産業別会議

北半球極地・亜北極気候地帯で操業する石油・ガス産業における労働安全衛生と技能三者構成部門別会議

 石油・ガス産業は近年、未発見の炭化水素系エネルギー資源の相当割合が眠ると見られる北極における操業を拡大しています。地域の原油労働者のグローバルな数は得られないものの、例えば、米国アラスカ州では2002年からの10年間で石油・ガス産業の就業者数が約1.5倍に増えています。1975~2012年の期間に報告された海洋構造物における事故件数は世界全体で6,183件に達していますが、この6割以上が北半球で発生しています。

 北半球極地・亜北極地帯は人命、そして労働者に様々な課題を提示しています。極寒の気温や吹雪、晴れない霧、冬は日照がなく、夏は白夜が続くといった事象は労働者の福祉や業務の遂行に影響を与え、機械や構造だけでなく、作業編成や作業手順にも特別な適応が必要になります。これは特別の訓練を追加する必要を生じさせ、キャリア開発計画や人材の引き留めといった技能関連事項も重要になります。

 北極の労働安全衛生を特に扱った条約や勧告は存在しません。国際標準化機構(ISO)には石油・天然ガス産業の北極における海洋構造物に関する規格(ISO 19906)があり、欧州連合(EU)と北極評議会も北極の安全操業に関する法や指針を作成していますが、これらは労働安全衛生面は扱っていません。

 そこで、労働者代表10人、使用者代表7人と関心のある14カ国の政府代表の参加を得て開かれた標記の会議では、◇低温によって引き起こされるものなど、この作業環境に特有の労働安全衛生上の課題と可能な解決策、◇僻地や孤立した地域における健康保護と医療機会、◇労働時間編成、◇北極で操業する石油・ガス産業における予防的安全衛生文化促進のための労働安全衛生研修について検討が行われました。採択された結論文書は、寒冷や風氷、野生生物との遭遇などの、北極における労働者の健康と福祉にとってのリスクと課題を挙げ、最も急を要する課題を優先させた予防戦略や効果的なリスク評価を出発点とした安全衛生リスク管理ツール、プロジェクトの最初期計画段階における危険有害因子の特定、北極における原油・ガス操業に求められる特定の技能や職能に対処した教育・訓練、企業は労働者輸送のために安全で適切な手段を用いるべきことなどの諸原則に加え、加盟国政労使及びILOの今後の活動についての提案を含んでいます。政労使に対しては、既存の労働安全衛生の仕組みの活用強化などが、ILOに対しては労働安全衛生問題の根本原因特定の助けになるようデータ収集を行うことなどが求められています。

 会議の討議資料として作成された報告書は、第1章:北半球極地・亜北極機構地帯における炭化水素系資源の開発、第2章:労働安全衛生面の課題と最善事例、第3章:労働者の健康と福祉、第4章:労働時間の取り決め、第5章:輸送時事故、第6章:労働安全衛生技能と訓練、第7章:要約、の7章構成で北半球極地・亜北極気候地帯で操業する石油・ガス産業における労働安全衛生と技能の問題をまとめています。

会議参加者インタビュー(英語)


 会議の使用者側副議長を務めたインターナショナルSOSのジョナサン・オキーフィー地域医療部長は、極端な寒さや孤立した僻地、白夜や明けない夜などの厳しい環境下では一般的に見られるリスクが通常より高くなることなどを指摘して適正なリスク評価、リーダーシップ研修などの教育訓練・啓発活動、心理社会面の点検や歯科検診も含めた派遣前の徹底した健康診断、そして人的理由による労働災害の8割までが標準的な業務手続きが存在しない状況で発生していることから標準的な手続きを確立することの重要性などを挙げて、極地気候下での勤務に際して必要な幾つかの特別な措置について詳しく述べています。


 労働者側副議長を務めたノルウェーのエネルギー産業組合(IE)のライフ・サンド会長は労働安全衛生分野の改善に向けた企業の努力を評価しつつ、極地及び亜北極気候地帯のような特別のリスクがある地帯でこの分野における重要な進歩を達成するには政労使三者による取り組みや政府による規制が重要な役割を果たすことを指摘しています。


 ロシアのワレリー・コルツ労働安全衛生局長は、自国の石油・ガス産業における、極地で働く人々にも適用される、国際基準に沿った労働安全衛生基準の存在を紹介した上で、労働者保護の向上における高度訓練と適正な職員選定の重要性を強調しています。


 会議の議長を務めたカナダ使用者評議会のピーター・ウールフォード氏は仕事の世界の関係者が世界中から持ち寄った実体世界の経験交流が行われたこの会議が、これらの地域の労働者の労働安全衛生改善に向けて有意義な貢献を果たすだろうとの確信を表明しました。


詳しくは会議のウェブサイト(英語)へ---->
北半球極地・亜北極気候地帯で操業する石油・ガス産業における労働安全衛生と技能三者構成部門別会議