ILO新刊『アジア太平洋の雇用及び社会の見通し2018年版:持続可能な開発に向けたディーセント・ワークの前進』
ILO新刊:アジア太平洋地域の成長に影を落とす、なかなか解消されないディーセント・ワーク不足
2018年11月16日
2018年11月16日に発表されたILOの新刊書『Asia-Pacific employment and social outlook 2018: Advancing decent work for sustainable development(アジア太平洋の雇用及び社会の見通し2018年版:持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の前進・英語)』は、最新データを元に世界で最も人口の多いアジア太平洋地域が直面している労働市場の課題に光を当て、20年間にわたる経済成長にもかかわらず、地域の労働市場がいまだに直面している構造的な弱さを明らかにしています。
この地域は極度の貧困層の大幅な削減に成功したものの、2017年現在でもいまだに全労働者の4分の1に当たる4億4,600万人が中程度または極度の貧困状態にあり、全労働力の半数近い9億3,000万人が個人事業主または無償の家族従業者という脆弱な就労状態にあると見られます。地域の失業率は2020年まで変わらず4.1%と予想されるのに対し、脆弱な就労者の割合は過去少なくとも20年間続いた減少傾向から反転し、じりじりと49%に上昇していくと思われます。
世界全体の雇用と社会の見通しを示す年次刊行物『World employment and social outlook(世界の雇用及び社会の見通し・英語)』の初のアジア太平洋版である本書は、他にも以下のようなデータを示しています。
- 2017年にアジア太平洋地域で暮らす労働者は、世界の労働力の6割に当たる19億人(男性12億人、女性7億人)
- アジア太平洋地域は生産年齢人口に占める就労者比率が世界で最も多く、就業率は59.7%(世界平均は58.6%)
- 2016年に労働者の3人中2人以上が非公式(インフォーマル)経済で就労。これは脆弱な就労者の割合がいまだに労働者全体の48.6%に達しているという事実と密接に関連しています。非公式経済就労率が特に高いのは南アジア(約88%)
- 低賃金労働者を中心に、地域の労働者の多くが週48時間を超えて働いており、2017年の平均労働時間は南アジア(週46.4時間)と東アジア(週46.3時間)が世界一。日本を含む東アジアでは、労働者のほぼ5人に1人が週60時間を超えて働いています。
- 2017年の地域の失業率は世界平均(5.5%)を大きく下回る4.1%で世界で最も低いものの、世界の失業率は2015年以降横ばいなのに対してアジア太平洋地域では0.1ポイントとわずかに上昇。2018年の地域の失業者数は計8,090万人
- 若者の失業率は2015年以降横ばいで10.4%(世界平均は12.6%に上昇)。15~24歳の若者が地域の生産年齢人口に占める割合は2割に過ぎないものの、失業者に占める割合は35%
- 中等教育修了者の失業率が最も高いことは、情報通信技術(ICT)によって定例的な業務に従事する労働者に対する需要が低減しているという、技術進歩を一因とする新興経済諸国における中間技能職空洞化の進行を確認させるもののように思われます。
- 仕事の世界における男女不平等は依然として中心的な懸念事項であり、2017年に男女の労働力率の差は30ポイント以上で2000年以降の縮小幅はわずか1ポイント
- 地域では農業から主としてサービス業へと向かう大規模な就業構造の転換が進行中。サービス部門の就業者は2000年以降7億4,000万人増、製造業の就業者は2000年代半ばのピーク時よりわずかに減少していますが、女性の方が減少率は高くなっています。
地域の労働者の多くが依然として製造部門に生計を依存しており、特に女性にとって製造業は時に最初の就職先になっていますが、年次刊行物の第1号である本書は、最近増している保護貿易主義の脅威が既に製造部門の投資に影響を与えていることを示しています。報告書はまた、人口動勢、とりわけ高齢化社会の影響が、既に限られている社会的保護制度に対する追加的なプレッシャーとなっている現状に光を当て、今後の労働生産性の伸びを疑問視しています。一方で、現在進行中の技術開発に合わせた調整は、中間技能水準の労働者を中心に雇用の流れを妨げるものとなる可能性があります。加えて、環境劣化、天然資源の枯渇、気候関連自然災害発生率の上昇などが地域の将来的な成長に対するさらなる不確定要素となっています。
報告書は地域の大半の国が取っている開発路線はディーセント・ワークの不足を克服するには十分でないとして、地域全体の強い経済成長にもかかわらず、労働市場の統治が弱いところでは相変わらずディーセント・ワークの不足が広く見られることを指摘しています。
2015年末で経済共同体が誕生した東南アジア諸国連合(ASEAN)に関しては別の報告書がその労働市場政策を分析し、同じような結論に達しています。『Labour market inventory ASEAN 2010-15: Labour market policy in an age of increasing economic integration(東南アジア諸国連合(ASEAN)労働市場目録2010~15年:経済統合が増す時代における労働市場政策・英語)』と題する報告書は、経済共同体誕生以後、労働市場政策の範囲拡大の点で進展が見られたものの、各国の政策内容と労働市場政策を実行する能力の間には依然として相当の開きが存在すると記し、その結果、地域の最も脆弱な労働者に対する保護は弱いままと指摘しています。スイス経済省経済事務局(SECO)の支援を受けてILO調査研究局が経済協力開発機構(OECD)開発センターと協力して作成したこの報告書は、ASEAN地域の経済・労働市場の構造的な変化に応えてASEAN加盟国が講じた政策対応を分析したものです。この調査研究から、ILOの労働市場目録第2データベースに収録された500の政策の大半が技能開発の改善、労働者の権利の強化(反差別規則や労働安全衛生規則などを通じたものを含む)、社会的保護政策の対象範囲拡大を目指したものであることが判明しました。しかし、政策のギャップはいまだに大きく、とりわけ、移民や少数者、非公式経済就労者などの労働市場における最も脆弱な人々の権利を対象とした政策はほとんどなく、失業給付や最低賃金、団体交渉に関するものも少ないことが明らかになりました。多くの場合、労働市場政策における進展はASEANレベルのイニシアチブや宣言を通じて促進されており、これはディーセント・ワークの促進及びすべての人への社会正義の前進においてASEAN共同体が果たし得る決定的に重要な役割を明らかにするものです。
報告書の中心的な著者であるセーラ・エルダーILO地域経済・社会分析ユニット長は、地域の高い就業率と生産性の伸びが、なかなか解消されない懸念すべきディーセント・ワークの不足を覆い隠している事実を指摘し、安定した所得を生まず、労働者とその家族を長期的な貧困から守ることのない、劣悪な労働条件の仕事を選ぶ以外に選択肢がない人々が途上国を中心にいまだに多く存在している状況に注意を喚起しています。そして、「ここで特に不満に感じられるのは、地域の高い経済成長にもかかわらず、いまだに多くの労働者が食べていくのがやっとの生活を送っており、世帯主の死傷や失業、自然災害、飢饉などの何らかの世帯危機で貧困に逆戻りする危険をはらんでいること」を挙げています。
西本伴子ILOアジア太平洋総局長は、「アジア太平洋の強い経済成長は一部には利益をもたらしたものの、あまりにも多くの人々が置き去りにされています」として、残っているディーセント・ワークの不足は「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』、とりわけ包摂的で持続可能な成長、雇用、すべての人のディーセント・ワークを掲げる目標8に関して合意されたターゲットを達成する地域の能力に重大な警報を鳴らすもの」と語っています。さらに、地域のほとんどの国がいまだに居心地が悪くなるほどにディーセント・ワークに関連した持続可能な開発目標から遠いところにおり、「公約を守るために軌道に乗ろうと思うならば、もっと大規模かつ大胆で賢く迅速な行動が必要」と指摘し、あらゆる国は包摂的な成長を推進する機構として、ディーセント・ワークにもっと強く重点を置くことによって得るところが大きかろうと説いています。
以上はILOアジア太平洋総局によるバンコク発英文記者発表の抄訳です。