「あきこの部屋」 第2回-労働安全衛生について


5月のヨーロッパはさまざまな花が一斉に咲き始めるため、シューマン作曲の「美しい5月に」のように、称える歌もありますが、日本では、アジサイの季節になりました。今月の終わりからスイスのジュネーブでいよいよILO総会が始まります。

ILOの推定では、労働災害の被災者は世界全体で年間3億1,700万人に達し、230万人以上(15秒に1人)が業務関連の事故や疾病で命を落としています。一方、日本の2015年の労働災害による死亡者数は972人で、統計を取り始めて以来、初めて1,000人を下回り、過去最高だった1961年の6712人の7分の1になりました。1958年から労働災害防止計画を策定して、労働災害を減少させるために、尽力してきました。今月の「あきこの部屋」では、労働安全衛生をとりあげます。なお、OSHに関する国際労働基準の公定訳は職業安全健康ですが、ここでは、日本の厚生労働省の組織名、法律名である労働安全衛生を使うことにします。

 

ILOは設立時から労働安全衛生に取組み、技術協力活動も熱心に行ってきました。農林水産業も含めたすべての産業分野にかかわり、ディーセント・ワークの実現のための4つの戦略目標では「社会的保護の拡充」の中に入ります。今年のILO総会の議題であるグローバル・サプライ・チェーンにおいても、主要トピックとなっていますが、2015年のG7エルマウ・サミットでもとりあげられ、ILOの労働の未来のイニシアチブにおいても、絶対忘れてはならない課題と位置づけられています。

国際労働基準の半分近くがこの分野に関するものです(参照)。1980年以前は、そのときどきの国際的関心を反映した特定危害からの保護や特定業務における保護を主体とした基準が多いのに対し、1980年以降は包括的な使用者責任と労使協力を基盤にした職業上の安全及び健康に関する条約(第155号、1981年)、職業衛生機関条約(161号、1985)などが採択され、さらに2000年に入り、労働安全衛生を国の政策課題の上位に位置させ、「予防的な安全衛生文化」を育むことを目指す職業上の安全及び健康促進枠組条約(第187号、2006年)が採択されました。日本は、第187号条約を20077月に批准した最初の批准国です。

ILOは、第187号条約がその内容とする啓発活動の一環として、2003年から428日 を「労働安全衛生世界デー」と定め、加盟国政労使と協力し、労働災害と職業病の予防の重要性に人々の注意を喚起する日としています。日本では全国安全週間(71日~7日)、全国労働衛生週間(101日~7日)で広報啓発活動を行っていますが、世界デーにも関心を高めたいと思っています。そのため、今年の世界デーのテーマである「職場内ストレス:集団的な課題」についてまとめた報告書の日本語訳を作成しています。報告書は、メンタルヘルス問題との関係性が十分に確立されている職場内ストレスについて、日本を含む世界中の最新の研究を調査して得られた世界的な趨勢と影響を記し、様々な国内・国際的な取り組みを紹介しています。

社会や企業が支払う職場内ストレスの代償を減らすのに大きな影響力があると思われるものとして、1)この問題に引き続き焦点を当てること、2)予防戦略に重点を置くこと、3)職場内意思決定に労働者を参加させる包摂策、4)包括的な労働安全衛生マネジメントシステムの導入、5)信頼、誠実、パートナーシップを基礎とした労働関係を確保する組織文化の醸成を挙げ、職場内ストレスの影響削減に向けて引き続き共に取り組み続けることが提唱されています。

日本でも2014年の労働安全衛生法改正により、201512月から、1年に1回常時使用する労働者に対して、医師や保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することを事業主に義務付けるストレスチェック制度を導入していますが、本書も参考にしていただくことを期待しています。

さて、今の私の最高のストレス解消は帰りに駅前のペットショップに寄る事です。子ネコたちがじゃれあう姿をみて癒されています。ネコにとっては人間に見られるのは職場でのストレスになるかもしれませんが。