ILOマルチメディア・プラットフォーム「声」:強制労働
労働、自由、幸福:太古より続く偉大なる推進力
ILOメキシコ・キューバ国別事務所に勤務するロドリゴ・モゴロベヨILOビジョン・ゼロ基金主任技術顧問が仕事で扱うのは現代の労働基準ですが、趣味は古代史です。労働には尊厳と楽しみが必要との考えは太古から受け継がれてきたと説いています。
2021年01月10日
ILOメキシコ・キューバ国別事務所に勤務するロドリゴ・モゴロベヨILOビジョン・ゼロ基金主任技術顧問の日々の仕事は現代の労働基準に関わるものですが、趣味は古代史の研究です。「歴史は繰り返すのではなく、しばしば呼応する」との文句が意味するのは、全く同じ事象は二度と起こらないものの、繰り返されるパターンから私たちは学ぶことができるとの解釈の下、過去の偉大なる帝国の物語をひもとくにつれ、今扱っている仕事との関連性をますます見出すようになったと述べています。
例えば、奴隷制あるいは強制労働は古代の一般的な慣行ではありませんでした。現在、イタリア・トリノ市のエジプト博物館に収められているいわゆる「ストライキ・パピルス(紀元前1166年作)」には、古代エジプト・ラムセス三世の治世(推定紀元前1186~1155年)に墓石製造に関与していたデイル・エル・メジナ村で暮らす建築工、職人、筆記工が、親方と共に組織的かつ集団的な形で仕事を中断して、遅配賃金の支払いを求め、腐敗した国の行政官に抗議した姿が描かれていることはこれらの人々が自由人であった証拠と見られます。
エジプト文化には障害を有する労働者に対する寛容と包摂の価値を尊ぶ姿も見られ、例えば、目の不自由な人々は音楽を、小人症の人々は金属、とりわけ金を扱う仕事に就いていました。
しかしながら、古代文明が自由身分の使用人と奴隷を区別していた事実も否定できません。紀元前1692年にバビロンで誕生した世界最古の法律文書の一つといわれるハムラビ法典に明確な例が示されています。商品やサービスと共に、人間の売買の記録が残っているのです。
その後の数世紀にはアッシリアやスパルタのような他の社会も同じ道をたどり、経済は奴隷に依存しました。このモデルが最盛期を迎えたのはローマ時代で、当時は自由人1人当たり奴隷は10人も存在していました。
こういった奴隷を基盤とした制度が十分に記録されている一方で、例えば、上のストライキ・パピルスが書かれた紀元前12世紀など、自由労働が優勢であった時代もありました。その後、影響力のある発言力をもつ人々が登場し、商売としての奴隷制の役割や国家の発展におけるその位置づけに疑義が提起されました。
古代ギリシャ世界の偉大な表看板である詩人ヘシオドス(紀元前750~600年)とソロン(紀元前638~558年)の2人は、市場が商品とサービスだけに限られ、誰も他者に対して絶対的な権限をもたず、どんな契約も市民間の合意に基づく一時的なものであるべきとする社会を促進しました。ヘシオドスの詩「仕事と日々」は、労働は暴力を軽蔑する人が独立し、英雄的になり得、仲間から無条件の尊敬を達成できる唯一の方法と表現しています。アテネの政治家、立法者、詩人であり、しばしば同市の民主主義の基盤を築いた立役者と言われるソロンは、「ディオゲネス・ラエルティオス」といった文学作品によれば、自由人の労働が尊厳をもって遇されない場所は、社会の貧困と適切な生活様式を維持できないことを意味すると強調したとされます。
当時最大の帝国であったペルシャ帝国(紀元前559~530年)を治めたキュルス大王も劣らず、奴隷制に対する反対を促進しました。世界最古の人権宣言と見なされることも多いキュルスの円筒、つまり粘土の円筒に刻まれた文章のおかげで研究者らはキュルス大王がペルシア帝国内における人間の売買を禁じたと結論づけています。
一世紀後、古代ギリシャで最も有名かつ最も影響力のあったアテネの政治家でギリシャの黄金時代を築き上げたと人々に評価されるペリクレス(紀元前495~429年)も、奴隷制は自由人に対する不当競争を促進し、自由人を脅かすことに気付きました。そこで彼は世界最大の古代遺跡の一つであるアテネのアクロポリスを自由人だけで建てることに決めました。ペリクレスは自由意思と貿易と民主主義の組み合わせが人を自由にするだけでなく尊厳と繁栄をもたらすと考えました。
古代史の研究は多くの偉大なる思想家や指導者が奴隷制や強制労働に反対を表明し、仕事が尊厳あるものでなければ、国家は遅かれ早かれ経済的な貧困に陥ると結論づけていたことを示しています。つまり、労働者の尊厳と労働者が属する政治・社会体制の繁栄との間に直接的な関係が確立されています。
今日では労働は人間とその尊厳及び個人としての成長を中心に据えるべきと広く考えられており、2019年のILO総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」にもその見解が集約されています。しかし、歴史上の重要な出来事や古代の偉大なる思想家の著作を振り返ると、これは人類史を通底して連続している思想の一部であることに気付きます。つまり、楽しく働かないと生産性が損なわれ、労働が尊厳と楽しみを伴ったものとなるには、そのような労働の果実を享受できることが必要不可欠であるということです。
今の私たちにとってこれほど必要でこれほど重要でありながら、彼らにとっては非常に明確であった、仕事には尊厳が必要であり、人は仕事を楽しむ必要があるという理念を古代の人々が既に理解していたということには深く感銘を受け、実に心を動かされました、とモゴロベヨ主任技術顧問は結んでいます。
2016年現在でもなお、強制労働被害者は世界全体で2,490万人に上るとみられます。このうち1,600万人が家事労働や建設業、農業などの民間セクターで搾取されており、480万人が強制性的搾取を受け、400万人が国家によって課された強制労働に従事しているとされます。強制労働が生み出す利潤は年間で1,500億ドルに達すると推計されています。被害者の不均衡に多くを、少女を含む女性が占め、商業的性的搾取では全体の99%、他の産業部門でも58%を占めているとみられます。
以上はマルチメディア・プラットフォーム「声」に掲載されている2021年1月10日付の英文広報記事の抄訳です。