「あきこの部屋」第40回 わずか1割の勤労者に世界の賃金の半分近くが集中

一部の地方を除き、梅雨明けとなり、本格的な暑い夏が到来しました。

7月21日に参議院選挙が行われ、自民党・公明党の与党は改選議席の過半数を獲得しましたが、憲法改正に前向きな野党の一部を併せても3分の2の確保までにはいたりませんでした。投票率は選挙区48.80%、比例代表48.79%と史上2番目の低さでした。

6月末のG20大阪サミットに参加した、ILOガイライダー事務局長は「格差への対処、包摂的かつ持続可能な世界」というセッションで発言し、また、女性や若者、障害者の参加を支援する包摂的な社会に向けた取り組みを約する大阪首脳宣言を歓迎しました。(関連ウェブページ

7月は外務省ODAマガジンでILO100周年をとりあげていただき、「夢のような話」とも評された政労使三者構成による国際労働基準の設定や社会正義の実現を目指すILOの理念や日本の活動を紹介いただき、国連広報センター(UNIC) 『TICADリレーエッセー“国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱”』には本部の塚本美都さんのアフリカへの熱い想いが掲載されました。(詳しくはこちらよりご覧ください。)

駐日事務所では、4月に出版された「仕事の未来の中心にある安全と健康:土台となる100年の経験」の翻訳をウェブに掲載しました。また、私自身は、協同組合デーについての日本のイベントで基調講演とコメンテーターをつとめ、京都大学総合生存学館(思修館)の国際教育セミナーで「進路としてのILO:創設100周年を迎えて」と題した講演をさせていただきました。開発途上国支援や国連の活動に関心を持つ学生も多く、将来が楽しみです。

また、8月28日を締切りとする世界各地のILO専門職等の空席募集のご案内 を出しています。国際機関での勤務を希望する意欲のある方の御応募を期待しています。

さて、今月は、ILOの労働統計データベースILOSTATの労働分配率・勤労所得分布データ集合を紹介します。これは、世界189カ国の労働分配率(賃金や収入を通じて勤労者が受け取る所得が国内総生産(GDP)に占める割合)についての初の国際比較可能な数値と勤労所得分布という、二つの新しい指標について、国・地域別、世界全体で示しています。このデータ集合は今後、国連の持続可能な開発目標(SDGs) の進捗状況のモニタリングにも用いられます。

このデータから世界全体の所得階層別で上位10%に属する勤労者が受け取る勤労所得は全体の48.9%を占めるのに対し、下位50%の勤労者の所得は全体のわずか6.4%にすぎないことが判明しました。

勤労所得不平等について、世界全体では2004年から縮小傾向を示しているものの、これは、中国とインドという二大新興国の富裕化が理由であり、国内レベルの賃金不平等はむしろ拡大傾向にあります。約6億5,000万人に上る所得階層別で下位20%に属する勤労者の勤労所得は全体の1%にも満たず、状況は過去13年間ほとんど変化しておらず、全体として賃金の不平等が相変わらず広く見られます。
 
データ集合の分析によれば、世界的に労働分配率は低下傾向にあります(2004年53.7%→2017年51.4%)。賃金分布を国際加重平均で見ると、所得階層別で中位60%に当たる中間所得層が受け取る所得の割合は低下傾向にあるのに対し(同44.8%→43%)、上位20%の所得割合は増えています(同51.3%→53.5%)。日本は実データでなく補定データであるため、国際比較はできませんが、この13年間の労働分配率は微減(同54.6%→54.2%)、所得階層上位10%の所得割合は低下したのに対し(同28.56%→27.64%)、下位10%の所得割合は若干上昇しています(同1.07%→1.10%)。

所得階層下位50%が受け取る勤労所得はサハラ以南アフリカでは全体のわずか3.3%に過ぎないのに対し、欧州連合では22.9%に上るといったように、賃金の不平等は貧しい国の方が大きくなる傾向がありまず分析したILO専門官は、「世界の労働者の下位50%の平均賃金は月額198ドルに過ぎず、下位10%が上位10%の年収相当額を得るには300年以上働く必要がある」ことを挙げ、世界の労働力の大半が驚くほどの低賃金に耐え、仕事があるだけでは暮らしていくのに十分でない人も多い現状を示しています。

ILOSTATでは就業・失業、労働生産性、労働時間、労働組合組織率、無償労働、児童労働など、労働分野の幅広い統計データを入手できます。

さて、今月末には横浜でTICADです。8月29日のサイドイベントへの御来場をお待ちしています。