仕事の未来
ILO新刊:産業を変革しつつある科学技術はアセアンの成長と仕事にとって決定的に重要
2016年07月07日
ILO使用者活動局からこのたび発表された新刊書は、東南アジア諸国連合(アセアン)の五つの主要産業を対象に、科学技術が職場に与えている影響、そして今後10年間に労働者や企業に予期される変化を分析し、付加製造やロボット工学、物のインターネット(IoT)などといった先端技術は、成長と雇用に寄与する相当の潜在力を秘めていることを見出しています。4,000以上の企業、2,700人以上の学生を対象に行った、アセアン全域にわたる二つの調査とアセアン内外の330以上の利害関係者の面談調査を通じて、自動車・自動車部品製造、電機・電子産業、繊維・衣料・履物産業、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、小売業の職場に科学技術が与えている影響を調べた結果、調査対象企業の6割以上がこういった科学技術を、販売増、労働生産性、高技能労働者の雇用にプラスと見ていることが判明しました。
『ASEAN in transformation: How technology is changing jobs and enterprises(変容するアセアン:科学技術がもたらす仕事と企業の変化・英語)』と題する報告書は、生産性、品質、一貫性、職場の安全性向上に向けて段階的に自動化を進めてきたアセアンの製造業にとってロボットの時代は既に現実のものとなっていることを示しています。重要なこととして、幅広いロボットの使用は必ずしも自動的に人員の置き換えにつながってはおらず、ロボットは現在、高技能労働者の生産性を高めるように、人間を中心にした協同的な形で配備される傾向があります。しかし、アセアン全体で若い女性を中心に900万人以上が従事する繊維・衣料・履物産業のような労働集約的な産業の場合は状況が異なり、より技能水準の低い仕事が付加製造や自動化のような破壊的技術に特に弱いことが示されています。これは製品の仕向地である欧米諸国が生産を自国に呼び戻すことによる輸出の伸びの減速を引き起こす可能性があり、特にカンボジアやベトナムなど一部アセアン諸国に相当の社会的影響をもたらす可能性があります。
報告書は、大規模な雇用喪失が差し迫っているわけではないとしつつも、主として低技能職に置き換わる科学技術の費用が下がり、小企業にも技術革新が手に届くようになれば、そのような技術がアセアンでますます採用されるようになる可能性を指摘し、カンボジア、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムでは今後2、30年で、給与労働の約56%が科学技術によって失われるリスクが高いと記しています。そして、新技術を扱い、デジタル化された機械と共に効果的に働くための強固な専門技能と共に適応のためのしっかりとしたコアスキルを備えるよう労働者の適切な訓練を提案しています。しかしながら、科学や工学などの理系の資格を有する労働者を求める企業は地域中で増えているにもかかわらず、若者が理系科目の学問を選んでいない状況が示されています。とりわけ女性にこの傾向が強く、調査対象女子学生中理系課程に所属する学生は17%に過ぎませんでした。報告書は労働市場を変革する変化の海を進む上で政策策定者や企業、労働者が直面している課題、とりわけ来たるべき変化に対処するために必要な専門技能及びコアスキルを将来の労働力に身につけさせるような技能訓練システムを開発する課題の重要性を強調しています。
デボラ・フランス=マッサンILO使用者活動局長は「もはや価格優位だけでは不十分」として、低賃金労働で競っている諸国は姿勢を変える必要があると説き、さらに多くの人材投資や研究開発、高価値生産を促進するような環境の形成を政策策定者に呼びかけています。
◎仕事の未来に向けて備える中国
| 北京のセミナーで発表するジャー=ヒー・チャンILO専門官 |
報告書の発表を受けて、7月12日には中国で、仕事の未来にとっての新技術の意味合いを検討するセミナーが開かれました。ILO中国・モンゴル国別事務所が中国の人民大学、人力資源・社会保障部と共催したこのセミナーでは、技術開発、経済構造の変化、マクロ経済要素の力学の変遷に基づく仕事の世界の展開が中国に与える影響が検討され、あらゆるレベルの政策対話に注入される調査研究を速やかに進めることが求められました。セミナー参加者は、中国では、ロボット工学や付加製造、物のインターネット(IoT)といったデジタル化技術が特定部門内の一部の業務を置き換え、職場関係を変化させている一方で、異なる種類の労働者に対する需要を生み出し、新たな仕事や新たな産業部門さえも生み出していることを指摘しました。
アリババ・グループ政策研究部のハオ・ジャンビン上級専門家は、技術は確かに一定の種類の労働者の必要性に課題を提示したものの、同時に新たな機会の窓が開きつつあることを紹介し、中国における電子商取引の隆盛がとりわけ農村出身労働者の受け皿となる配達業務や流通関連の仕事の大幅な拡大や起業機会の創出に結びついたことを指摘しました。2016年3月にアリババが発表した報告書によれば、同社は1,500万人以上のオンラインショップ・オーナーに仕事を提供し、間接的に3,000万人以上に雇用機会を生み出したとされています。
セミナー参加者は一方で、グローバル経済の減速や経済転換、ロボットによる自動化などの技術の進歩によって一定の仕事が置き換えられるのは不可避とし、雇用機会の多様化と雇用の質の向上の必要性を強調し、労働市場の変化に係わって生じる可能性がある危険を緩和する上で労使の社会的パートナーが決定的に重要な役割を演じるべきと訴えました。中国企業連合会(CEC)のリュウ・ハンソン国際局次長は、「中国がより高価値の生産に移行する中、使用者は自社の技能ニーズの変化を先取りし、労働者は自らの技能が適切なものであり続けることを確保するために将来を見据えた訓練を通じた支援を必要とする」として、仕事の未来を積極的に管理する必要性を指摘して、政労使が協力して有意義な雇用が将来的に得られるよう確保すべきことを訴えました。
実際、中国政府はウーバーのドライバーなどの新たな就労形態にある労働者に適切な保護を提供するよう労働規制の枠組みを調整するための調査研究を間もなく開始する予定です。人力資源・社会保障部管轄下にある国際労働・社会保障研究所のリ・ミンフー所長は、あらゆるレベルにおける政府、労使団体、市民社会の関与を必要とするこの調査研究が、雇用機会、所得保障、労働者保護の健全な均衡につながるであろう政策改革の基礎を提供することへの期待を述べました。
ILOも仕事の世界において予測される課題に対して中国の政労使が備えることを支援する上で決定的に重要な役割を演じることを望んでいます。ガイ・ライダーILO事務局長は、ILO創立100周年を記念して活動を注力すべき7つの分野を選定していますが、その一つが「仕事の未来イニシアチブ」です。アセアン調査研究の共著者の1人であるジャー=ヒー・チャンILO使用者専門官は、将来の労働力の懸念と期待に応えるため、労使代表は政府及び主要な利害関係者と共に前途を見据え、自らを戦略的に位置づける必要があると説き、技術進歩がより良い雇用機会で形成される包摂的な成長に貢献するには、より強い政策公約、調整努力の加速化、対話がとりわけ重要と唱えています。
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以上は次の2点の英文記者発表の抄訳です。
- 2016年7月7日付バンコク発記者発表-ILO新刊:産業を変革しつつある科学技術はアセアンの成長と仕事にとって決定的に重要
- ILO中国・モンゴル国別事務所による2016年7月15日付北京発記者発表-仕事の未来に向けて備える中国