「あきこの部屋」第32回 世界賃金報告

11月の始めに立冬を迎えましたが、最近は小春日和が続いています。2025年国際博覧会(万博)の大阪開催が決定しました。高度成長が続いていた前回の1970年から55年ぶりとなります。

臨時国会では、少子高齢化による深刻な人手不足に対応するため、外国人の受け入れ政策の変更をめざす出入国管理法の改正法案は11月27日に衆議院を通過しました。新たな在留資格 を創設し、外国人労働者を受け入れを進めるというもので、参議院に場所を移して、与野党の激しい攻防が続きます。

上旬にケニア協同組合同盟(Co-operative Alliance of Kenya)視察団が来日し、受け入れに協力した日本協同組合連携機構(JCA)が開催した歓迎式に参加しました。この視察団は、日本生活協同組合連合会(日本生協連)とILOの共催のアフリカの協同組合リーダー研修プログラムが契機となり実現したものです。

上智大学での講義、「日EU経済連携協定(EPA) – 貿易、投資および協力のさらなる機会についてのハイレベルセミナー『技術的変化と労働市場に与える影響』」での発表、産業労使秋祭りでの鏡割りへの参加などを行いました。


出版物では、「SDG Note: ディーセント・ワークに向けた民間部門との関わり-企業活動と投資」と題するパンフレット及びILO多国籍企業宣言:労働者のためのガイドの日本語版を作成しました。




さて、今月は、ILOの定期刊行物の1つ、『Global wage report(世界賃金報告)2018/19年版(2008年から隔年で刊行)』が発表されたので、これを紹介します。報告書は世界、地域別、そして136カ国の賃金動向を示し、失業率の低下と経済成長の回復にもかかわらず、賃金上昇が鈍いままである理由を分析しています。また、「男女間賃金格差の背景」を副題に掲げ、世界及び国別の男女間賃金格差を検討し、政策策定に携わる人々が問題をより良く把握し、現在の認識を変更しうるような新たな計算方法を提示しています。

2017年の世界の賃金上昇率は1.8%(2016年2.4%)に過ぎず、2008年以降最も低く、物価上昇率を調整した実質ベースで、世界金融危機前の水準を遙かに下回りました。主要20カ国・地域(G20)の中でも、日本など先進国の伸びは2016年の0.9%から2017年には0.4%に低下した一方で、新興・途上国は2015年2.9%、16年4.9%、17年4.3%と変動しています。

過去20年間にG20の先進国の平均実質賃金はわずか9%しか上昇していないのに対し、新興・途上国ではほぼ3倍の伸びが見られます。しかし、低・中所得国の多くで賃金不平等は相変わらず大きく、労働者とその家族のニーズを満たすには賃金が不十分なこともあります。

高所得経済では、GDPの伸びの回復と失業率低下の一方で賃金上昇の鈍化が見られ、2018年まで賃金上昇の低迷が続くことを示す早期の兆候が出ていまず。賃金の停滞は、経済成長や生活水準上昇の障害となり、「各国は労使の社会的パートナーと共に経済的にも社会的にも持続可能な賃金上昇を達成する道を模索すべき」とされています。

男女間賃金格差については、世界の賃金労働者の8割程度に相当する約70カ国のデータを用いて、より正確な革新的方法で算出したところ、依然として世界平均で女性の収入は男性の8割近いことがわかりました。高所得国では高賃金層で男女間賃金格差がより大きいのに対し、低・中所得国では低賃金層における格差の方が大きくなっています。

男女の給与労働者に見られる教育水準の違いなどの伝統的な分析方法では、男女間賃金格差を限定的にしか説明できないことを、実証的証拠を用いて明らかにしています。「同じ職種の男女の場合でさえ、女性が男性より教育水準が高くても男性より賃金が低い国が多い状況」、さらに、「女性労働力が圧倒的多数を占める職業や企業では男女ともに賃金が低くなる傾向」があることを指摘し、「男女間賃金格差の縮小には男女同一賃金の確保及び女性の仕事の過小評価対策」に重点を置くことが提案されています。


男女間賃金格差に影響を与えるもう一つの要素は、子供を持つことです。子供のいる女性の方がいない女性よりも賃金が低くなる傾向があります。これには、労働市場の中断、労働時間の減少、より家族に優しい一方賃金が低い仕事における雇用、企業における固定観念に基づく昇進の決定など、様々な原因が関係すると考えられます。さらに、男女間での家事のより公平な分担は、多くの場合、女性が選択できる職業の幅の広がりにつながることがわかりました。また、女性が子供を持つ前から賃金格差が既に存在することを示す証拠も存在し、労働市場に参加する時点で固定観念と差別をなくす必要があることが推測できます。