1992年の労働者債権保護(使用者の支払不能)条約(第173号)
1992年06月23日
使用者の支払不能の場合における労働者債権の保護に関する条約(第173号)
(日本は未批准、仮訳)
国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十二年六月三日にその七十九回会期として会合し、
使用者の支払不能の場合における労働者債権の保護の重要性を強調し、また、この問題に関する千九百四十九年の賃金保護条約第十一条及び千九百二十五年の労働者補償(災害)条約第十一条の規定を想起し、
千九百四十九年の賃金保護条約が採択された後、支払不能の企業の更生が一層重視されてきたこと並びに使用者の支払不能の社会的及び経済的な影響にかんがみ、可能な場合には、企業を更生し及び雇用を保護するために努力を払うべきことに留意し、
前記の基準が採択された後、使用者の支払不能の場合における労働者債権の保護を促進した多くの加盟国の法令及び慣行に著しい進展が見られたことに留意し、また、総会が労働者債権の問題に関する新たな基準を採択することが時宜に応じたことであると考え、
前記の会期の議事日程の第四議題である使用者の支払不能の場合における労働者債権の保護に関する提案の採択を決定し、
その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
次の条約(引用に際しては、千九百九十二年の労働者債権保護(使用者の支払不能)条約と称することができる。)を千九百九十二年六月二十三日に採択する。
第 一 部 一般規定
第 一 条
1 この条約の適用上、「支払不能」とは、国内法及び国内慣行に従い、使用者の資産に関して債権者に対する集団的な償還のための手続が開始されている状態をいう。
2 この条約の適用上、加盟国は、「支払不能」の範囲を労働者債権が使用者の財政状態を理由として支払われない他の状態(例えば、使用者の資産の額が支払不能に関する手続の開始を正当とするには十分でないと認められる場合)に拡大することができる。
3 1の手続の対象となる使用者の資産の範囲は、国内法令又は国内慣行によって定める。
第 二 条
この条約は、法令又は国内慣行に適合するその他の方法によって適用する。
第 三 条
1 この条約を批准する加盟国は、特権による労働者債権の保護を定める第二部の義務若しくは保証機関による労働者債権の保護を定める第三部の義務のいずれか又はこれらの部の双方の義務を受諾する。前段に規定する義務の選択は、批准に際して付する宣言において明示する。
2 第二部のみ又は第三部のみを当初に受諾した加盟国は、その後、国際労働事務局長に送付する宣言により、その受諾を他方の部へ拡大することができる。
3 第二部及び第三部の双方の義務を受諾する加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、第三部の適用を特定の種類の労働者及び経済活動の特定の部門に制限することができる。その制限は、受諾の宣言において明示する。
4 第三部の義務の受諾を3の規定に従って制限した加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づく第一回の報告において、その受諾の制限の理由を示す。当該加盟国は、その後の報告において、第三部の規定に基づく保護を他の種類の労働者又は経済活動の他の部門に拡大した場合には、その拡大に関する情報を提供する。
5 第二部及び第三部の義務を受諾した加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、第三部の規定に基づいて保護される債権を第二部の適用から除外することができる。
6 加盟国による第二部の義務の受諾は、当然に千九百四十九年の賃金保護条約第十一条の義務の終了を伴う。
7 第三部の義務のみを受諾した加盟国は、国際労働事務局長に送付する宣言により、第三部の規定に基づいて保護される債権について千九百四十九年の賃金保護条約第十一条の義務を終了させることができる。
第 四 条
1 2の例外規定及び前条3の規定に従って明示された制限に従う場合を除くほか、この条約は、すべての被用者及び経済活動のすべての部門について適用する。
2 権限のある機関は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、特定の種類の労働者(特に公的被用者)について、当該労働者の雇用関係に特有の性質を理由として又はこの条約が提供する保護と同等の保護を当該労働者に与える他の種類の保証がある場合には、第二部若しくは第三部又はこれら双方の部の適用を除外することができる。
3 2の例外規定を援用する加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条に基づく報告において、当該例外規定に関する情報を提供し、当該例外規定を援用する理由を示す。
第 二 部 特権による労働者債権の保護
保護される債権
第 五 条
雇用関係から生じた労働者債権は、使用者の支払不能の場合には、特権によって保護されるものとし、特権を有しない債権者が自己の取り分の支払を受ける前に支払不能の使用者の資産から支払われる。
第 六 条
特権は、少なくとも次のものを対象とする。
(a) 支払不能又は雇用の終了の前の所定の期間(三箇月以上とする。)に係る賃金に関する労働者債権
(b) 支払不能が生じたか又は雇用が終了した年及びその前年に行われた労働の結果として支払われるべき休日手当に関する労働者債権
(c) 支払不能又は雇用の終了の前の所定の期間(三箇月以上とする。)に係る他の種類の有給休暇について支払われるべき金額に関する労働者債権
(d) 雇用の終了の際に労働者に支払われるべき退職手当
制限
第 七 条
1 特権による労働者債権の保護は、国内法令によって一定の額に制限することができる。ただし、当該一定の額は、社会的に容認される水準を下回ってはならない。
2 労働者債権に与えられる特権が一定の額に制限される場合には、当該一定の額は、その価値を維持するために必要に応じて調整する。
特権の順位
第 八 条
1 労働者債権については、国内法令により、特権を与えられた他の大部分の債権、特に国及び社会保障制度の債権よりも高い順位の特権を与える。
2 もっとも、労働者債権が第三部の規定に基づいて保証機関によって保護されている場合には、当該労働者債権については、国及び社会保障制度の債権よりも低い順位の特権を与えることができる。
第 三 部 保証機関による労働者債権の保護
一般原則
第 九 条
雇用関係から生じた使用者に対する労働者債権の支払は、使用者の支払不能によって行われない場合には、保証機関が保証する。
第 十 条
加盟国は、この部の実施に当たって、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、濫用の可能性を防止するために適当な措置をとることができる。
第 十 一 条
1 賃金保証機関の組織、管理、運営及び資金調達は、第二条の規定に基づいて定める。
2 1の規定は、保険会社が十分な保証を提供する限り、加盟国が、自国に特有の性質及び必要に従い、保険会社が第九条の規定に基づく保護を提供することを認めることを妨げるものではない。
保証機関によって保護される債権
第 十 二 条
この部の規定に基づいて保護される労働者債権には、少なくとも次のものを含む。
(a) 支払不能又は雇用の終了の前の所定の期間(八週間以上とする。)に係る賃金に関する労働者債権
(b) 支払不能又は雇用の終了の前の所定の期間(六箇月以上とする。)に行われた労働の結果として支払われるべき休日手当に関する労働者債権
(c) 支払不能又は雇用の終了の前の所定の期間(八週間以上とする。)に係る他の種類の有給休暇について支払われるべき金額に関する労働者債権
(d) 雇用の終了の際に労働者に支払われるべき退職手当
第 十 三 条
1 この部の規定に基づいて保護される債権は、一定の額に制限することができる。ただし、当該一定の額は、社会的に容認される水準を下回ってはならない。
2 保護される債権が一定の額に制限される場合には、当該一定の額は、その価値を維持するために必要に応じて調整する。
最終規定
第 十 四 条
この条約は、第三条6及び7に定める範囲内で千九百四十九年の賃金保護条約を改正するものである。もっとも、この条約は、千九百四十九年の賃金保護条約の批准のための開放を終了させるものではない。
第 十 五 条
この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。
第 十 六 条
1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
第 十 七 条
1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。
第 十 八 条
1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。
第 十 九 条
国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。
第 ニ 十 条
国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。
第 ニ 十 一 条
1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
(a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十七条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
(b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。
第 ニ 十 ニ 条
この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。