ILO新刊:HIV/エイズ

ILO新刊:HIVと共に暮らす人々の就労継続を助ける社会的保護/政府の取り組みを補完するスリランカの民間医療保険

2014年06月27日

 エイズウイルス(HIV)にはなおも不名誉な烙印と差別がつきまとい、インフォーマル経済、とりわけ女性や性産業で働く人々、トランスジェンダー(生来の性に違和感を感じ、逆の性で生活しようとしている人々)の人々、男性同士の性交渉者、注入薬物利用者などの鍵を握る集団はより大きな課題に直面しています。ILOがこのたび発表した新刊書『ACCESS to and EFFECTS of social protection on workers living with HIV and their households: An analytical report(HIVと共に暮らす労働者及びその世帯の社会的保護の機会とその影響:分析報告・英語)』は、社会的保護がHIV感染者に好影響を与えることを示しています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)でHIVの影響が大きい国群に分類され、現在、社会保障制度の整備または拡大を進めているグアテマラ、インドネシア、ルワンダ、ウクライナにおける調査研究をもとに作成された本書は、この4カ国では社会的保護の機会が与えられたHIV感染者の63~95%が仕事または何らかの形態の生産的な活動を維持し、49~99%が子どもを学校に通わせ続け、72~96%が命を救う抗レトロウイルス治療を受けることができたことを示しています。

報告書発表会において、HIVと暮らす人々にとっての社会的保護の役割の重要性を説くUNAIDS、世界銀行、国連児童基金(UNICEF)、HIV陽性者世界ネットワーク(GNP+)の代表者ら(英語)

 報告書を作成したILOのHIV/エイズと仕事の世界部のアリス・ウエドラオゴ部長は、抗レトロウイルス治療の機会はHIV感染者を生きながらえさせることができるものの、より幅広い社会的保護の給付の欠如はしばしば感染者とその世帯を貧しく脆弱なものにすることを指摘し、2015年以降の開発課題に向けた準備が進められている今、「HIV感染者と鍵を握る人口集団を含み、誰も置き去りにしない政策及び事業計画に投資すること」の重要性を説いています。

報告書を紹介するウエドラオゴHIV/エイズと仕事の世界部長(英語)

 報告書はまた、たとえ政策上包摂されていても、HIV感染者は事業計画の存在に気づかないか、サービスを受けるための手続きが面倒なために必要不可欠なサービスを得る上で困難に直面する場合が多いことを示しています。さらに、保健所に行くための交通費などの現金支出の問題にも触れ、HIV感染者、とりわけインフォーマル経済で暮らす人々の健康保険の適用拡大や生計支援の必要性に光を当てています。そして、社会的保護の影響力をさらに高めるために必要なものとして、保健サービスに加えて所得、生計、雇用上の支援の組み合わせを提案しています。ILOの「2010年のHIV及びエイズ勧告(第200号)」は、各国が仕事の世界におけるHIV及びエイズ関連事項を労働、教育、社会的保護、保健などを含む国の開発政策・事業計画の一部にすることによってこの問題に取り組む方法に関する手引きを提示しています。「2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)」は、普遍的な社会的保護の適用、非差別、男女平等の原則に則り、社会的保護の適用を漸進的に実現していくことを提案しています。

HIV感染者に占める割合
グアテマラ インドネシア ルワンダ ウクライナ
社会的保護の機会が確保されている人の割合 65% 57% 83% 96%
保健医療以外の社会的保護の機会が確保されている人の割合 19% 16% 25% 31%
社会的保護の機会が確保されているHIV感染者中に占める割合
  • 仕事を続けている人の割合
63% 69% 95% 91%
  • 子どもを学校に通わせ続けている人の割合
データなし 49% 99% 99%
  • 抗レトロウイルス治療を受けている人の割合
96% 84% 95% 72%

HIV感染者への医療保険適用に動くスリランカの保険会社

 社会的保護の分野で優先的な役割を担っているのは公的部門ですが、HIV感染者の大部分、とりわけ女性やトランスジェンダーの人々などはインフォーマル経済で働き、雇用契約が結ばれていない場合が多いため、公的保険で保護されていません。また、政府の提供する抗レトロウイルス治療や日和見感染症治療は無料でも、交通費などのその利用に伴う支出が多いことを報告書は指摘しています。

ジャナシャクチ保険会社のシャフター副会長

 HIV感染者が医療保険から除外され、HIV関連医療費の払い戻しを受けられないスリランカでILOは数年前から保険会社との全国的な対話を求めてきました。2013年8月、四半期毎に開かれる最高経営責任者(CEO)の定例全国フォーラムでHIV感染者の保険加入に向けた社会的・経済的論拠について発表する機会が同国で活動するILOのプロジェクト調整官に与えられました。HIVを保険対象に含んでも企業にとってそれほど大きな負担にならないことを力説して、インディラ・ヘチアラクチILOスリランカ・プロジェクト調整官は、根拠に裏打ちされた人道的かつ経済的な論拠を示し、会社方針の改善は人々の貧困化を予防する助けになることを強調しました。説得は効を奏し、複数のCEOが方針の全面的な見直しを決定しました。その一人であるジャナシャクチ保険会社の創設者であるチャンドラ・シャフター副会長は、「HIVは糖尿病やがん、腎不全などと大差ないと私は考える」として、予期せぬ事象に備えることが保険の趣旨であることを挙げて、「取り扱いを区別する実質的な理由はない」と語っています。

 既にジャナシャクチ保険、ピープルズ保険、アライアンス保険、協同組合保険会社の4社がHIV関連の免責条項を取り除き、感染者への医療費支払いに乗り出しました。医療機関までの公共交通機関による交通費などの関連支出も補填されることになる保険会社のこの決定に対し、8年前にHIV陽性と診断された既製服販売業者のパリタ・バンダラさんは、「医療上の緊急事態の際に本当に助かる」と喜びの声を上げると共に、これが感染者及びその家族の生活の質を高め、差別や不名誉な烙印を減らす助けになることへの期待を示しています。

 今回の4社の動きは国内で営業する保険会社20社すべてにおけるHIV関連免責条項除去の最終目標に向けた最初の一歩ですが、ILOスリランカ・モルジブ国別事務所のドンリン・リー所長はこれを「HIV感染者及びHIVの影響を受けている人々の社会的保護の改善における非常に重要な道標」と評価し、さらに多くの保険会社がこの動きに追随し、差別の撤廃に向けた大きな前進が見られることへの希望を述べています。

 HIV/エイズと仕事の世界部のウエドラオゴ部長も民間部門が政府の取り組みを補完してHIV感染者に医療保険を広げることは「極めて重要」と評し、他の国でもスリランカの保険会社の例に倣うケースが出てくることへの期待を語っています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)のダヤナス・ラナトゥンガ・スリランカ担当官もこの介入が民間部門における治療及び関連サービスの利用を阻む金銭的な障害を取り除き、HIVの治療、ケア、サポートの幅を広げることを指摘して、スリランカのHIV対応における「偉大なる業績」と評価しています。

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 以上は次の英文記者発表と関連記事の抄訳です。

  1. 2014年6月27日付ジュネーブ発記者発表-ILO新刊:HIVと共に暮らす人々の就労継続を助ける社会的保護
  2. 2014年7月7日付ジュネーブ発広報記事-HIV感染者への医療保険適用に動くスリランカの保険会社