ベターワーク計画影響評価
アパレル産業の労働条件改善は労働者の暮らしの向上、事業強化につながることを実証
2016年09月26日
ILOと世界銀行グループの一員である国際金融公社(IFC)との共同事業として2007年から開始されたベターワーク(より良い仕事)計画は、衣料品のグローバル・サプライチェーン(世界的供給網)における労働条件の改善と企業競争力の向上を目指しています。
このたび、米国タフツ大学によって実施されたこの計画の独立影響評価から、参加工場における労働条件の劇的な改善、参加企業の生産性・収益性の向上が明らかになりました。参加工場は長時間労働や極度の低賃金、解雇の脅し、試用契約の乱用などにつながる慣行から離れる傾向があり、労働者の週当たり手取り賃金は増え、過度の残業や劣悪な賃金に対する懸念も減ってきています。また、とりわけハイチ、ニカラグア、ベトナムではベターワーク計画の助言が提供されている工場における男女賃金格差の縮小が見られます。さらに、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)の報告件数が計画参加後18%減少し、職場で怖い思いをする労働者も著しく減ったヨルダンの例に見られるように、威圧的な労働慣行の減少、嫌がらせや言葉による虐待の制限の点でもこの計画は大きな前進を示しています。
独立影響評価からは、ベターワーク計画が実施している監督技能研修が労働条件の改善及び衣料産業における女性のエンパワーメントに非常に効果的な戦略であることも見出されました。この訓練を受けた女性のライン監督者が監督する生産ラインとそうでないラインを比べた場合、生産性が22%高まることが示されています。
評価結果をまとめた報告書『Progress and potential: How Better Work is improving garment workers' lives and boosting competitiveness(進歩と潜在力:ベターワークは衣料労働者の生活をいかに改善し、競争力を押し上げているか・英語)』は、こういった労働条件における改善は企業成績を犠牲にして達成されているわけではなく、労働条件の改善と企業の利益増の間に直接的なつながりを確立できることを示しています。例えば、ベトナムの調査参加工場では、計画参加後4年間で収益性が平均25%上昇しています。
報告書の中心的な執筆者であるタフツ大学のドルシラ・ブラウン教授は、これまでこの一挙両得の結果を裏付ける証拠はあまり得られなかったものの、今回の影響評価によって「この関係性を示す証拠の確立における大きな前進」が遂げられたことを指摘しています。
オーストラリア、デンマーク、オランダ、スイス、米国を主なドナー国とするベターワーク計画は、現在バングラデシュ、カンボジア、インドネシア、ベトナム、ヨルダン、ハイチ、ニカラグアの7カ国で実施され、参加工場は1,300余りに達し、参加総従業員数は160万人を超えています。
影響評価から得られた事項と学んだ教訓について報告するベターワーク計画のダン・リース部長と報告書の中心的な執筆者であるタフツ大学のドルシラ・ブラウン教授(英語) https://www.facebook.com/ILO.ORG/videos/1611732748852956/◎インドネシアのアパレル工場における技能向上がもたらす労働条件の改善
| 「研修を通じて、ある種の啓蒙を受けたような気がします。成功を達成する上でのコミュニケーションの重要性に気づかされたのです」と語るスダルミさん |
タフツ大学の調査から、女性監督者の受講は平均22%の生産性上昇につながることが判明した監督者技能研修ですが、インドネシアのある衣料品工場で主任監督を務めるスダルミさんは、研修を受けて「ある種啓蒙されたような気がする。成功を達成する上でのコミュニケーションの重要性に気づかされた」との感想を述べています。
衣料品産業ではスダルミさんのような能力のある社員がリーダーシップの準備もほとんどないままに責任ある地位に上ることがよく見られます。訓練不足は職場に緊張を生む要因となり、ストレスを抱えた監督者は労働者の意見をほとんど聞かず、叫んだりパワハラに走ったりする傾向があります。アパレル産業の労働者は大半が女性であるため、工場における嫌がらせや差別は彼女たちが報告する福祉や効果的に仕事を遂行する能力に重要な影響を与え、最終的に生産性に影響が出ます。業務の効果的な配分がなされず、過重労働に陥るチームもあれば、暇なチームも出るといったように供給ラインのバランスが崩れます。
縫製部門の責任者として4人の監督と数百人の工員を管理する主任監督に昇格した時、スダルミさんは長時間労働や肉体的・精神的疲労、仕入れ業者の急な要求に対応することから来るストレスなど、予想していた多くのプレッシャーに実際に直面しました。課題の一部は驚くほど個人的な側面に基づくものでした。この産業は最後の瞬間の発注や納期に遅れた場合もしくは品質に問題があった場合のペナルティーが一般的で、プレッシャーの多くが工場監督の肩にのしかかってきます。「あの頃の自分は部下を鼓舞するどころか、効果的にコミュニケーションを取る方法さえ分からず、時々非常に攻撃的になり、職場で問題に直面すると頭に血が上っていました」と彼女は振り返ります。
工場の経営者が自社のチームに研修を受けさせる理由の一つは、このような収益への影響です。ベターワークによる3日間の監督者技能研修は、実習や各自の考察、グループ討議を通じて、監督者に自らの責任、職業基準、労働者の権利について指導することを目指しています。過去2年間に研修を受けた監督者の数は5,850人に達し、その管理を受ける労働者の総数は12万人近くに上っています。
ベターワーク・インドネシア計画のマリア・ジョン・バスケス計画部長は、「効果的なコミュニケーション、労働者のやる気、友好的な作業環境の形成などのソフトスキルは、衣料労働者の生活の質だけでなく、産業の要求に応える工場現場の能力にも実際的な影響を与える可能性があると私たちは見ています」と語っています。ベターワーク計画のダン・リース計画部長も「企業にとっての好結果は歓迎すべきものであるが、それがすべてではない」として、「最終的には権利の問題」と説き、人は差別や嫌がらせ、虐待のない環境で働く権利があることを強調し、「この研修が明確な違いをもたらしている事実は、人間らしく働きがいのある労働条件が労働者と企業のどちらにも利益をもたらすことの証座」と紹介しています。
研修の修了生は学んだ教訓を職場で広めるよう奨励されています。スダルミさんも4人の監督者を集めて、職場成績や生産性を向上する可能性がある方法について話し合いを行いました。そして、縫製スキルが弱い工員が職場で欲求不満を抱えるようになる可能性に気付き、縫製スキル向上研修を実施することを決定しました。
* * *
以上は次の2点の英文広報資料の抄訳です。
- 2016年9月26日付ジュネーブ発記者発表-ベターワーク計画影響評価:アパレル産業の労働条件改善は労働者の暮らしの向上、事業強化につながることを実証
- 2016年9月29日付ボゴール発広報記事-インドネシアのアパレル工場における技能向上がもたらす労働条件の改善