スリランカにおける児童労働の取組み 「学校に戻ろう」

コロンボ・2015年6月2日

サディス・クマールの母親は、スリランカの紅茶農園で働いています。父親は病気で働くことができません。サディスはあやうく児童労働に陥りそうになったところを、ILOのプロジェクトによって学校に戻ることになりました。


ラトゥナプラ県の学校に行く支度をするサディス・クマール

(ILOニュース) – 毎朝彼は制服に着替えて、念入りに髪をとかし、ネクタイを締めて、水筒に水を入れてから、両親に行って来ますと挨拶をします。そして、13歳の少年は学校に出かけます。
いつもはこうだったわけではありません。学校に戻ったのは2年ぶりで、つい最近のことです。

「また学校に戻れるんだ。もう学校を休みたくないよ。学校に行きたいんだ。」

彼は家族と一緒に ルフナ農園に住んでいます。ここはサバラガムワ州、ラトゥナプラ県にある広大な紅茶農園です。 およそ500人の労働者が働き、世界的に有名なディルマ紅茶を生産しています。

彼の義母アンビガ・クマール・ミーナ(39歳)は、農園で茶摘みをしています。夫であるサディスの父親が大きな手術を受けて働けなくなって以来、家族の中で唯一の稼ぎ手でもあります。ミーナは、夫の治療費を払いながら、サディスの異母妹の面倒をみるため、一生懸命に働かなければなりません。両親からの支援が十分に得られなかったサディスは学校を無断で休むようになり、ついには落ちこぼれてしまいました。

残念なことに、他にもこのような子どもは多いのです。



農園の子どもたちの成績や健康状態は、国の平均を下回っていると、ILOの社会的保護・児童労働プロジェクトでプログラム・アシスタントをしているヒロシ・グナティラカ氏は説明します。「私たちは、毎日学校に通っていない子どもたちが、結局、児童労働に陥るケースを見てきたので、それを防ぎたいのです。」

社会的保護・児童労働プロジェクトは、2014年の6月にILO・日本政府マルチバイプログラムとして始まりました。

ILOの専門家たちは、ルフナ農園を担当する職員に、社会的保護と子どもの権利について研修を行い、また児童労働の現状を把握できるよう、データの収集や分析の方法も教えました。

新たに研修を受けた農園担当の福祉職員は、すぐにサディスを見つけました。彼らは、サディスの家族を訪ねて両親と面談し、彼のような子どもは児童労働に陥る危険性がとても高いことを説明しました。何らかの行動をとる必要がありました。

ルフナ農園担当の福祉職員、ウィルマ・ペレラ氏は言います。「私たちは、約2ヶ月前に、彼を自分たちの学校に入学させました。様子を見て、同じ年齢の子どもたちと一緒にするつもりです。」


サディス・クマールはILOのプロジェクトによって学校に戻った。


学校では無償で朝食を食べることができます。授業では先生の質問に熱心に答えています。彼の顔には笑顔が戻りました。

プロジェクトは、すでにサディスのような成功例をいくつも生んでいます。このプロジェクトは、現在働いている子どもたちを教育や健康面で支援するのと同時に、児童労働の予防にも力を入れています。たとえば、子どもたちが稼がなくてもすむよう、両親により良い家計管理の方法を教えています。

しかし、子どもを学校に戻すだけでは、問題の全面解決には至りません。グナティラカ氏らによれば、より大きな問題は、どのようにして子どもたちが教育を修了できるようにするか、です。

この問題に取り組むため、プロジェクト・チームはスリランカの政労使と協力して活動を始め、その効果がすでに現れています。サバラガムワの商工会議所は、会員業者に児童労働を使わないよう要請したり、児童労働問題についてのワークショップや会議を後援したり、また子どもたちに通学カバンや文房具を支給しています。
農園の子どもたち

「もし民間企業、政府、その他の関係者(社会的パートナー)が協力して活動を行えば、農園の子どもたちに適切な教育を提供することができるでしょう。そうすれば、子どもたちが児童労働に陥ることはないでしょう。」と、グナティラカ氏はこう話します。

ILOの支援を受けて、スリランカのバランゴダ農園とサバラガムワ州のもう一つの農園が、ぺティアガーラに活動センターを開設しました。そこでは、農園労働者たちが副収入を得て子どもを働かせなくてもすむように、裁縫、紙の裁断、本の装丁などの訓練を提供しています。

その訓練を受けて起業した29歳のセルバラ・セルバマラは話します。「このプロジェクトから、多くの恩恵を受けました。ILOに感謝しています。ILOにはこの農園での活動を続けてほしいです。」事業が成功して、彼女は町に移り住み、今では子どもたちをこれまでよりも良い学校に通わせています。

バランゴダ農園の総支配人アニル・デ・メル氏によれば、彼らは労働者の家計管理を改善するだけでなく、家族の収入が増えるよう努めています。この部分は、ILOの新しいプログラムの中に含まれています。

2010年、スリランカ政府は2016年までに国内の最悪の形態の児童労働を撤廃することを公約しました。それ以来、政府はILOと共に目標に向かって取り組み、これまでの実績を踏まえた新たな児童労働プロジェクトが実施されています。このプロジェクトによって、政府は2016年までに目標を達成できるだろうとの自信が高まりました。

「ILOの支援を得て、スリランカ政府は【児童労働のないフリーゾーン】という新しいイニシアチブを始めました。地域や部門別の開発計画の中に、児童労働問題を主流化し、それを組み込んだのです。」と、スリランカ労働・労使関係省のアナンダ・ウィマラウェラ 上級次官補は述べました。

「私たちは、ILOの支援を得て、計画どおりに目標を達成できるという明るい見通しをもっています。」