ILOとG20杭州サミット

ライダーILO事務局長がG20杭州サミットに出席:不平等と仕事不足への取り組みを約す首脳声明を歓迎/ILOと中国は覚書の更新で戦略的パートナーシップを強化/普遍的社会的保護ハイレベル会議や仕事の未来対話集会にも出席

2016年09月05日

◎ライダーILO事務局長:より高くより包摂的な世界経済開発路線をG20杭州サミットで呼びかけ

G20杭州サミット会場におけるライダーILO事務局長

 2016年9月4~5日に中国・杭州で開かれた主要20カ国・地域(G20)の首脳会合に出席したガイ・ライダーILO事務局長は、低成長と雇用展望の弱さが引き起こす経済的・政治的リスクに関する率直な意見交換を経て、深刻化する不平等と仕事不足の問題に取り組むことを約する首脳声明が採択されたことについて、「杭州サミットで達成された合意は、低成長、高失業・不完全就業、不平等、そして継続している急速な構造変革の課題に取り組む、より均衡の取れた政策へと移行する兆候を示すもの」と歓迎しました。

 首脳声明は包摂性の問題を取り上げ、「誰も取り残されることのないよう、経済の成長が、より多くの質の高い仕事を生み、不平等に対処し、貧困を根絶することにより、あらゆる人のニーズに役立ち、すべての国と特に女性、若者及び不利な状態に置かれた集団を含むすべての人々の利益となるよう確保する」努力を約しています。さらに、持続可能な開発のためには、「強化された労働市場の制度と政策が、生産性を支え、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進し、それによって特に低所得の労働者のためにより高い持続可能な賃金の上昇を促進し得ること」が強調されています。

 ライダー事務局長は、サミットにおける発言で、全世界的に見られる、高くなおも上昇を続ける失業率・不完全就業率、低迷する賃金所得、不平等の拡大、再び新記録を達成しそうな勢いで伸びており、2016年に13.1%に達すると予想されている若者の失業率(無職の若者7,100万人に相当)といった問題を挙げ、これが消費や投資の弱さ、公共財政の圧迫、持続的な低成長を招いており、この低成長はさらに、社会人としての一歩を踏み出そうとしている若者を中心に社会的な緊張を生み、人々が故郷を捨ててしばしば遠方に仕事を求めるような状況を作り出していることを指摘しました。さらに、満たされない期待は、扇動的な政治勢力が、多様性を尊重し評価する開かれた経済・社会に対する支えを削り取るために利用できる火種を提供する可能性に注意を喚起しました。そして、「相互に接合した世界経済を、より高く、より包摂的な開発路線に載せる至上命題の緊急性、それに失敗した場合の危険な結果」は幅広く感じられているとして、こういった傾向を覆すにはG20のリーダーシップが決定的に重要であり、「持続可能な開発のための2030アジェンダに関する行動計画」を通じたG20諸国による国連の支援がカギを握ると訴えました。

 ライダー事務局長はまた、7月に開かれたG20労働・雇用大臣会合で、働く貧困層(ワーキング・プア)対策、差別根絶、労働条件の格差や不平等の縮小、仕事の未来を形成する上で決定的に重要となるであろう社会的保護と最低賃金の仕組みの向上に向けた政策を提案する宣言が採択されたことに注意を喚起しました。さらに、サミットの準備過程に労使を関与させたことについて、「国際的な合意を持続可能な解決策に転換するに際しての社会対話の重要性は、どんなに強調してもし過ぎることはない」として評価しました。

 ライダー事務局長は、ILO、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)が共催して9月6~8日に北京で開かれる「普遍的社会的保護に関する持続可能な開発目標達成に向けたハイレベル・イベント」やILO創立100周年を記念して「仕事の未来イニシアチブ」の下で加盟各国に開催が呼びかけられている仕事の未来国内懇談会への出席や協力関係に関する覚書への署名など、滞在中に様々な日程をこなしました。

◎ILOと中国:覚書の更新で戦略的パートナーシップを強化

覚書に署名する尹人力資源社会保障部長(左)とライダーILO事務局長

 9月6日には、中国の中央計画経済から市場経済への移行を導く労働市場政策の策定に向けて協力関係を強化することを目指して2001年に締結されたILOと中国の間の覚書を更新し、両者の協力関係を戦略的パートナーシップと規定する新たな覚書を締結しました。

 新しい覚書は、経済統合の深化、社会・経済の急激な変化、質の高い仕事の創出と地球規模での政策整合の切迫した必要性を特徴とする今日の世界において、社会正義、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、公正なグローバル化を促進するという共通の目的の実現に向けたパートナーシップを確立するものです。この戦略的パートナーシップは、◇国連の持続可能な開発目標やG20、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)といった多国間の話し合いの場における社会正義、ディーセント・ワーク、公正なグローバル化といった共通の関心分野の効果的な促進、◇南南・三角協力の拡充を通じた雇用創出及び貧困緩和における中国の経験のてこ入れ、◇中国の国際社会関与への支援、◇人々を持続可能な成長戦略の中心に据える新常態に向けた中国の改革過程の支援、◇政労使三者構成原則及び政府機関同士の政策整合の支援を目指しています。

 北京で開かれた署名式典において、ライダー事務局長は、奥深いイノベーションと技術進歩、人口動勢、生産・消費パターンの地理経済学的変化によって中国をはじめとして世界は変革の途上にあり、「この展開は、ILOと人力資源社会保障部が共通の価値と共通の関心に基づき、戦略的な取り組みを新たにすることを要請する」として、グローバル・リーダーとなり、その文化と商業が再び世界に広がり、質の高い成長を求めて経済変革の課題に取り組む中国は、2030アジェンダの実現を目指す世界中の途上国にますます貴重な経験を提供するようになってきていることを指摘して、新たな覚書の締結を「新たなパートナーシップの始まり」に位置づけました。尹蔚民(イン・ウェイミン)人力資源社会保障部長は、2001年に最初の覚書が締結されて以降「世界経済も仕事の世界も大きく変化する中」、過去15年間に雇用創出や社会的保護、労使関係の分野で中国はILOの支援を受けて目覚ましい業績を上げたことを紹介し、「世界第2位の経済大国となった今、ディーセント・ワークの促進に向けて協力関係を強化・拡充し、共に課題に取り組むために新たな覚書を締結するのは時宜を得たこと」と評しました。

 ILOの創立メンバーである中国は、1983年から中華人民共和国としてILOでの活動を再開し、1985年に北京にILOの現地事務所が設けられました。BRICSは2011年にディーセント・ワークに関する協力と対話を強化する宣言を出しています。ILOと中国は2013年に、カンボジアとラオスの公共職業安定所と労働市場情報の強化に向けた初の南南協力プロジェクトを開始しました。

◎普遍的社会的保護に関するハイレベル会議に出席

 社会的保護の土台をすべての人に広げる取り組みに関する国際的な経験共有を目的に、ILO、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)が共催して9月6~8日に北京で開かれる「南南・三角協力を通じた普遍的社会的保護に関する持続可能な開発目標達成に向けた中国ハイレベル・イベント」の開会挨拶で、ライダー事務局長は、「2016年の今における社会的保護の欠如は、とうてい許容できない」として、「この状況は変えなくてはならないし、変えることができる」と訴えました。ILOは既に2012年の総会で、社会保障をすべての人に拡大する際の指針として用いることができるよう「社会的な保護の土台勧告(第202号)」を採択していますが、ライダー事務局長は、各国それぞれに適した、すべての人のための社会的保護の制度と措置を2030年までに整備することを求める国連の持続可能な開発目標1.3という新しい野心的な目標を支えるものとして、主な利害関係者と共に、新たに「すべての人のための社会的保護の土台構築グローバル旗艦計画」を開始したことを紹介しました。

会議に向けたライダー事務局長動画メッセージ(英語)

 途上国からトップ官僚が出席するこの会議では、普遍的な社会的保護の世界的な重要性に光を当て、南側諸国の様々な成果が発表されることになっています。国民すべてに対象範囲を広げることを目指す老齢年金制度と普遍的な健康保険制度が整備された中国をはじめ、普遍的な社会的保護は既に多くの途上国で現実のものとなっています。

 世界的な高齢化の進行は、老齢期における信頼のおける収入源としての年金を不可欠としており、ボリビアやブラジル、カーボベルデ、中国、レソト、ナミビア、東チモール、タイ、南アフリカなど、世界中多くの途上国が近年、高齢者すべてを対象とする普遍的あるいはほぼ普遍的な年金制度を整備しています。

 産前産後給付は出産前後の女性を支え、児童給付は将来の労働力である子どもの十分な発達を確保できる可能性があります。アルゼンチンやモンゴルなど、既に幾つかの南側諸国が人的資本の改善に向けてすべての母親と児童を対象とした普遍的な制度を整備しています。また、カンボジアやエクアドル、インド、インドネシア、ウルグアイ、ザンビアなど多くの国で、社会的保護の土台をインフォーマル・セクター(非公式部門)や農村部に広げる努力が見られます。

 現行の拠出型制度を補完して、すべての高齢者に年金を確保するには、中所得国で国内総生産(GDP)の0.2~0.8%、低所得国で1.7%程度の予算が必要と見られます。児童や母親から高齢者に至るすべての脆弱な集団を対象とした完全な社会的保護の土台を構築するには、中所得国の大半でGDPの1~5%の財源が求められます。会議では、燃料補助金の撤廃(インドネシア)、天然資源に対する課税(ボリビアやザンビア)、金融取引に対する課税(ブラジル)、国債の再構築(エクアドル)、社会保障拠出金の簡略化(ウルグアイの単一税)、銅輸出税による普遍的児童手当の財源確保(モンゴル)など、革新的な財源確保方法の発表が行われます。

◎ILO事務局長:中国は仕事の未来の道筋を自ら描いていると評価

 ライダー事務局長は、9月6日に開かれた中国の仕事の未来に関するハイレベル政労使三者構成シンポジウムで「中国はその未来が定められたものと考える過ちを犯しておらず、自らの未来を形作る作業に決然と取り組んでいる」として、中国の決意を賞賛しました。この中国初の仕事の未来についての国内対話において、事務局長はさらに、1978~2010年の期間に中国が実質所得を大きく伸ばし、6億6,000万人を貧困から抜け出させたことを挙げて、中国の経済・社会進歩が国連の多くのミレニアム開発目標の達成に大いに寄与したことを指摘しました。

仕事の未来イニシアチブ広報動画(英語)

 このシンポジウムは、ILOが2019年の創立100周年に向けて2015年に開始した「仕事の未来イニシアチブ」の一環として開催されました。このイニシアチブの下、ILOはすべての加盟国に対し、仕事と社会、働きがいのある人間らしい仕事をすべての人に、作業・生産組織、仕事の統治(ガバナンス)の四つのテーマを巡る「仕事の未来」に関する対話を国内で行うことを呼びかけています。既に130カ国以上で実施された国内対話の結果はまとめられ、2017年に設けられる「仕事の世界ハイレベル世界委員会」における議論に活用されます。

 四つのテーマを二つの分科会に分けて議論したシンポジウムには、政府職員、実業界の代表、労働者団体、学識者、大学院生など、幅広い人々が参加しました。尹蔚民(イン・ウェイミン)人力資源社会保障部長は、開会の辞で、このシンポジウムにおける対話や同種の活動を通じて、ILO、学識者、社会的パートナーである労使と協力して「中国のみならず世界中の労働市場の状況を正確に把握し、仕事の未来に関する理解を深め、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と社会正義の実現に引き続き寄与する」意欲を示しました。中国企業連合会(CEC)のフアン・ハイソン副会長は、このシンポジウムを通じて、ILOと中国の政労使が協力関係を強め、より多くの仕事の創出、貧困撤廃、企業育成における改善、ディーセント・ワークの達成に向けて実際的な措置が講じられることへの期待を表明しました。中華全国総工会(ACFTU)のジャン・グアンピン副会長は、政労使の共同努力を通じて、ILOが世界の発展と社会正義の改善に向けて、より積極的な役割を演じることへの期待を示し、この点でACFTU自体の貢献を約しました。

 シンポジウムでは、仕事の未来に向けた中国の準備態勢を高める方法について意見が交わされました。ライダー事務局長は、世界経済は第4次産業革命の只中にあり、技術革新とグローバル化が結びついて、とりわけ職場に奥深く急速な変化を作り出していることを指摘し、科学技術、人口動勢、気候変動、グローバル化という四つの大きな変化の推進要素が仕事の世界における今後の意思決定にいかに深く影響を与えることになるかを説明しました。そして、中国が労働力の経済的・社会的福祉を検討する際に取り組む必要があると思われる国内の課題を示し、政労使間の社会対話を活発化させるために必要な自由と支援の育成を呼びかけました。また、最富裕層1%が富の3分の1を掌握し、最貧困層25%が保有する富は全体のわずか1%に過ぎないといったように、中国は世界で最も所得不平等度が高い国の一つであることを指摘して、「社会の分断、生産性及び長期的な経済成長の基盤浸食、所得と富だけでなく人間生活の質も司る人間の能力の抑制」といった不平等が引き起こす問題を示して、中国における仕事の未来の中心的な課題に不平等の削減も加えるべきことを提案しました。

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 以上は次の4点の英文記者発表の抄訳です。