ILO新刊著者論評:社会的保護
中・東欧で高まる高齢者介護のニーズ
2017年02月10日
中・東欧では伝統的に高齢者の世話は家族や地域社会による在宅介護が中心でしたが、無給の女性の担い手に依存するところが大きかった家庭内での介護の提供はもはや増加する高齢者を効果的に支えることはできなくなってきています。ブダペストにあるILO中・東欧ディーセント・ワーク技術支援チーム(DWT)兼国別事務所から2016年末に発表された報告書『Challenges in long-term care of the elderly in Central and Eastern Europe(中・東欧における高齢者介護の課題・英語)』は、多くの女性が西欧に出稼ぎに行く中、この地域における質の高い高齢者介護サービスの不足に光を当てています。ポーランド労働研究・社会政策研究所のゾフィア・チェプリス=ルツコワシュカ研究員と共に報告書をまとめた同事務所の廣瀬賢一上級社会的保護専門官は、公式の介護提供の仕組みの必要性を説いています。
総合的な介護制度が通常欠けていることや保健医療と社会的サービスの調整不足などを理由として、これらの国では家族介護だけでなく施設介護の場も不足しており、都市と地方における機会の不平等も見られます。介護施設の受入能力が限られているため、入所待機リストは長く、これは医療以外の理由による高齢者の入院にもつながっています。さらに、自宅訪問サービス、地域の長期介護施設におけるデイケアやショートステイなど自宅を基盤とする十分な介護サービスも多くの国で不足しており、現在家族が担っている介護負担を効果的に取り除くにはこの産業の育成がカギを握っています。
中・東欧諸国の公的介護支出の対国内総生産(GDP)比は、例えば、チェコでは0.7%、ポーランドでは0.74%、セルビアでは0.53%であるといったように、一般に経済協力開発機構(OECD)諸国(1.7%)の半分にも達しません。これは質の高い介護サービスが不足している理由を説明するものですが、加えて、財源をほとんど国家予算や地方予算に頼っているため、経済的なショックにとりわけ弱くなっています。
チェコとセルビアには現金手当の形での現金給付の仕組みが存在し、自らの優先事項に従ってサービスを選択する自由を受益者に与える点でこれは有用ですが、調査結果から手当の多くが実際には介護サービスの直接購入以外の目的で用いられていることが示されています。さらに、たとえ家族介護の担い手に手当が支払われたとしても通常、その家族員の失われた機会費用を十分に補填するには至っていません。もう一つのハードルは、こういった手当は経済危機の時代には大幅に切り下げられる可能性があるということで、例えば、チェコでは2011年に緊急緊縮措置の一環として介護手当が6割カットされました。チェコとポーランドでは現金給付に代えてサービス・バウチャー制導入の提案が検討されていますが、まだ実施されていません。また、全ての人に必要不可欠なケアを確保する上で公的部門が中心的な役割を担い続けるべきであるとしても、適切な規制や品質管理の下で、給食サービスや家事手伝いなどのような幾つかの分野に民間のサービス提供者がもっと関与する余地があると考えられるため、介護産業への民間投資を奨励する必要もあります。
多くの高齢者が自宅で過ごすことを希望していますが、在宅介護は高齢者が望む選択肢であるだけでなく、施設介護よりも費用効率が高い方法であるものの、労働者が仕事と在宅介護をうまく両立できない限り、在宅介護を促進する政策の実施を成功させることはできないでしょう。各国は有給介護休暇や労働時間編成など、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の改善を許す一連の柔軟な職場措置を実施する必要があります。
報告書はまた、ウクライナから西欧諸国へと向かう女性介護労働者の移住の増加に光を当てています。ILOと欧州連合(EU)のプロジェクトの枠内で実施された2012年の調査によれば、ウクライナの移民労働者の3.6%に当たる推定4万2,800人が高齢者や障害者の介護、保育といったケア労働に携わっていることが明らかになりました。この95%が女性であり、より高い専門的な資格を有する者も多く、保有する技能の低下という問題も示されています。主な渡航先はイタリア(全体の42%)、ポーランド(21%)、ロシア(17%)、スペイン(13%)、オーストリア及びドイツ(共に4%)となっています。調査に回答した女性の75%が国内における低賃金を国外出稼ぎを考えた第1の理由に挙げています。
調査はまた、大多数が口頭の合意によって一般世帯に雇われており、ほとんどが週40時間を超えて働いているにもかかわらず、大半の契約に週休は含まれているものの、残業手当の条項がある雇用契約は全体の4分の1に過ぎないことを示しています。もう一つの顕著な傾向は、女性移民労働者のほぼ半分が既婚者であるということであり、その結果、しばしば片親や祖父母、その他の親戚の元に残されるいわゆる「ユーロ孤児」の問題が生じています。こういった子どもたちは多くの場合、親からの仕送りによってより良い教育機会を享受しているものの、親の世話や監督が不十分なことから来る社会的・情緒的発達に対する否定的影響の報告も多数見られます。
ILOが2015年に出した研究結果からも示されるように公式に就業する介護労働者は世界全体で少なくとも1,360万人不足しており、ウクライナの出稼ぎ労働者増の例からも推測されるように欧州だけでも230万人不足しています。介護労働の特徴としては不規則な労働時間、心身がさらされる高いストレス、労働災害の危険、そして通常他の関連部門よりも低い給与に、劣悪な労働条件から来る労働異動率の高さを挙げることができ、したがって、この緊急に必要とされているサービスの不足を満たすには、労働条件の改善が必要なことは確実です。さらに、劣悪な労働条件を理由として非公式な雇用が発達し、これはまた労働者の権利や社会保障の適用に関し、保護が低いかほとんどないことを意味しています。
高齢化による人口構成の大幅な変化を考慮に入れると、介護は世界的な懸念事項となってきており、各国は施設介護の基盤を改善し、在宅介護を支援する仕組みを開発する必要があります。このためには、介護制度の財源構造を改善する資金・資源を動員するために必要な措置を講じなくてはなりません。ILOは権利を基盤とした手法に沿って、先行対策的な役割を演じ、包括的な社会的保護制度の不可欠な一部として普遍的な介護制度を整備する各国の努力を支援することが望まれます。廣瀬専門官は、この点で、2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)が特に有用と結んでいます。
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以上は2017年2月10日付の英文インタビュー記事の抄訳です。
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2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)