ILO統治機構

第325回理事会

 年3回開かれる理事会の定期会合。政府側28人、労使各側14人の計56人の正理事と、政府側28人、労使各側19人の計66人の副理事で構成。議題は以下の分野別部会に分けて審議されました。

  • 結社の自由委員会報告や事務局長報告などの報告事項、憲章上の義務を含む国際労働機関及び事務局の機能に係わる事項、緊急の問題などを処理する制度機構部会
  • 雇用・社会的保護部門、多国籍企業部門、社会対話・労使関係部門、開発協力部門の4分野から成る政策開発部会
  • 法務部門と国際労働基準・人権部門の2分野から成る法務・国際労働基準部会
  • 計画・財政・管理部門、人事部門、監査・監督部門の3分野から成る計画・財政・管理部会
  • 2008年の総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」に基づき理事会・総会の機能改善を検討する場として当面開催される理事会・総会機能作業部会

 今理事会では世界的な難民危機から気候変動まで幅広い議題が審議され、2018年の総会議題として仕事の世界における暴力の問題が選ばれ、2019年のILO創立100周年記念事業の一環として2016年の総会で行われる「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」の影響評価手続きの詳細が固められ、複数の国から提起されている労働者の権利侵害に関する苦情申立てに関して一部で進展がありました。

 理事会ではカタール、ミャンマー、フィジー、グアテマラにおける労働者の権利侵害の問題が検討されました。強制労働と近代的な形態の奴隷労働の問題が見られるカタールに関しては、全会一致が通常の理事会で約15年ぶりに投票が行われ、賛成35票、反対13票、棄権7票で、政府の強い反対を押し切って政労使三者構成の視察団を派遣し、その結論を元に、2016年3月の理事会で再び検討することが決まりました。

 2015年末までに強制労働全廃を目指す覚書が政府との間で締結されているミャンマーに関しては、やり残されている事項がまだ多数あることを認め、強制労働対策、結社の自由と団結権、社会対話、労働者の権利の保護において同国で見られた進展を強化し、保護するため、2015年末を期限としていた同国におけるILOの活動を2016年3月まで延長することが決定されました。

 何年もの間、結社の自由や団体交渉に関し、労働組合活動が抑制されてきたフィジーに関しては、2015年3月に政労使三者の間で一定の合意が達成されましたが、この合意の適用が見られなかったため、同じく2016年3月までに三者構成ハイレベル視察団を派遣して次の理事会で再検討することとなりました。

 既に70人以上の労働組合指導者が命を落としているグアテマラに関しては、結社の自由と団結権の強化に向けて国内に設置されているILOの特別事務所の活動を拡大することが決定されました。

 結社の自由委員会は、結社の自由の侵害に関して現在付託されている159の案件のうち33件について審議し、労働組合指導者の殺害と組合活動家に対する抑圧の継続が申し立てられているカンボジアの案件(第2318号案件)について、扱われている事項の緊急性と深刻さから理事会の注意を特に喚起しました。

 日本については、社会保険庁解体に伴う職員の解雇が反組合的差別行為を構成するとして全国労働組合総連合(全労連)、日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)、全厚生労働組合(全厚生)が行った申立て(第2304号案件)が初めて審議されました。委員会は、解雇が反組合的差別によるものと支持できる立場にはなく、社会保険庁内の労働関係が政府とマネジメントによる労働組合に対する敵意を特徴とするものと結論づけることはできないとしつつも、事業再構築計画が職員の雇用・労働条件に与える影響を労働組合組織と話し合う事前協議の重要性、労働者の職業上の利益に影響する事項に係わる率直かつ十分な協議という友好的労働関係の重要性を強調し、新設の日本年金機構ではこれらの原則が十分に尊重されるよう政府が確保することに期待を示した上で、全厚生京都支部三役解雇の裁判事件については結果を引き続き報告するよう要請してフォローアップ案件としました。

 日本航空乗員組合と日本航空キャビンクルーユニオンが申し立てた日本航空の整理解雇案件(第2844号案件)と全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)が申し立てた警察の組合活動妨害案件(第2304号案件)という二つのフォローアップ案件も取り上げられました。裁判の進行状況に関する申立人・政府双方からの情報提供などを受けて2013年10月に続く2度目のフォローアップ審議が行われた前者については、引き続きの情報提供を求めると共に、剰員解雇された労働者の再雇用はできないとの会社の見解については、労使間の意見の相違に留意した上で、有意義な対話を維持することの重要性を再び強調し、会社が全ての社内組合とこの問題を話し合うことへの期待を表明しました。10年にわたってフォローアップが続いてきた後者については、浦和電車区事件の申立人敗訴確定を受けてフォローアップ手続きを終了しましたが、委員会は、裁判で確定されていない限り、組合の評判をおとしめるような宣言を警察は差し控えるべきとの見解に再度注意を喚起しました。

 熱心な討議が展開された世界的な難民危機とその労働市場への影響の議題については、労働力移動や難民向け開発協力活動強化方法などの事項も含み、2016年3月の次期理事会でこの問題の検討を続けることが決定されました。

 今理事会では他に、2015年の第104回ILO総会で行われた社会的保護(労働者保護)の戦略目標に関する反復討議人間らしく働きがいのある生産的な雇用の創出と中小企業に関する一般討議のフォローアップをはじめとした総会議題関連事項、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、ILOと国際標準化機構(ISO)との協定の実施状況、重点活動分野であるインフォーマル経済のフォーマル化労働監督を通じた職場コンプライアンスの強化包摂的で持続可能な開発に向けた先住民の権利2015~17年のILO開発協力戦略基準イニシアチブ2014/15年の年次評価報告など幅広い議題が審議され、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」のフォローアップ手続きに基づく年次報告のまとめや2015年10月に開かれた「持続可能な開発、ディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ専門家会議」の報告などが提出されました。


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