「あきこの部屋」第36回 ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来を全ての人に

2019年3月28日

桜が見頃を迎え、多くの人々が花見を楽しんでいます。

3月27日に、2019年度予算案が参議院本会議で可決、成立しました。一般会計の総額が101兆4571億円と、当初予算で初めて100兆円を超え、この中には、ILOに対する日本国政府の分担金及び任意拠出金が含まれています。日本国政府は、3月にフィリピン・ミンダナオの水供給と雇用の確保、和平定着を目指す新プロジェクト を開始しました。

今年は日本がG20、TICAD(アフリカ開発会議)など重要行事の主催国ですが、3月には政府以外が主催するW20/WAWB20 が開催され、それぞれコミュニケがG20議長を務める安倍内閣総理大臣に手交されました。また、国連広報センターの『TICADリレーエッセー“国連・アフリカ・日本をつなぐ情熱”』で、ILO職員のエッセー が紹介されました。

さて、日本人専門家2人が執筆し、ILO社会的金融専門家が監修した金融面での社会的包摂を促進する手段の1つとしての日本の労働金庫についての調査研究報告書がまとまり、3月28日の記念シンポジウムに私もパネリストとして参加させていただきました。

今年も3月は国際女性の日にちなんでジェンダーをとりあげます。ILOの新刊書『A quantum leap for gender equality: For a better future of work for all(ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来を全ての人に)』は、「過去20年間に仕事に関連したジェンダー間格差はめだった改善はないものの、進むべき道は明確」であり、「もはや女性が男性に後れを取らない仕事の未来は手の届くところにあるものの、到達するには小刻みの前進ではなく、大きな跳躍が必要」と説いています。

本書は「ILO100周年記念イニシアチブ」の1つである働く女性イニシャチブの成果物です。2017年のILOとギャラップ社の共同報告書では、7割の女性が有償の仕事に就くことを望んでおり、男性もそれに同意しているにもかかわらず、2018年現在就業率のジェンダー間格差は26ポイントあり、過去27年間に2ポイントも縮小していません。その上、6歳未満の子どもの有無で女性の就業率を比較した場合、2005~15年の期間にこの差は38ポイントも拡大しており、母親であることの就業におけるハンディキャップは明らかです。

組織のトップに女性が少ない状況については過去30年間ほとんど変化が見られず、女性は男性の同僚よりも教育水準が高い場合が多いのに、管理職全体の3分の1にも達していません。女性の方が就業率や賃金が低い主な理由は教育ではなく、むしろ女性が教育から男性と同等の配当を得ていないためです。母親というハンディキャップは管理職でもあり、管理職に占める女性の割合は、6歳未満の子どもがいない場合は31%、いる場合は25%に低下します。

世界的に女性の賃金は依然として男性の平均8割に過ぎませんが、母親というハンディキャップは勤労生活全体で見られるのに、父親になると賃金が高くなる現象が見られます。

就業における平等を妨げている最大の要素は「育児・介護といったケアの提供」であり、過去20年間に家事や無償のケアに女性が費やす時間はほとんど減らず、男性の家事・育児・介護時間は1日当たりわずか8分しか増えず、このペースでは「無償のケア労働に費やす時間の点でジェンダー平等が達成される」には200年以上かかることになります。家庭内、家庭と国家との間でケア責任をより平等に分担し、よりジェンダー平等な仕事の世界の形成における男性の役割を強調して、男性がより平等に無償のケア労働を分担するようになれば、管理職女性が増える可能性が指摘されています。

ILOが、LinkedIn (職業人のネットワーキングのためのウェブサイト) の協力を得て収集した、世界の就業人口の22%にあたる3地域5カ国のデータによれば、最もニーズが多く、報酬が高い理系職業に必要なデジタル技能を有するLinkedIn利用者の中で女性は3分の1から4分の1を占めるに過ぎませんが、一方、女性が部長級の役職に到達する速度は男性よりも1年以上早いことが明らかになりました。

ジェンダー平等の達成には相互に関連する四つの分野における政策の変更と行動が必要です。1つ目の平等な仕事の世界の基盤となる権利の道には、機会平等の権利、差別や暴力、ハラスメントを受けない権利、同一価値労働同一賃金の権利などが含まれます。二つ目は、ケアのための時間や包摂的なケア政策・体制を伴う、誰もがもっとケアに時間を割ける仕事の未来に至る道です。このような未来は雇用創出の大きな可能性を意味するものでもあります。全ての人にいきわたる普遍的な社会的保護や健全なマクロ経済の枠組みも必要です。三つ目の道は、科学技術、人口動態、気候変動など、世界が幅広く変容する中、仕事の変遷の過程で女性が取り残されないようにし、支援する努力です。四つ目の道は、今までの三つの道が効果を発揮するよう、女性の発言力と代表性を強めることです。

ガイ・ライダーILO事務局長は、「就労に係わるジェンダー平等に関する進歩を改善する活動を加速させない限り、社会正義を伴った仕事の未来には到達できない。ケアや社会的保護、労働時間とキャリアの両方についてのより柔軟なアプローチなど、女性に公平な立場での競争を提供するサービスへの投資に支えられた法規の実施などを含む、変化をもたらす基本方針の実施が必要である。また、労働力に加わる女性や仕事の世界における女性の位置づけに対してとるべき態度という根強い課題も挙げられる」と説いています。