共同論説:社会的保護

社会的保護の土台を全ての人に確保することは私たちの連帯責任

 ガイ・ライダーILO事務局長、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官、オリビエ・デ・シュッター極度の貧困と人権に関する国連特別報告者は、将来の危機に対してより強靱となるようコロナ禍からより良く立ち直るには、現在支払う余裕がある人だけでなく、最貧困層や社会の最も縁辺に追いやられた人々も対象とするような全ての人のためのより良い社会的保護と国際連帯が必要と訴える共同論説を発表しました。

声明 | 2020/10/26
社会扶助を求めて列をなす西ジャワ州の数百人の住民 © Arya Dipa / Jakarta Post

 ガイ・ライダーILO事務局長、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官、オリビエ・デ・シュッター極度の貧困と人権に関する国連特別報告者は、将来の危機に対してより強靱となるようコロナ禍からより良く立ち直るには、現在支払う余裕がある人だけでなく、最貧困層や社会の最も縁辺に追いやられた人々も対象とするような全ての人のためのより良い社会的保護と国際連帯が必要と訴える英文共同論説を発表しました。

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 各国政府は新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行とそれが引き起こした社会・経済の混乱に有給一時帰休や現金支給、世帯支援などの一連の特別措置を用いて対応しています。このこと自体は賞賛に値しますが、この対応には二つの大きな限界があります。

 一つ目は、その多くが臨時の短期的な解決策であり、封鎖期間や景気回復が開始されるまでの概念的な期間を対象にしたものである点です。これは数百万人を脆弱にした基底にある状況の変更にも、あるいはこういった人々が将来の危機により良い立場で立ち向かえるようにすることにも寄与していません。

 第二に、これらの措置は端的に言って世界で最も大きな打撃を受けている共同体の多くが直面している実在する脅威に対処していません。新型コロナウイルス対策に関連した政府支出は世界全体で1,150兆円を上回るものの、このはるかに大きな割合が富裕国の支出です。例えば、欧州連合は最近、国内総生産(GDP)の6%に相当する約91.4兆円の復興プランを採択し、日本の景気回復に向けた対策の予算はGDPの22%に相当する117兆円に上ります。一方で低所得途上国の財政措置はGDPの平均1.2%に留まります。

 途上国、とりわけ低所得国の国内資金は限られており、一部輸出商品価格の下落が状況をさらに悪化させています。これらの国は端的に言って、より根本的な強靱性を構築するようなより長期的な社会的保護制度はもとより、自国民が必要としている包括的な危機対応策を導入することさえできないのです。

 新型コロナウイルス以前から既に、社会保障が全く適用されないか、部分的にしか適用されない人は世界人口の69%を占めていました。世界の子どもの約3分の2に社会的保護が適用されず、現金失業給付の受給者は失業者の22%に過ぎず、現金障害給付の受給者は重度障害者のわずか28%に過ぎませんでした。

 コロナ禍のような地球規模の危機は地理的な境界にも政治的な境界にも従いません。これに対する私たちの強さは最も弱い人々のレベルに揃えられます。より大きな強靱性とより効果的な回復力を築きたいと望むならば、私たちは全ての国の強固な社会的保護の土台の構築を支援する必要があります。現在のような場当たり的なやり方は、炎が上がってから消防士の採用を始め、燃えさかる建物の中のほんの数部屋だけを救うよう指示するようなものです。

 これが機能しないのは明白です。このような状況下では国際連帯が必須であり、一人ひとりの利益にかなっています。

 全ての人に社会的保護の土台を広げる資金は負担可能です。全ての途上国が社会的保護に対して既に行っている投資額と医療保健を含む完全な社会的保護の土台の経費との差額を示す財源ギャップは新型コロナウイルスの影響を算入すると現行年で約125兆円に上りますが、低所得国に限ると約8兆円に過ぎず、先進国のGDPに比べると取るに足らない額です。しかしながら、社会的保護に向けた政府開発援助総額は援助国の国民総所得のわずか0.0047%に過ぎません。

 国際人権法は、裕福な国には資金がより限られている国の社会権の実現を助ける義務があることを認めており、この公約を具体的な援助に変える数多くの措置が既に講じられています。

 2011年には専門家の諮問グループから援助国・機関に向けて途上国の社会的保護強化に向けて予見可能な複数年にわたる資金拠出を行うことが提案されました。2012年には2人の独立した国連の人権専門家から、低所得国が自国民のために社会的保護の土台を構築するのを助ける社会的保護グローバル基金の提案が出されました。同年、当時185カ国だったILO加盟国政労使は「国内の社会保障制度の基本的な要素として社会的な保護の土台を定め、維持する」との公約を全会一致で採択することによって包括的な社会的保護の考えを支持しました。

 現下の危機からの「より良い立て直し」が必要であり、そうしようとの公約はたびたび耳にしますが、最貧困層と社会の最も縁辺に置かれた人々を含む誰もが最低限の水準の社会的保護を得て初めてこれは達成できるのです。

 各国は社会的保護を全ての人に実現するため、得られる資金を最大限配備すべきです。これにはより効果的な課税法と腐敗対策が必要かもしれません。この資産再配分は、より長期的には、不平等と差別を抑える助けになり、「誰も置き去りにしない」という「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の誓いを支えることになるでしょう。

 この危機は私たちに多くの教訓を与えましたが、その一つはより良い立て直しには既に負担できる余裕がある人だけでなく、全ての人のより良い社会的保護と国際連帯が必要であるということです。私たちはこのメッセージを無視した場合、将来世代を再び、今日私たちが目にしているような限りない苦難に耐える運命に追い込む危険を冒すことになります。これは確実に許容できない展望です。