ILO/ENAP新刊
多様性の「幻想」から先に進むには包摂的な制度・機構と構造が必要
2021年12月09日
ILOがカナダ・ケベック州の国立公務学院(ENAP)と共同でこの度発表した新刊書『The future of diversity(多様性の未来・英語)』は、多様性の意味するところは文脈によって異なり、職場文化の変化は1回限りの政策・方針では得られないと説いています。
本書は、企業であろうと組織であろうと広く社会一般であろうと、多様性に関して進展を達成するには、同じラベルが貼られる人々が必ずしも同じニーズを抱えているわけではないという事実を考慮に入れた包摂的な制度・機構と構造が求められると指摘しています。そして、差別からの法的保護や機会平等に関する法規定は平等と包摂の結果を達成するには不十分な場合が多く、誰にでも適した、「その他」と見なされる人がない環境を育むには、労働市場外の変数に留意した親多様性イニシアチブが必要と記しています。
仕事の世界と学術界の様々な学問分野を専門とする学者と実務家の視点を結び付けた本書は、男女平等やジェンダーの主流化、人の移動と人種的多様性、人種差別、LGBTIと総称される性的少数者に対する暴力、年齢差別など幅広い問題を扱い、多様な視点を明らかにすることによって「多様性」の諸形態と諸要素に関する人々の意識を高めることを目指しています。
本書は明白なものであろうと、無意識的な差別から生まれる微小な攻撃(マイクロアグレッション)のようなもっと微妙な形のものであろうと、差別と暴力につながる偏見と固定観念が多様性を阻む最も大きな要因であることを示しています。集団的に作り上げられた「典型的な労働者」像や暗黙の規範も同じ効果を及ぼしており、このイメージから外れている人は「その他」とされ、就職活動や雇用の維持において克服しなくてはならない障害に直面するリスクが高くなり、程度の差こそあれ、職場で微妙な形態の差別と暴力にさらされる度合いが不均衡に高くなります。一方で、「典型的な労働者」は労働市場における自らの特権に無自覚な場合が多いとされます。
本書はクラウドワーカーの中での男女賃金格差、労働市場におけるLGBTIの人々の経験、様々な社会における高齢化、高齢と移住などの問題を分析し、多様性の受入は経済的な理にかなっていると説き、個人個人が組織にもたらし得る貢献を強調することによって効率性や利潤の増大を図ることを目標に掲げるべきとしています。
経済環境に加え、本書はまた社会における不平等の生産・再生産において政治論議がいかに大きな役割を演じるかも検討しています。そして、どの社会でも政治エリートが移民や人種、ジェンダーについてどう語っているかが報道を通じて世論を形成し、最終的に様々な労働者集団や個々の労働者の労働市場における機会や結果にまで影響を及ぼすことを示しています。
2019年12月にILOの創立100周年、ENAPの創立50周年を記念して開かれた会議における発表を土台として作成された本書は、それぞれに著者が異なる4部15章を通じて多様性の問題を様々な観点から論じています。前書き、序章に続き、第1章「ジェンダー多様性のビジネス上の論拠の解明」、第2章「頂点の風潮:多様性に挑む」、第3章「団体交渉を通じた男女平等の改善」、第4章「多様性管理戦略としての包摂性公約」、第5章「多様性、移住、経済」の5章で構成される第1部「多様性の管理とその経済的論拠」は、ジェンダー多様性を中心に多様性の経済的論拠を示しています。第6章「家庭が賃金に影響を与える時:クラウドワーカーの間での男女賃金格差の分析」、第7章「LGBTIの人々にとっての仕事の未来」、第8章「多様な社会における高齢化」の3章で構成される第2部「平等の幻想-求められる包摂的な構造」は、全ての労働者に平等な結果を形成することの難しさを取り上げています。第9章「『君は彼らと一緒だと思っているかもしれないが、実際にはそんなことは決してない』:ケベック州建設産業における女性の定着に対する差別的暴力の影響」、第10章「フェミニスト職場:黒人女性にとっての『安全な空間』か」、第11章「奥深い不快感の正統性の認識:人種差別と性差別を否定する社会において経験されるマイクロアグレッションを検討することによる系統立った差別の分析改善」の3章で構成される第3部「多様性を阻む差別と暴力」は、典型的労働者の像から外れた人々に対する時には無意識の偏見、典型的労働者が無自覚に享受している特権を示しています。第12章「系統立った差別の多形的概念形成:ケベック州における論議と行動の間の組合」、第13章「使用者と結び付けた労働移動(移民受入)計画を通じた平等、自由、安全保障、司法アクセスに対する労働者の権利の国家による制限:カナダの例」、第14章「多様な社会における『移民』とは:概念の曖昧化と政策にとってのその意味合い」、第15章「多様性の再考:未来に向けた解決策」の4章で構成される第4部「設計による排除とそれを克服する方法」は、政治論議が社会における不平等の生産・再生産において果たす役割を分析しています。終章は「多様性の未来:政策ニーズと調査研究におけるギャップについての考察」と題し、本書が示す多様な見解から得た教訓として、多様性と包摂性は一つのコインの両面であること、文化を変える必要があること、多様性を阻む主な要素は偏見と固定観念であることを挙げた上で、研究対象が先進諸国に偏っていることや新技術の影響が分析されていないことなどのさらなる研究が必要な分野を指摘しています。
以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。