ILO新刊:経済・雇用危機対応

ILO新刊:成長と雇用を後押ししたポルトガルの危機後政策

2018年10月12日

 10月16日に発表されるILOの新刊書『Decent work in Portugal 2008-18: From crisis to recovery(ポルトガルのディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)2008~18年:危機から回復へ・英語)』は、2013年に出された報告書『Tackling the jobs crisis in Portugal(ポルトガルの雇用危機対策・英語)』の内容を更新し、健全な社会・経済政策と政労使間の建設的な社会対話の組み合わせが2008年の経済・金融危機からのポルトガルの回復を助け、経済・雇用成長を推進したことを示しています。ポルトガルを危機から脱け出させた経済・社会政策の組み合わせは、事業環境、公的部門の効率性、教育訓練、グローバル・サプライチェーン(世界的な供給網)への統合などの改善を助け、一部は危機前から存在していたこういった要素は、ポルトガルが現在たどっている堅固な回復の軌跡の基礎を敷設するものとなりました。

 報告書の示すポルトガルの経験は単に労働コストを削減し、労働市場の柔軟化を図るだけで景気回復を加速でき、国際競争力を急速に回復できるとの従来の考え方を支持していません。

 2008年の経済・金融危機後に発生した60万人を超える失業者は部分的に解消され、ポルトガルの就業者数は2017年末に480万人に達しました。2008年に45万5,200人程度であった求職者数は2013年に92万7,700人のピークに達した後、2018年第2四半期に推定35万1,800人となり、6.7%の失業率は危機前の水準まで回復しました。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、ポルトガルを「必要な財政強化という現実的な公約を追求し続けながら緊縮政策を克服した重要な事例」に挙げ、この研究書は「他の国の参照点ともなり得る」ポルトガルの今後の政策決定に際しての資料として用いられ得る堅固な基盤と評価しました。報告書はまた、危機前後及び危機の最中における政府と労使団体との間の社会対話は、常に合意が達成されたわけではないものの、過去10年にわたってポルトガルで達成された成果のカギを握っていると指摘しています。そして、一方的な決定がなされた場合、あるいは労働組合や使用者の権益に反する決定がなされた場合には、衝突と反発がもたらされたことを挙げています。

 景気と雇用の回復は見られるものの、なおも雇用の質に関する懸念と外部ショックに対する耐力を高めるために生産基盤をさらに強化する必要性が感じられ、この二つの目的が両立し得ないものではないことを強調しています。加えて、労働市場の二極化が非自発的な臨時雇用契約の増加を招き、公平性と効率性の双方の点からの懸念を提示しています。この問題、とりわけ臨時雇用から常時雇用へと移行する労働者の少なさと契約の種類によって不平等な労働条件に取り組む政策が必要であることを報告書は指摘しています。この点で、報告書は労働市場の二極化にさらに取り組むことを約する政府の公約を正しい方向に向けた一歩として歓迎しています。この問題に共に取り組もうとの政労使の決意は今年6月に達成された政労使合意に反映されています。

 報告書はまた、団体交渉制度における最近の変更に光を当て、交渉単位を産業別から企業別に変更しようとの労働協約及びその後の法律の目標が達成されていないことを指摘しています。さらに団体交渉を促進し、不平等を縮小し、包摂性を育むカギを握るものとして、協約範囲の拡大を挙げ、この制度を維持することを提案しています。

 2008年の危機前に上昇した賃金は2010~13年に急落し、その後、危機前水準をわずかに上回ったレベルで安定しています。報告書はまた、低賃金労働者の賃金が近年追求されている最低賃金政策のおかげで上昇したことを指摘し、これが賃金の不平等の縮小に寄与したと記しています。

◎ILO事務局長論評-危機から回復に至るもう一つの道:人間らしく働きがいのある仕事を通じた成長

 ポルトガルのアントニオ・ルイス・サントス・ダ・コスタ首相と共に10月16日にリスボンで本書を発表したガイ・ライダーILO事務局長は、14日にジアーリオ・デ・ノチーシアス紙に要旨以下のような論説文を寄稿しました。

 ライダー事務局長がILOのトップに就任した2012年10月以降、世界経済は100年ぶり近い景気後退からゆっくりと回復してきました。2007年に始まった世界金融危機に対応し、多くの政府が素早く民間セクターの強化に動き、金融機関・保険会社の活動によって形成された世界経済システムに対するリスクと認識されるものに対抗するような救済策が発動されました。欧州の危機は国家債務危機につながり、一部ユーロ圏諸国が特に打撃を受けました。金融市場の急激な乱高下と不安に直面し、債務負担力を確保するために欧州金融機関や国際金融機関に助けを求めた一部ユーロ圏諸国は、金銭的な支援の見返りに迅速な財政強化と法改正を求める厳しい構造調整計画の受け入れを余儀なくされました。これはしばしば労働者に悪影響を与えました。

 ILOでは債務比率や経常勘定の赤字を越えた、より幅広い経済政策目標の設定を絶えず呼びかけてきました。私たちは投資、雇用、社会的保護に重点を置き、支援的なマクロ経済政策と組み合わせて仕事を豊かに生む公平な成長を優先させる生産的な回復を支援しています。

 16日に発表されるILOの新刊書『Decent work in Portugal 2008-18: From crisis to recovery(ポルトガルのディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)2008~18年:危機から回復へ・英語)』は、均衡のとれた取り組みは一定の結果をもたらすことを証明しています。本書は構造調整計画が処方する薬には限界があり、時には回復を遅らせ、調整をより苦痛を伴ったものと化す場合さえあるとの、ますます多くの専門家が奉じる見解を支持しています。

 2013年1月に17.5%を記録したポルトガルの失業率は2018年第2四半期にわずか6.7%まで下がり、世界経済・社会危機のピーク時に比べて50万人以上が仕事に復帰しました。この国は国際金融機関が定めた財政強化・構造調整策の多くに従いつつ、強力な失業者支援、最低賃金引き上げ、労働者の権利の保護、社会的パートナー(労使団体)との協議などを内容とする、均衡のとれた独特の政策集合を通じて堅固で持続可能な回復を成し遂げました。

 本書は単なる労働コストの引き下げ及び労働市場の柔軟化だけで、調整を加速させ、国際競争力を急速に回復できるとの通説に挑戦しています。もちろん、ポルトガルの大幅な輸出成長を支える上で、事業環境と資金調達機会を改善する政策は決定的に重要な役割を演じたものの、回復に際しては失業者の迅速な労働市場再統合、所得と国内需要を支えた最低賃金の維持、技能開発への投資も本質的な役割を演じた一方で、比較的強い労働者の雇用保護がそれを妨げることはなかったように見えます。そこで報告書は労働市場の柔軟性を増すことだけが唯一の道であるとの考えに疑問を呈しています。

 報告書はさらに、政労使の社会対話から生まれた政策は幅広い社会の合意に基づいているため、回復を成功させるカギとなることを示しています。社会対話は財政強化の社会的なコストに加え、経済成長を後押しするために所得と賃金を支えることの重要性に注意を喚起しました。これはこの国の独特の対応を形成する助けになり、社会的パートナーを中心とする経済の主な利害関係者からの幅広い賛同を確保することになりました。

 しかし、すべてがバラ色なわけではなく、不安定な労働者の数は危機前よりもなおも相当に多く、若者と長期失業者はとりわけ、人間らしく働きがいのある職探しにおける様々な課題に引き続き直面しており、対外債務は依然として大きいものの、報告書は責任ある積極的な財政政策を運営し、雇用と所得の適切な保護を確保し、対象を定めた支出によって労働市場の改善を図りつつ債務を次第に縮小していくことは可能であることを示しています。このように仕事の質と持続可能性に関しては若干の課題が残るものの、ポルトガルの経験は金融・国家債務危機に対するもう一つの対応策として、政策対応の中心に人を据えた貴重な例を示しており、世界中の国に通用する教訓を提供しています。

 ポルトガルの経験が私たちに告げることは、議論にはより幅広い一連の政策考慮事項を盛り込むべきであり、人間らしく働きがいのある仕事を伴わない経済成長は社会の結束、そして最終的には成長そのものを損なうものであること、持続可能な開発目標のすべての側面に目配りすることが私たちの時代の至上命題であること、そして持続可能な未来をすべての人に達成するにはマクロ経済政策と雇用政策と技能政策の正しい組み合わせが必要であり、それは可能であるという点です。

 以上は次の2点の英文広報資料の抄訳です。