、宣言を21世紀の現実に合わせることになった今回の改定を、政労使に独特の機会を提示するしっかりとした道具箱として、期待を表明しました。

理事会多国籍企業部門のアンネリー・ブンテンバッハ労働者側スポークスパーソンによる今回の改定についてのコメント(英語)

 多国籍企業宣言は、世界中の政府、使用者、労働者が三者で練り上げて採択した、企業の社会的責任(CSR)と持続可能なビジネス慣行に関する世界唯一の文書です。宣言諸原則の適用に関する詳しい情報と手引きは多国籍企業班のウェブサイトで入手できます。ILOのビジネスのためのヘルプデスク(電子メール:assistance@ilo.org)では、個別の質問に対応して企業運営に関するさらなる手引きを提供しています。

理事会多国籍企業部門のエド・ポッター使用者側スポークスパーソンによる今回の改定についてのコメント(英語)

先住民の権利促進を手助けすることが期待されるILO多国籍企業宣言の改定

 今回の改定によって宣言には「1989年の先住民及び種族民条約(第169号)」が含まれることとなりました。ILOのマルティン・オエルツ平等・非差別上級専門官は2017年3月31日付の論評記事で、これによって各国政府、社会的パートナー、多国籍企業及び国内企業が世界70カ国以上に散らばる世界人口の約5%に相当する3億7,000万人近い先住民・種族民の問題を政策・方針、戦略、慣行の中で取り上げる場合に多国籍企業宣言の手引きや枠組みを活用できる可能性に光を当てることになったとして、この役割に対する期待を述べています。

 世界の貧困層の15%あまりを占める先住民・種族民は差別や排除に特に弱く、良質の教育、ディーセント・ワークの機会、所得創出活動への支援、社会的保護の機会において特別の困難に直面しており、気候変動や土地収奪から受ける影響も最も大きくなっています。

 現在、22カ国が批准する第169号条約は先住民の権利に特化した唯一の批准可能な国際条約です。自らの制度機構、生活様式、開発を制御し、自分たちが暮らす国家の枠内で自らのアイデンティティー、言語、宗教を維持し、発展させることを望む先住民・種族民の願望を認め、平等、協議、参加、協力の原則を強調するこの条約は、参加型民主主義、社会平和、持続可能な開発のための枠組みを提示しています。政労使三者によって採択された世界唯一の文書である多国籍企業宣言は社会と経済の発展、そして世界の目標としてのディーセント・ワークに対する企業の貢献を奨励すると共に企業活動が与え得る否定的影響の緩和と解決を目指しています。前回2006年の改定以降の新たな展開と経済の現実に応える今回の改定は、企業がその事業を通じてディーセント・ワークに寄与できる方法に関する明確な手引きと枠組みを示しています。今回の改定による第169号条約の挿入は、企業は条約の諸原則に従って行動する直接の利害関係者であるとの事実に光を当てています。多国籍企業宣言が掲げる雇用促進・平等原則に沿って先住民と前向きの関係を結ぶことは、共同体とのより強力な関係による紛争の減少、政府との関係の強化、評判の利益、従業員の熱意、先住民の独特の貢献と知識から学び提携する能力など一連の利益をもたらす可能性があります。

 第169号条約は、先住民に直接影響する可能性がある法律または行政措置に関し、先住民と協議することを国家の責任事項としていますが、そのような協議のための強固な仕組みの欠如と、先住民の権利及び利益と経済活動を共に導くような規制・公共政策環境の不在が主な課題であり続けています。今回、宣言に別添として列挙されている多国籍企業に関連する国際労働基準の一覧表に第169号条約が含まれたことは、政府、企業、労使団体、先住民・種族民が一緒になってこういった問題に取り組み、条約に想定されているように協議のための機構や手続きの整備を検討する方向に向けた新たな弾みを提供することになると思われます。これは先住民・種族民が暮らす国において、適切な法及び方針・政策、責任ある企業慣行、実効性ある対話の仕組みを通じて地域経済開発と包摂的な成長のための機会を拡大することが期待されます。

* * *

 以上は次の2点のジュネーブ発英文広報資料の抄訳です。