ILO憲章、フィラデルフィア宣言

国際労働機関憲章

 

前   文

 

  世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができるから、
   そして、世界の平和及び協調が危くされるほど大きな社会不安を起こすような不正、困苦及び窮乏を多数の人民にもたらす労働条件が存在し、且つ、これらの労働条件を、たとえば、1日及び1週の最長労働時間の設定を含む労働時間の規制、労働力供給の調整、失業の防止、妥当な生活賃金の支給、雇用から生ずる疾病・疾患・負傷に対する労働者の保護、児童・年少者・婦人の保護、老年及び廃疾に対する給付、自国以外の国において使用される場合における労働者の利益の保護、同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認、結社の自由の原則の承認、職業的及び技術的教育の組織並びに他の措置によって改善することが急務であるから、
  また、いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となるから、
  締約国は、正義及び人道の感情と世界の恒久平和を確保する希望とに促されて、且つ、この前文に掲げた目的を達成するために、次の国際労働機関憲章に同意する。

 

第1章 組  織
第1条

1 この憲章の前文及びこの憲章の附属書となっている1944年5月10日にフィラデルフィアで採択された国際労働機関の目的に関する宣言に掲げた目標を達成するために、ここに常設機関を設置する。
2 国際労働機関の加盟国は、1945年11月1日にこの機関の加盟国であった国並びにこの条の第3項及び第4項の規定に従って加盟国となる他の国とする。
3 国際連合の原加盟国及び国際連合憲章の規定に従い国際連合総会の決定によって国際連合の加盟国となることを認められた国は、国際労働機関憲章の義務の正式の受諾を国際労働事務局長に通知することによって、国際労働機関の加盟国となることができる。
4 また、国際労働機関の総会は、出席し且つ投票する政府代表の3分の2の賛成投票を含む会期に参加している代表の3分の2の賛成投票によって、この機関への加盟を承認することができる。この加盟は、国際労働事務局長に新加盟国の政府によるこの機関の憲章の義務の正式の受諾の通知があった時に効力を生ずる。
5 国際労働機関の加盟国は、脱退する意思を国際労働事務局長に通告しなければ、この機関から脱退することができない。この通告は、事務局長が受領した日の後2年で効力を生ずる。但し、この時にその加盟国が加盟国としての地位から生ずるすべての財政的義務を果していることを条件とする。この脱退は、加盟国がいずれかの国際労働条約を批准しているときは、その条約で定めた期間中は、その条約から生じ又はその条約に関係するすべての義務の継続的効力に影響を及ぼさない。
6 いずれかの国がこの機関の加盟国でなくなった場合には、その再加盟については、それぞれこの条の第3項又は第4項の規定によるものとする。

第2条

  この常設機関は、次のものからなる。
  (a) 加盟国の代表者の総会
  (b) 第7条に規定するように構成する理事会 及び
  (c) 理事会の監督を受ける国際労働事務局

第3条

1 加盟国の代表者の総会の会合は、必要に応じて随時に、且つ、少くとも毎年1回開催する。総会は、各加盟国の4人の代表者で構成する。そのうちの2人は政府代表とし、他の2人は各加盟国の使用者及び労働者をそれぞれ代表する代表とする。
2 各代表は、顧問を伴うことができる。顧問は、会合の議事日程の各議題について2人をこえてはならない。婦人に特に関係がある問題が総会で審議されるときは、顧問のうちの少くとも1人は、婦人でなければならない。
3 非本土地域の国際関係に責任をもつ各加盟国は、自国の各代表に対する顧問として更に次の者を任命することができる。
  (a) 前記の地域の自治権の範囲内にある事項について前記のいずれかの地域の代表者として加盟国が指名する者 及び
  (b) 非自治地域に関する事項について自国の代表に助言するために加盟国が指名する者
4 2以上の加盟国の共同の権力の下にある地域の場合には、それらの加盟国の代表に助言する者を指名することができる。
5 加盟国は、各自の国に使用者又は労働者をそれぞれ最もよく代表する産業上の団体がある場合には、それらの団体と合意して選んだ民間の代表及び顧問を指名することを約束する。
6 顧問は、これを伴う代表が要請し且つ総会議長が特別に許可する場合を除いて、発言してはならない。また、顧問は、投票することができない。
7 代表は、議長にあてた通告書によって、その顧問の1人を代理者に任命することができる。この顧問は、代理者として行動しているときは、発言し且つ投票することを許される。
8 代表及びその顧問の氏名は、各加盟国の政府が国際労働事務局に通知する。
9 代表及びその顧問の委任状は、総会の審査を受けなければならない。総会は、この条に従って指名されなかったと認める代表又は顧問の承認を出席代表の投票の3分の2によって拒絶することができる。

第4条

1 総会の審議に付されるすべての事項について、各代表は、個別的に投票する権利をもつ。
2 ある加盟国が、指名権をもつにもかかわらず、民間代表の1人を指名しないときは、他の民間代表は、総会に出席し且つ発言することを許されるが、投票することを許されない。
3 総会が第3条に従ってある加盟国の代表の承認を拒絶したときは、その代表が指名されなかったものとして、この条の規定が適用される。

第5条

  総会の会合は、前回の会合において総会自体が行うことのある決定に従うことを条件として、理事会が決定する場所で開催する。

第6条

  国際労働事務局の所在地の変更は、総会が出席代表の投票の3分の2の多数によって決定する。

第7条

1 理事会は、次の56人で構成する。
   政府を代表する28人
   使用者を代表する14人 及び
   労働者を代表する14人
2 政府を代表する28人のうち、10人は、主要産業国たる加盟国が任命し、18人は、前記の10加盟国の代表を除く総会における政府代表によってこのために選定された加盟国が任命しなければならない。
3 理事会は、必要に応じて、どの国がこの機関の主要産業国たる加盟国であるかを決定し、且つ、理事会の決定前に主要産業国たる加盟国の選定に関するすべての問題を公平な委員会が審議することを確保する規則を定める。どの国が主要産業国たる加盟国であるかに関する理事会の宣言に対して加盟国が行う提訴は、総会が判定する。但し、総会への提訴は、総会がその提訴を判定する時まで宣言の適用を停止するものではない。
4 使用者を代表する者及び労働者を代表する者は、総会における使用者代表及び労働者代表がそれぞれ選挙しなければならない。
5 理事会の任期は、3年とする。理事会の選挙が何らかの理由によってこの期間の満了の時に行われないときは、理事会は、この選挙が行われる時まで在任する。
6 欠員の補充及び代理者の任命の方法並びに他の類似の問題は、総会の承認を条件として、理事会が決定することができる。
7 理事会は、随時に、その構成員の中から議長1人及び副議長2人を選挙する。そのうちの1人は政府を代表する者とし、1人は使用者を代表する者とし、1人は労働者を代表する者としなければならない。
8 理事会は、その議事手続を規定し、且つ、その会合の時期を定める。特別会合は、理事会における代表者の少くとも16人が書面でその要請をしたときに開催する。

第8条

1 国際労働事務局に事務局長を置く。事務局長は、理事会によって任命され、且つ、理事会の指示の下で、国際労働事務局の能率的な運営及び他の委託されることのある任務について責任を負う。
2 事務局長又はその代理者は、理事会のすべての会合に出席しなければならない。

第9条

1 国際労働事務局の職員は、事務局長が理事会の承認した規則に基いて任命する。
2 事務局長は、事務局の業務の能率を充分に考慮しつつできる限り、国籍の異なる者を選任しなければならない。
3 前項の者のうちの若干人は、婦人でなければならない。
4 事務局長及び職員の責任は、性質上もっぱら国際的なものである。事務局長及び職員は、その任務の遂行に当って、いかなる政府からも又はこの機関外のいかなる当局からも指示を求め、又は受けてはならない。事務局長及び職員は、この機関に対してのみ責任を負う国際的職員としての地位を損ずる虞のあるいかなる行動も慎まなければならない。
5 この機関の各加盟国は、事務局長及び職員の責任のもっぱら国際的な性質を尊重すること並びにこれらの者が責任を果すに当ってこれらの者を左右しようとしないことを約束する。

第10条

1 国際労働事務局の任務は、労働者の生活状態及び労働条件の国際的調整に関するすべての事項についての資料の収集及び配布、特に国際条約の締結を目的として総会に提出することが提案されている事項の審査並びに総会又は理事会が命ずることのある特別の調査の実施を含む。
2 事務局は、理事会が与える指示に従って、次のことを行う。
  (a) 総会の会合のための議事日程の各種の議題に関する書類を準備すること。
  (b) 総会の決定に基いて行う法律及び規則の立案並びに行政上の慣行及び監督制度の改善に関して、政府の要請があったときに、可能なすべての適当な援助をこれに与えること。
  (c) 条約の実効的な遵守に関して、この憲章の規定により事務局に要求される任務を遂行すること。
  (d) 国際的な関係をもつ産業及び雇用の問題を取り扱う出版物を、理事会が望ましいと認める言語で編集し且つ刊行すること。
3 一般に、事務局は、総会又は理事会が委託する他の権限及び任務をもつ。

第11条

  労働問題を取り扱う加盟国の官庁は、国際労働事務局の理事会における自国政府の代表者を通じて、又は、このような代表者がない場合には、資格のある他の公務員で政府がこのために指名するものを通じて、事務局長と直接に連絡することができる。

第12条

1 国際労働機関は、この憲章の条項の範囲内で、専門的責任をもつ公的国際機関の活動を調整する任務をもつ一般的国際機関及び関係分野において専門的責任をもつ公的国際機関と協力しなければならない。
2 国際労働機関は、公的国際機関の代表者が投票権なしにこの機関の審議に参加するための適当な取極をすることができる。
3 国際労働機関は、使用者、労働者、農業者及び協同組合員の国際機関を含む承認された民間国際機関との望ましいと認める協議のための適当な取極をすることができる。

第13条

1 国際労働機関は、適当と思われる財政上及び予算上の取極を国際連合と締結することができる。
2 前記の取極が締結されるまでの間は、又は有効な前記の取極がないときはいつでも、
  (a) 各加盟国は、それぞれ総会又は理事会の会合に出席する自国の代表及びその顧問並びに代表者の旅費及び滞在費を支給する。
  (b) 国際労働事務局及び総会又は理事会の会合のすべての他の経費は、国際労働事務局長が国際労働機関の一般資金から支出する。
  (c) 国際労働機関の予算の承認並びに分担金の割当及び徴収のための取極は、総会が出席代表の投票の3分の2の多数によって決定しなければならず、且つ、政府代表者の委員会が予算及びこの機関の加盟国間における経費の割当のための取極を承認することについて規定しなければならない。
3 国際労働機関の経費は、この条の第1項又は第2項(c)による有効な取極に従って、加盟国が負担する。
4 この機関に対する分担金の支払が遅滞しているこの機関の加盟国は、その遅滞金の額がその時までの満2年間にその国から支払われるべきであった分担金の額に等しいか又はこれをこえるときは、総会、理事会若しくは委員会において又は理事会の構成員の選挙において投票権をもたない。但し、総会は、支払の不履行が加盟国にとってやむを得ない事情によると認めたときは、出席代表の投票の3分の2の多数によって、その加盟国に投票を許すことができる。
5 国際労働事務局長は、国際労働機関の資金の適正な支出について理事会に対して責任を負う。

 

第2章 手  続
第14条

1 総会のすべての会合の議事日程は、理事会が、加盟国の政府、第3条の適用上承認された代表的団体又は公的国際機関によって行われることのある議事日程に関する示唆を考慮して定める。
2 理事会は、総会による条約又は勧告の採択の前に予備的な会議又は他の方法で完全な技術的準備及び最も関係の深い加盟国との充分な協議を確保するために、規則を作成しなければならない。

第15条

1 事務局長は、総会の書記局長として行動し、且つ、議事日程を加盟国及び、民間代表が指名されているときはこの加盟国を通じて、その民間代表に、総会の会合の4箇月前に到達するように送付しなければならない。
2 議事日程の各議題に関する報告は、総会の会合に先だって充分に検討することができるような時期に加盟国に到達するように発送しなければならない。理事会は、この規定の適用のための規則を作成しなければならない。

第16条

1 いずれの加盟国政府も、議事日程中のある議題の存置に対して正式に異議を申し立てることができる。このような異議の理由は、事務局長にあてた陳述書に記載し、事務局長は、これをこの機関のすべての加盟国に通報しなければならない。
2 もっとも、このような異議があった議題は、総会において出席代表の投票の3分の2の多数が審議することに賛成であるときは、議事日程から除くことができない。
3 総会が出席代表の投票の3分の2の多数によっていずれかの事項を総会で審議すべきことを決定したとき(前項の場合を除く。)は、その事項は、次回の会合の議事日程に入れなければならない。

第17条

1 総会は、議長1人及び副議長3人を選挙する。副議長のうちの1人は政府代表とし、1人は使用者代表とし、1人は労働者代表とする。総会は、その議事手続を定めなければならず、且つ、いずれかの事項について審議し且つ報告する委員会を設けることができる。
2 この憲章に別段に明白に規定された場合あるいは総会に権限を与える条約若しくは他の文書の条項又は第13条に基いて採択された財政上及び予算上の取極の条項によって別段に明白に規定された場合を除き、すべての事項は、出席代表の投票の単純過半数によって決定する。
3 表決は、投票総数が総会に参加している代表の半数に達しないときは無効とする。

第18条

  総会は、その設置する委員会に投票権をもたない技術的専門家を置くことができる。

第19条

1 総会が議事日程中のある議題に関する提案を採択することに決定したときは、総会は、その提案が(a)国際条約の形式をとるべきか、又は(b)取り扱われた問題若しくはその問題のある面がそのときに条約として適当と認められない場合には事情に応ずる勧告の形式をとるべきかを決定する。
2 いずれの場合にも、総会がそれぞれ条約又は勧告を採択するための最終的の投票においては、出席代表の投票の3分の2の多数を必要とする。
3 一般に適用する条約又は勧告を作成する場合には、総会は、気候条件、産業組織の不完全な発達又は他の特殊事情によって産業条件が実質的に異なる国について充分な考慮を払い、且つ、これらの国の事態に応ずるために必要と認める修正があるときは、その修正を示唆しなければならない。
4 条約又は勧告は、その2通を総会議長及び事務局長の署名によって認証しなければならない。そのうちの1通は、国際労働事務局の記録に寄託し、他の1通は、国際連合事務総長に寄託する。事務局長は、条約又は勧告の認証謄本を各加盟国に送付する。
5 条約の場合には、
  (a) 条約は、批准のためにすべての加盟国に送付する。
  (b) 各加盟国は、立法又は他の措置のために、総会の会期の終了後おそくとも1年以内に、又は例外的な事情のために1年以内に不可能であるときはその後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にも総会の会期の終了後18箇月以内に、条約を当該事項について権限のある機関に提出することを約束する。
  (c) 加盟国は、条約を前記の権限のある機関に提出するためにこの条に従って執った措置、権限があると認められる機関に関する細目及びこの機関が執った措置を国際労働事務局長に通知しなければならない。
  (d) 加盟国は、当該事項について権限のある機関の同意を得たときは、条約の正式の批准を事務局長に通知し、且つ、条約の規定を実施するために必要な措置を執る。
  (e) 加盟国は、当該事項について権限のある機関の同意を得なかったときは、条約で取り扱われている事項に関する自国の法律及び慣行の現況を、理事会が要請する適当な間隔をおいて、国際労働事務局長に報告する以外には、いかなる義務も負わない。この報告には、立法、行政的措置、労働協約又はその他によって条約の規定のいずれがどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているかが示され、且つ、条約の批准を妨げ、又は遅延される障害が述べられていなければならない。
6 勧告の場合には、
  (a) 勧告は、国内立法又はその他によって実施されるようにすべての加盟国に審議のために送付する。
  (b) 各加盟国は、立法又は他の措置のために、総会の会期の終了後おそくとも1年以内に、又は例外的な事情のために1年以内に不可能であるときはその後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にも総会の会期の終了後18箇月以内に、勧告を当該事項について権限のある機関に提出することを約束する。
  (c) 加盟国は、勧告を前記の権限のある機関に提出するためにこの条に従って執った措置、権限があると認められる機関に関する細目及びこの機関が執った措置を国際労働事務局長に通知しなければならない。
  (d) 加盟国は、勧告を前記の権限のある機関に提出することを除き、勧告で取り扱われている事項に関する自国の法律及び慣行の現況を、理事会が要請する適当な間隔をおいて、国際労働事務局長に報告する以外には、いかなる義務も負わない。この報告には、勧告の規定がどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているか、及びこれらの規定を採択し、又は適用するに当って必要と認められた又は認められるこれらの規定の変更が示されていなければならない。
7 連邦の場合には、次の規定を適用する。
  (a) 連邦政府が、憲法制度上、連邦による措置を適当であると認める条約及び勧告については、連邦の義務は、連邦でない加盟国の義務と同一とする。
  (b) 連邦政府が、憲法制度上、全部又は一部について、連邦による措置よりも連邦を構成する邦、州又は県による措置を適当であると認める条約及び勧告については、連邦政府は、
   (1) その憲法及び関係のある邦、州又は県の憲法に従って、立法又は他の措置のために総会の会期の終了後18箇月以内に条約及び勧告が連邦、邦、州又は県の適当な機関に提出されるための有効な取極をしなければならない。
   (2) 関係のある邦、州又は県の政府の同意を条件として、条約及び勧告の規定を実施するための調整された行動を連邦国家内で促進することを目的として連邦の機関と邦、州又は県の機関との間で定期的協議を行うように措置しなければならない。
   (3) 条約及び勧告が連邦、邦、州又は県の適当な機関に提出されるためにこの条に従って執った措置、適当と認められる機関に関する細目及びこの機関が執った措置を国際労働事務局長に通知しなければならない。
   (4) 連邦政府が批准しなかった各条約については、連邦及びこれを構成する邦、州又は県の当該条約に関する法律及び慣行の現況を、理事会が要請する適当な間隔をおいて、国際労働事務局長に報告しなければならない。この報告には、立法、行政的措置、労働協約又はその他によって条約の規定のいずれがどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているかが示されていなければならない。
   (5) 各勧告については、連邦及びこれを構成する邦、州又は県の勧告に関する法律及び慣行の現況を、理事会が要請する適当な間隔をおいて、国際労働事務局長に報告しなければならない。この報告には、勧告の規定がどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているか、及びこれらの規定を採択し、又は適用するに当って必要と認められた又は認められるこれらの規定の変更が示されていなければならない。
8 いかなる場合にも、総会による条約若しくは勧告の採択又は加盟国による条約の批准は、条約又は勧告に規定された条件よりも関係労働者にとって有利な条件を確保している法律、裁定、慣行又は協約に影響を及ぼすものとみなされてはならない。
9 この条の規定に従って採択された条約がその目的を失ったこと又はこの機関の目的の達成に当たりもはや有益な貢献をしていないことが明らかである場合には、総会は、理事会の提案に基づき、出席代表の投票の3分の2の多数によって当該条約を廃止することができる。

第20条

  前条によって批准された条約は、国際連合憲章第102条の規定に従って登録するために、国際労働事務局長が国際連合事務総長に送付するが、その条約は、批准する加盟国のみを拘束する。

第21条

1 最終的審議のために総会に提出された条約が出席代表の投票の3分の2の支持を確保しなかったときも、相互間においてその条約を協定することは、この機関の加盟国の権利に属する。
2 前項によって協定した条約は、関係政府が国際労働事務局長及び、国際連合憲章第102条の規定に従って登録するために、国際連合事務総長に送付しなければならない。

第22条

  各加盟国は、当事国となった条約の規定を実施するために執った措置について、国際労働事務局に年次報告をすることに同意する。この報告は、理事会が要請する様式で作成され、且つ、理事会が要請する細目を記載していなければならない。

第23条

1 事務局長は、第19条及び第22条に従って加盟国が送付した資料及び報告の概要を総会の次回の会期に提出しなければならない。
2 各加盟国は、第3条の適用上承認された代表的団体に、第19条及び第22条に従って事務局長に送付した資料及び報告の写を送付しなければならない。

第24条

  加盟国のいずれかが当事国である条約の実効的な遵守をその管轄権の範囲内において何らかの点で確保していないことを使用者又は労働者の産業上の団体が国際労働事務局に申し立てた場合には、理事会は、この申立をその対象となった政府に通知し、且つ、この事項について適当と認める弁明をするようにその政府を勧誘することができる。

第25条

  理事会は、当該政府から相当な期間内に弁明を受領しなかった場合又はこれを受領しても弁明を満足と認めなかった場合には、前記の申立及び、弁明があるときは、この弁明を公表する権利をもつ。

第26条

1 いずれの加盟国も、他の加盟国が前記の諸条に従ってともに批准した条約の実効的な遵守を他の加盟国が確保していないと認めた場合には、国際労働事務局に苦情を申し立てる権利をもつ。
2 理事会は、適当と認めるときは、後に規定する審査委員会に前項の苦情を付託する前に、第24条に掲げた方法で当該政府と連絡することができる。
3 理事会は、苦情を当該政府に通知することを必要と認めなかった場合又はこの通知をしても理事会が満足と認める弁明を相当な期間内に受領しなかった場合には、苦情を審議し且つそれについて報告すべき審査委員会を設けることができる。
4 同一の手続は、理事会がその発意によっても又は総会における代表から苦情を受けたときにも採択することができる。
5 第25条又は第26条から生ずる事項を理事会が審議している場合に、当該政府は、理事会に代表者を出していないときは、その事項の審議中理事会の議事に参加するための代表者を送る権利をもつ。その事項を審議する期日に関する適当な通告は、当該政府にしなければならない。

第27条

  加盟国は、第26条に基いて苦情が審査委員会に付託される場合には、自国がその苦情に直接に関係があってもなくても、苦情の対象となっている事項に関係のあるすべての資料でその所有するものを審査委員会の使用に供することに同意する。

第28条

  審査委員会は、苦情を充分に審議したときは、当事国間の係争問題の決定に関係のあるすべての事実問題の認定を記載し、且つ、苦情に応ずるために執るべき措置及びこの措置を執るべき期限について適当と認める勧告を含む報告書を作成しなければならない。

第29条

1 国際労働事務局長は、審査委員会の報告書を理事会及び苦情に関係のある各政府に送付し、且つ、報告書が公表されるようにしなければならない。
2 これらの各政府は、審査委員会の報告書に含まれている勧告を受諾するかしないか、及び受諾しない場合に苦情を国際司法裁判所に付託する意図があるかどうかを、3箇月以内に国際労働事務局長に通知しなければならない。

第30条

  加盟国が条約又は勧告について第19条第5項(b)、第6項(b)又は第7項(b)(1)に規定された措置を執らなかった場合には、他の加盟国は、この事項を理事会に付託する権利をもつ。理事会は、このような不履行のあったことを認めた場合には、この事項を総会に報告しなければならない。

第31条

  第29条に従って付託された苦情又は事項に関する国際司法裁判所の決定は、最終的とする。

第32条

  国際司法裁判所は、審査委員会の認定又は勧告を確認し、変更し、又は破棄することができる。

第33条

  加盟国がそれぞれ審査委員会の報告書又は国際司法裁判所の決定に含まれている勧告を指定された期間内に履行しなかったときは、理事会は、勧告の履行を確保するための適宜と認める措置を総会に勧告することができる。

第34条

  勧告を履行しなかった政府は、それぞれ審査委員会の勧告又は国際司法裁判所の決定中の勧告を履行するために必要な措置を執ったことをいつでも理事会に通知し、且つ、その主張を確めるべき審査委員会の設置を要請することができる。この場合には、第27条、第28条、第29条、第31条及び第32条の規定を適用するものとし、審査委員会の報告又は国際司法裁判所の決定が勧告を履行しなかった政府に有利であるときは、理事会は、第33条に従って執った措置の中止を直ちに勧告しなければならない。

 

第3章 一般規定
第35条

1 加盟国は、この憲章の規定に従って批准した条約を、自国が施政権者たる信託統治地域を含めて自国が国際関係に責任をもつ非本土地域に対して適用することを約束する。但し、その条約の主題たる事項が当該地域の自治権内にある場合又は条約が地方的条件によって適用できない場合を除くものとし、また、条約を地方的条件に適応させるために必要な変更を加えることを条件とする。
2 条約を批准する各加盟国は、批准の後なるべくすみやかに、次の第4項及び第5項に掲げたものを除く地域について、条約の規定のどの程度の適用を約束するかを述べ、且つ、条約で定める細目を示した宣言を国際労働事務局長に通知しなければならない。
3 前項によって宣言を通知した各加盟国は、条約の条項に従って、前の宣言の条項を変更し且つ当該地域に関する現況を述べた新たな宣言を随時に通知することができる。
4 条約の主題たる事項がいずれかの非本土地域の自治権内にあるときは、当該地域の国際関係に責任をもつ加盟国は、当該地域の政府による立法又は他の措置のためになるべくすみやかに条約を当該政府に送付しなければならない。その後、加盟国は、当該地域の政府と合意して、当該地域のために条約の義務を受諾する宣言を国際労働事務局長に通知することができる。
5 条約の義務を受諾する宣言は、次のものが国際労働事務局長に通知することができる。
  (a) この機関の2以上の加盟国の共同の権力の下にある地域については、この2以上の加盟国 又は
  (b) 国際連合憲章若しくはその他によって国際機関が施政の責任をもつ地域については、その国際機関
6 第4項又は第5項による条約の義務の受諾は、条約の条項で定めた義務及びこの機関の憲章に基く義務で批准した条約に適用されるものを関係地域のために受諾したものとする。受諾の宣言には、条約を地方的条件に適応させるために必要な条約の規定の変更を明記することができる。
7 この条の第4項又は第5項によって宣言を通知した各加盟国又は国際機関は、条約の条項に従って、関係地域のために前の宣言の条項を変更する新たな宣言又は条約の義務の受諾を終止する新たな宣言を随時に通知することができる。
8 条約の義務がこの条の第4項又は第5項に関する地域のために受諾されないときは、関係のある1若しくは2以上の加盟国又は国際機関は、条約で取り扱われている事項に関する当該地域の法律及び慣行の現況を国際労働事務局長に報告しなければならない。この報告には、立法、行政的措置、労働協約又はその他によって条約の規定のいずれがどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているかが示され、且つ、条約の受諾を妨げ、又は遅延させる障害が述べられていなければならない。

第36条

  総会が出席代表の投票の3分の2の多数によって採択するこの憲章の改正は、この憲章の第7条第3項の規定に従って主要産業国たる加盟国として理事会に代表者を出している10加盟国のうちの5国を含むこの機関の加盟国の3分の2によって批准され、又は受諾された時に効力を生ずる。

第37条

1 この憲章又は加盟国がこの憲章の規定に従って今後締結する条約の解釈に関する疑義又は紛争は、決定のために国際司法裁判所に付託する。
2 この条の第1項の規定にかかわらず、理事会は、理事会によって又は条約の条項に従って付託される条約の解釈に関する紛争又は疑義をすみやかに解決すべき裁判所の設置に関する規則を作成し、且つ、承認のために総会に提出することができる。国際司法裁判所の判決又は勧告的意見で適用できるものは、この項によって設置される裁判所を拘束する。この裁判所が行った裁決は、この機関の加盟国に通報され、裁決に関する加盟国の意見書は、総会に提出されなければならない。

第38条

1 国際労働機関は、この機関の目的を達成するために望ましい地域会議の招集及び地域機関の設立を行うことができる。
2 地域会議の権限、任務及び手続は、理事会が作成し且つ確認のために総会に提出される規則によるものとする。

 

第4章 雑  則
第39条

  国際労働機関は、完全な法人格及び特に次の能力をもつ。
  (a) 契約すること。
  (b) 不動産及び動産を取得し、及び処分すること。
  (c) 訴訟を提起すること。

第40条

1 国際労働機関は、各加盟国の領域において、その目的の達成に必要な特権及び免除を享有する。
2 同様に、総会における代表、理事会の構成員、事務局長及び職員は、この機関に関連するその任務を独立に遂行するために必要な特権及び免除を享有する。
3 前記の特権及び免除は、この機関が加盟国による受諾のために作成する別個の取極で規定する。


 

附 属 書

 

国際労働機関の目的に関する宣言

(フィラデルフィア宣言)

 

  国際労働機関の総会は、その第26回会期としてフィラデルフィアに会合し、1944年5月10日、国際労働機関の目的及び加盟国の政策の基調をなすべき原則に関するこの宣言をここに採択する。

  1

  総会は、この機関の基礎となっている根本原則、特に次のことを再確認する。
  (a) 労働は、商品ではない。
  (b) 表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
  (c) 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
  (d) 欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。

  2

  永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立できるという国際労働機関憲章の宣言の真実性が経験上充分に証明されていると信じて、総会は、次のことを確認する。
  (a) すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ。
  (b) このことを可能ならしめる状態の実現は、国家の及び国際の政策の中心目的でなければならない。
  (c) 国家の及び国際の政策及び措置はすべて、特に経済的及び財政的性質をもつものは、この見地から判断することとし、且つ、この根本目的の達成を促進するものであり且つ妨げないものであると認められる限りにおいてのみ是認することとしなければならない。
  (d) この根本目的に照らして経済的及び財政的の国際の政策及び措置をすべて検討し且つ審議することは、国際労働機関の責任である。
  (e) 国際労働機関は、委託された任務を遂行するに当り、関係のあるすべての経済的及び財政的要素に考慮を払って、その決定及び勧告の中に適当と認める規定を含めることができる。

  3

  総会は、次のことを達成するための計画を世界の諸国間において促進する国際労働機関の厳粛な義務を承認する。
  (a) 完全雇用及び生活水準の向上
  (b) 熟練及び技能を最大限度に提供する満足を得ることができ、且つ、一般の福祉に最大の貢献をすることができる職業への労働者の雇用
  (c) この目的を達成する手段として、及びすべての関係者に対する充分な保障の下に、訓練のための便宜並びに雇用及び定住を目的とする移民を含む労働者の移動のための便宜を供与すること。
  (d) 賃金及び所得並びに労働時間及び他の労働条件に関する政策ですべての者に進歩の成果の公正な分配を保障し、且つ、最低生活賃金による保護を必要とするすべての被用者にこの賃金を保障することを意図するもの
  (e) 団体交渉権の実効的な承認、生産能率の不断の改善に関する経営と労働の協力並びに社会的及び経済的措置の準備及び適用に関する労働者と使用者の協力
  (f) 基本収入を与えて保護する必要のあるすべての者にこの収入を与えるように社会保障措置を拡張し、且つ、広はんな医療給付を拡張すること。
  (g) すべての職業における労働者の生命及び健康の充分な保護
  (h) 児童の福祉及び母性の保護のための措置
  (i) 充分な栄養、住居並びにレクリエーション及び文化施設の提供
  (j) 教育及び職業における機会均等の保障

  4

  この宣言に述べた目的の達成に必要な世界生産資源の一層完全且つ広はんな利用は、生産及び消費の増大、激しい経済変動の回避、世界の未開発地域の経済的及び社会的発展の促進、一次的生産物の世界価格の一層大きな安定の確保並びに国際貿易の量の多大な且つ確実な増加のための措置を含む実効的な国際的及び国内的の措置によって確保できることを確信して、総会は、国際労働機関がこの偉大な事業並びにすべての人民の健康、教育及び福祉の増進に関する責任の一部を委託される国際団体と充分に協力することを誓約する。

  5

  総会は、この宣言に述べた原則が全世界のすべての人民に充分に適用できること並びに、それをいかに適用するかは各人民の到達した社会的及び経済的発達の段階を充分に考慮して決定すべきであるとしても、まだ従属的な人民及び既に自治に達した人民に対してそれを漸進的に適用することが文明世界全体の関心事項であることを確認する。


 以下の改正文書までが組み込まれている。

  • ヴェルサイユ条約署名:1919年6月28日
    発効:1920年1月10日
  • 第4回総会における改正文書の採択:1922年11月2日
    発効:1934年6月4日
  • 第27回総会における改正文書の採択:1945年11月5日
    発効:1946年9月26日
  • 第29回総会における改正文書の採択:1946年10月9日
    発効:1948年4月20日
  • 第36回総会における改正文書の採択:1953年6月25日
    発効:1954年5月20日
  • 第46回総会における改正文書の採択:1962年6月22日
    発効:1963年5月22日
  • 第57回総会における改正文書の採択:1972年6月27日
    発効:1974年11月1日
  • 第85回総会における改正文書の採択:1997年6月19日
    発効:2015年10月8日