ILO新刊:東南アジアの移民労働

ILO新刊『東南アジアの移民労働者の司法活用』:東南アジアの移民労働者には開かれていない場合が多い司法への道

2017年07月26日

 7月30日の人身取引反対世界デーを前に発表されたILOの新刊書『Access to justice for migrant workers in South-East Asia(東南アジアの移民労働者の司法活用・英語)』は、地域の移民労働者の訴えの提起とその解決を阻む大きな障害が存在し続けている現状を明らかにしています。

 ILOはオーストラリア政府の任意資金協力を受けて東南アジア諸国連合(ASEAN)において地域の成長と開発に対する労働力移動の貢献度を高めることを目指した政労使の活動を支援する「ASEANにおけるTRIANGLE」計画を実施しています。この事業計画は移民労働者資料センターのネットワークを通じて移民労働者とその家族にサービスを直接提供していますが、2011~15年にこのセンターを通じて集められた申立データをもとにまとめられた本書は、移民に不正行為を告発する有効な道がないことと強制労働及び人身取引の発生の重要なつながりに光を当てています。カンボジア、マレーシア、ミャンマー、タイ、ベトナムから得られた7,000人以上の移民労働者が関与する1,000件を超える事件の詳細な情報は、移民の不服申立に関する東南アジア最大の地域データを構成しています。移民労働者資料センターが解決した事件の裁定補償額は総計162万ドルに上っています。

各国で提供されている最も一般的な救済策

 報告書は移民労働者が利用できる司法機会は近年ある程度改善されたことを示しているものの、調査対象地域のどこにおいても依然として移民労働者の訴えの提起とその解決を阻む大きな障害が存在し続けている現状を明らかにしています。本書の中心的な著者である「ASEANにおけるTRIANGLE」計画のベン・ハーキンス専門官は、苦情原因の発生時にそれを解決するために利用できる公正かつ効率的な手段がないことが、移民労働者を搾取に対して一層弱くしている状況を指摘しています。

 送出国においては、存在しない仕事についての募集・斡旋・書類作成手数料の徴収などのはなはだしい権利侵害しか通常是正されず、募集・斡旋手数料の水増し請求や雇用条件の不実表示のような広く見られることが知られているこの他の形態の不正行為については訴えは提起されません。受入国の状況も似たようなものですが、これに輪をかけるものとして存在する報復の恐れや言葉の壁、雇い主と連動したビザ及び就労許可のために、ほとんどの移民労働者が人間としての基本的な尊厳や生計手段が明白な脅威にさらされない限り、訴えを提起する危険を冒そうとしません。移民は苦情の提起が雇用の終了を意味する可能性が高いことを十分理解しているため、現在のところ、賃金や労働条件の長期的な改善に至っていません。「私たちが分析した申立案件で移民労働者に支払われた『補償』のほとんどが、現実の被害額の補償などではなく、未払い賃金額の一部に過ぎなかった」とハーキンス専門官が指摘するように、たとえ補償が行われても満足できる額からはほど遠い場合が多くなっています。

東南アジアの移民労働者の司法利用を阻む壁

 また、労働者の権利侵害に対する司法利用に関しては男女による顕著な違いが見出されました。域内における女性の移住及び就労の多くが非公式で非公認のものであるため、男性でも既に限られている苦情申立の機会が女性の場合はさらに大きく狭められています。移民労働者資料センターが活動している全ての国で女性移民に対象を絞って手を差し伸べる努力が見られるものの、多くの地域で依然として苦情申立の機会には大きな不平等が存在することがこの結果から推測されます。

 非政府組織(NGO)や労働組合は、「ほとんどの移民が支援を必要とする時に通過する扉」を提供すると、ハーキンス専門官が指摘するように、報告書はまた、救済を求める移民労働者にとっかかりを提供するこれらの組織の決定的に重要な役割を強調しています。とりわけ、申立の解決に対する支援を受けた女性移民労働者の8割以上が地元のNGOが運営する移民労働者資料センターに頼ったとの事実は、司法利用における男女格差の縮小においてNGOのサービスが果たす重要な役割を明らかにしています。

提供されたサービス別に見た訴えの提起に際して頼った支援の男女による違い

 搾取や虐待などの状況に直面した移民労働者の大半が未払い賃金の支払いや渡航先国への配置、身分証明書類の返却などといった実際的な解決策を求めています。東南アジアの移民労働者数千人に対する法的支援の提供から得られた知見として、要求に対応した公正な救済の点であまり満たされていない需要が相当に存在する事実が示されています。「現在のところ、労働法や人身取引法の執行ではこういった需要が十分に満たされていないことは明らかであり、移民労働者に対する公正な救済策の提供が確保されるためにはさらなる努力が必要」とハーキンス専門官は結論づけています。

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 以上はILOアジア太平洋総局によるバンコク発英文記者発表の抄訳です。