仕事の未来インタビューシリーズ 第6回 若手座談会

仕事の未来を考えるということは、働く若手にとっては自分の将来を考える、ということでもあります。今回のインタビューシリーズでは、国際機関でインターンをしている20-30代の若手による 座談会を企画しました(2018年6月実施)。

座談会参加者
  • Aさん(女性 30代半ば)大学卒業後、大手都市銀行に就職。半年の産・育休含め5年超勤めたのち、大手総合商社へ転職。総合商社ではデリバティブ部署のリーガルを担当。4年ほど勤めたのち、退職。大学院で法学修士号取得中。
  • Bさん(男性 30代前半)大学院卒業後、素材メーカーにて約7年間勤務。工場の生産管理や技術改善に関する業務に従事。国際協力・開発分野へのキャリア転向を目指して退職。
  • Cさん(男性 20代後半)大学卒業後、日系企業に就職し東南アジアで2年間、その後、青年海外協力隊員として中央アメリカで2年間、教育分野で活動。今夏から大学院進学予定。

日本企業の今

−働き方改革やワークライフバランスなどが大きな関心を高めている今、皆さんはどういった印象をもっていますか?また勤務されていた企業ではどのような取り組みが行われていましたか?

A: 「2020年には女性管理職比率を3割にする」という政府の掛け声もあって、女性に対する取り組みは、産・育休も含め、かなり実施されていると思います。くるみんマーク*の認定は企業にとても人気のある制度ですし、総合職で入社した女性社員にはメンター制度がありいろいろ相談にのってもらいました。ただし男性社員は育休を申請しても「そんなことをしたら今の会社でのキャリアに影響がある」と言われることもあるようです。

*くるみんマーク・プラチナくるみんマークとは
「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証。次世代育成支援対策推進法に基づき、行動計画を策定し、目標を達成し、一定の基準を満たした企業が申請すると認定を受けることができる。平成30年3月末で2878社が認定を受けた。さらにより高い水準の取り組みを行っている企業は、プラチナくるみん認定を受けることができ、平成30年3月末で195社が認定を受けている。 詳しくはこちら

B:工場の製造現場でトラブルが発生すると、その対応に追われ泊まり勤務を余儀なくされることもありました。こういう種類の仕事は簡単に機械化することができないし、人手不足なので、すぐに解決策はみつからないと思います。東南アジアに工場があるのですが、そちらは十分なマンパワーがあるので、そこまでの激務はないようです。人材確保は日本の製造業にとって大きな問題だと思います。

C:私は海外経験しかないので地元の友人の話になりますが、東京の若者とは異なり、時間(ライフ)は余裕があるが、お金(ワーク)には苦しんでいるような感じがします。どこも同じだと思いますが、地方だといい給与の仕事はあまりないので、日々の生活でギリギリ、せっかくの余暇を楽しむ経済的余裕がないような印象です。

−今年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をまとめました。積極的に副業を認める会社も現れ、終身雇用を前提とした日本企業のカルチャーも変わってきているのでしょうか。

A:社内起業のプラットフォームがある企業もあります。私が勤めていた会社でも自分の仕事の20%は新しいビジネスプランを提案する、という取り組みを実施していましたが、根底にあるマインドは変化について行っていないような気がします。日本と異なるカルチャーで育った人も採用されるのですが、そのほとんどが、年功序列や学閥などに代表されるような日本の企業文化になじめず1年以内に辞めてしまいます。その一方で労働市場は確実に流動性が高まっているので、どこかの時点で急激に企業文化が変化するかもしれません。最近は転職サイトやSNSを通じた求人がとても充実していて転職しやすくなったので、流動化は一層進むと思います。

B:新卒一括採用の制度はやめた方が良いと思います。あまりにも画一的で選択肢が少ないので、途中でキャリア変更をするのがむずかしい。また、就労開始年齢が上がっていることも問題だと思います。原因としては、例えば理工系でも修士号を持っていないと企業の研究開発職に就職しにくいという問題が挙げられます。

C:欧米の若者のように一度仕事をした後に20代後半から大学に進学という形がもっと増えてもいいように思います。私自身、働いてみてどういった学問に興味があるのか(または興味がないのか)が分かったため、そのような流れが増えると、社会全体において仕事のマッチングがスムーズにいくと思います。ギャップイヤーなどの取り組みでも良いと思います。

- 皆さん就職後キャリア変更されていますが、同じ会社で生涯働くつもりはありましたか?

全員:ありませんでした。

A:同僚の中には結婚して子どもも生まれたのでずっと今の会社で働き続けたい、と言っている人もいましたが、転職する若者は以前よりかなり増えていると思います。ただ辞めにくい雰囲気はあると思います。

- 年金など日本の社会保障制度に対する不安はありますか。

全員:おそらく若者は年金に対してあまり期待していないのではないか。国の制度なので、民間の保険より安定しているが、年金だけで生活していくことはできないと思う。貯蓄するなど自分で準備しておく必要がある。でも政府に頼りっぱなしてはなく自立する気概はあると思います。

C:高齢化が急激に進んでいる日本において、現在の社会保障制度が、私が高齢者になるときまで維持できているのかも分かりませんし、そのときまでにいくら貯金すべきか分からないため不安は感じています。

日本以外で働く

A:日本経済が縮小していく中、日本以外で働くことも選択肢に入れる必要があるような気がしています。その場合、語学はもちろん必要ですが、それ以外にどんなスキルを身に付ける必要があるのか、自分の子どもにどのような教育を受けさせたら良いのか、よくわからない。いずれにしても変化に対応できる順応力・適応力が大切だと思います。

B:国際機関で働くことを目指していますが、採用されるか全くわからないし、採用されても有期契約なので、非常に不安に思っています。どこまで今の蓄えでやっていけるのか、経済的にもとても不安です。

A:例えば海外でインターンをしたいと思っても、それが可能な人は、親が裕福であるとか、パートナーが経済的なサポートをしてくれるとか、経済的に恵まれた人しかその道を選ぶことができない。東大合格者の親の平均年収は1千万円を超えており、本人の努力以外の要因が大きく影響しているようですし、不平等な社会になっているような気がします。

C:「若者の海外離れ」と言われているなか、早い段階から海外経験を積んだことは、同世代と比較してアドバンテージになるだろうと考えています。しかし数年後、世界のどこで自分が仕事をしているか全く読めないので、結婚を含め将来設計が立てにくい。また日本人だけがライバルではなく、海外の人たちとも競争しなければならない。語学ではネイティブには勝てないため、違ったスキルを模索中です。

ITで社会はどう変わるのか

−AI、IoT、シェアリング・エコノミーなどインターネットの普及で社会が大きく変化しています。不安を感じている人も多いと思いますが、皆さんはいかがですか。

全員:便利だと思うことの方が多く、とくに不安は感じていないです。

A:インターネットの普及でロケーションから解放されたと思います。私が会社でやっていた仕事は、インターネットとパソコンさえあればどこでもできる。問題は、直接会って話しをしなければ仕事にならない、と言っている人が依然として多いことだと思います。スカイプを使えば直接会って話しているのと変わらないと思うのですが。

B:地方で働く選択肢がもっと増えるような気がしていたのですが、依然として本社は東京に集中する傾向にあります。これはなぜでしょうね。

C:私の地元には産業が少ないので、IT関連の仕事が創出され地元で働く若者が増えれば良いと思う。それが可能な条件はそろっていると思う。

A:カーシェアリングを利用するようになりマイカーの必要性を感じません。何の不便もなく、経済的です。車を所有することがステイタスという意識はないので、車を買うことはないような気がしています。

C:夏から留学する予定で今は仮住まいのためシェアハウスを利用しています。留学に備えて節約する必要があるので、シェアリング・エコノミーは大いに利用したいです。

A:これから急速に進むのが決済システムの統一だと思います。中国ではQRコード決済が一気に進みキャッシュレス社会が実現しています。日本はこの分野は非常に出遅れています。早く統一したシステムを確立する必要があると思います。

将来の展望

A:国際機関のような人権関連分野の業務を体験する機会は今までのキャリアの中ではなかったので、今回のインターンに参加したことは貴重な体験になりましたし、このご縁を活かせていけたらな、とも思います。全く異なる業界は初めてでしたが、金融、人権等の分野に関係なく、ベースとなる仕事スキルが共通していると感じたことは、他業界への挑戦への自信にもなりました。また、子どもがいるため、どのような仕事をするにしても常に「働き方」というものが業務内容と同じくらい重要な要素となります。場合によっては在宅勤務が可能など、柔軟な働き方ができるか否かが仕事を選ぶ上でのポイントになりますし、それが私にとっての“持続可能な”就業形態になります。先日の新聞記事(2018/6/15日付 日本経済新聞夕刊「政界Zoom 国連機関で増える日本人」より) によると国連では40代、50代で転職して活躍している人が多いそうです。一方で、日本のマーケットではまだまだ40代以降の転職は難しいですし、ましてや子育て等で一旦離職した人の復職は難しいと聞きます。国際社会では色々なバックグラウンドをもった人が活躍できる可能性があるところにチャンスを感じますし、日本のマーケットも今後そのようになっていくと期待しています。とりあえず、仕事を頑張ることが将来の様々な可能性に繋がっていくものと考えますので、今後も家庭との両立を工夫しつつ、仕事を通して様々な体験をしていきたいと思います。

B:2、3年海外で仕事をし、開発や国際協力に関する経験を積みたいと考えています。キャリアを転々と変えることは、日本的な働き方の視点からみると不安が残りますが、その葛藤を乗り越え、最終的には国際機関での勤務を目指します。これからは労働条件や求められるパフォーマンスなどを自分で選択して働く時代に変わっていくと思います。

C:座談会を通じて印象的だったことは、参加した全員がこれからは「どこで仕事をするのか」は重要でなくなると考えていたことです。例えば、オーストラリアでは2000年ごろかアクティビティ・ベースド・ワーキングという働き方を導入する企業が増えているそうです 。社員が、働く時間や場所を好きに選べるというもので、仕事の成果を出していれば出社しなくてもよいという極端な例もあるそうです。(2018/6/15日付 読売新聞 「世界の働き方」より)  このような流れは日本社会にも浸透していくのではないかと考えています。これからは働き方に関して個人の選択肢が増えるため期待している一方、社会保障面での不安は残ります。