あきこの部屋 第11回 「大型スポーツイベントとILO」

2017228

2月は初旬の立春を過ぎると、暦の上では春になりますが、1年で最も寒い日々が続きます。立春の前日は節分で、祝日ではありませんが、各地で厄や災難を追い払い、幸福を呼び込むために豆をまく儀式が行われ、有名な神社では、逃げ惑う赤鬼、青鬼に豆をぶつけて、追い払う行事に大勢の観光客が集まります。鬼は災難を現しますが、人間が扮しているので、ILOで勤務していると、排除でなく、包摂の対象にできないかと考えたくなります。

さて、今月は、近年ますますその規模や開催回数が拡大しているオリンピックやワールドカップのような大型スポーツイベントとILOの関わりについて紹介します。大型スポーツイベントでは、その招致活動から終了後のレガシー(遺産)まで、建設業、観光業、サービス業、繊維業、スポーツ用品、商取引、警備業、廃棄物管理等の業界全体で、大規模な公共調達が行われ、国内外の大多数の労働者が関与することになります。このため、環境面はもちろんのこと、労働分野や人権についても、長期の持続可能な開発に寄与することが求められるようになりました。

実は、ILOとオリンピックは古くからの関係があり、創設2年後の1921年に近代オリンピックの父、クーベルタン男爵とILO初代事務局長アルベール・トーマがスポーツや労働者の余暇の重要性などについて会談し、運動競技と職場における生活の質等について規定する1924年の余暇利用施設勧告(第21号) (2004年に撤回された)の採択につながりました。

1990年代には、パキスタンのシアルコート地方のサッカーボール製造における児童労働の撤廃に関する国際サッカー連盟(FIFA)との連携を開始しました。手縫いのサッカーボールの産地であったこの地方では、児童労働を使った家内生産が頻繁にみられるようになり、欧米のメディアの指摘で国際的に大問題となりました。FIFAは、児童労働を用いて製造されたサッカーボールにFIFAの公式スタンプを押すことを禁止し、1997年にシアルコート商工会議所は、ILO及びユニセフと協定を結び、14歳未満の子どもがこの産業で働くことを禁ずる共同プロジェクトを開始しました。2002年にはFIFAとILOは児童労働撤廃に向けたレッドカードキャンペーンを開始し、現在に至っています。

ILOはまた1998年にIOC(国際オリンピック委員会)との協力の覚書を締結し、その後に開催されたオリンピックにおいて、社会対話の促進、調達や労働者の労働条件に関し、助言やサポートなどを行ってきました。2016年に採択されたIOCの持続可能な運営戦略にも関わっています。

ILOが、250のスポーツに関するプロジェクトについて調査したところ、スポーツイベントを通じて、関係する人々の技能と社会的な能力の両方が向上し、ひいては就業能力(エンプロイアビリティー)の向上にもつながり、労働市場への参入に大きく役立つことが判明しました。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、特に持続可能性に重点を置いています。これからオリンピックなどの大型スポーツイベントの招致を考えている新興国や開発途上国に役立つようなレガシーを残すことが求められるでしょう。ILOとしてどのような支援ができるかが、検討課題となっています。