あきこの部屋 第7回 「社会的保護の土台」

20161031

日本では、約50年前の1964年に東京オリンピックが開催されましたが、その開会式が行われた1010日(2000年からは第2月曜日)を体育の日として祝日としています。1964年は日本がOECDに加盟し、また世界銀行から融資を受けて東海道新幹線を開業した年でもあります。これらに先立つ1961年に、自営業者や無業者も含め、基本的にすべての国民を公的年金制度の対象とする国民年金制度が実施され、また、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入する国民皆保険体制が確立されました。今月は社会保障も含む社会的保護に関するILOの活動を紹介します。

ディーセント・ワークの実現に向けた4つの戦略目標の1つにあげられている社会的保護には、社会保障のみならず、 安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備も含まれます。しかし、残念なことに、現在でも、包括的な社会的保護が適用されるのは、世界人口の27%に過ぎません。言い換えれば、50億もの人々が保障のない生活を余儀なくされているのです。

ILOは創設以来、社会的保護の充実に取り組んできました。労働者に対する社会保障の権利の実現はILO憲章 に既に掲げられていますし、さらに1944年の「フィラデルフィア宣言」 では、社会保障の権利を万民共通の普遍的な権利に高めています。社会保障の最低基準に関する条約(第102号、1952年)を始め、国際労働基準を多数採択しています。しかし、前述したような現状に鑑み、ILOは2012年、各国における「社会的な保護の土台に関する勧告(第202号)」を採択しました。「社会的保護の土台」とは、必要不可欠な保健医療及び基本収入の保障を意味し、それを提供することで、児童、生産年齢にある者、高齢者などすべての人々の生活の向上、貧困削減や不平等の解消、成長や発展の促進につながると考えられています。

ILOは、これまで多くの技術協力プロジェクトを実施していますが、すべての人に対する社会的保護の土台の構築をめざすプログラムは、世界規模で、政労使との開発協力の効率性と影響力を高めることをめざす5主要プログラムの1つとされました。社会的保護の土台の構築プログラムは、社会的保護が部分的に適用されている、または全く適用されず尊厳が守られないまま生きている人々への社会的保護を拡充する活動で、過去10年間に136カ国に支援を行いましたが、2020年までに5000万ドルの予算で、13000万人の生活を向上させることをめざします。

また、ILOは定期的に「世界社会的保護報告」を発行しています。最新版2014/15年版[5]で、「景気回復、包摂的な発展、社会正義の構築」を副題として、190以上の諸国について子どもと家族に対する社会的保護、生産年齢における社会的保護、高齢者の社会的保護、医療の皆保険に向けて、社会的保護の拡大という章立てで、世界の社会的保護の最新の動向をまとめています。

さて、日本では国民皆保険・皆年金の達成から半世紀が過ぎ、その間社会保障制度は何回か大きな見直しが行われました。現在は少子高齢化が進展し、雇用環境の変化、貧困・格差の問題など、社会が大きく変化しています。こうした中で、社会保障制度を守り、進化させ、受け継いでいくため、時代の要請に合ったものに変えるための検討が行われています。日本の制度にも課題はありますが、これまでの経験がこれから社会的保護の充実を目指す国の一助となることを期待しています。