1990年の化学物質勧告(第177号)

1990年06月25日

職場における化学物質の使用の安全に関する勧告(第177号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十年六月六日にその第七十七回会期として会合し、
 その会期の議事日程の第五議題である職場における化学物質の使用の安全に関する提案の採択を決定し、
 その提案が千九百九十年の化学物質条約を補足する勧告の形式をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百九十年の化学物質勧告と称することができる。)を千九百九十年六月二十五日に採択する。

Ⅰ 一般規定


1 この勧告の規定は、千九百九十年の化学物質条約(以下「条約」という。)の規定とともに適用すべきである。
2 この勧告の規定を実施するためにとられるべき措置に関し、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議すべきである。
3 権限のある機関は、安全及び健康上の理由により特定の化学物質の使用を認められない労働者又は国内法令に従って定められる条件の下でのみ使用を認められる労働者の種類を特定すべきである。
4 この勧告の規定は、国内法令に定める自営の労働者にも適用すべきである。
5 条約第一条2(b)及び第十八条4の規定に基づき権限のある機関が定める秘密の情報を保護するための特別の措置においては、
  (a) 秘密の情報の開示の対象を労働者の安全及び健康に関する必要性を有する者に限定すべきである。
  (b) 秘密の情報を得る者が安全及び健康上の必要性に備えるためにのみにそれを使用し、かつ、これ以外にはその秘密を保護することに同意することを確保すべきである。
  (c) 緊急の場合には、関連のある秘密の情報を即時に開示することを定めるべきである。
  (d) 開示に関して意見の相違がある場合に秘密に関する申立及び秘密にすべきとの主張と情報の必要性との妥当性をすみやかに考慮する手続を定めるべきである。

Ⅱ 分類及び関連する措置


   分類


6 条約第六条1に基づき定められる化学物質の分類のための基準は、化学物質の性質を基礎とするべきであり、次のものを含む。
  (a) 毒性(身体のすべての部分における健康に対する急性及び慢性の影響)
  (b) 化学的又は物理的性質(可燃性、爆発性、酸化性及び危険な反応特性を含む。)
  (c) 腐食及び刺激性
  (d) アレルギー性及び過敏性の影響
  (e) 発ガン性の影響
  (f) 催奇形性及び変異原性の影響
  (g) 生殖系に対する影響
7 (1) 権限のある機関は、合理的に実行可能な限り、関連のある有害性の情報とともに、職場において使用される元素及び化合物の統合された表を作成し及び定期的に更新すべきである。
  (2) 統合された表に含まれていない元素及び化合物に関し、製造業者又は輸入業者は、免除されない限り、職場において使用する前に、条約第一条2(b)に基づく秘密の情報の保護に適合する方法によって、当該表の維持のために必要な情報を権限のある機関に送付することを要求されるべきである。

   ラベル及び標章


8 (1) 条約第七条に基づき定められる化学物質のラベル及び標章の要件は、化学物質を取り扱う者又は使用する者が、当該化学物質を安全に使用できるように、当該化学物質を受領するとき及び使用するときに当該化学物質を認識し及び識別できるようにするべきである。
  (2) 有害な化学物質に関するラベルの要件は、現行の国内基準又は国際基準に適合するもので、次のものを対象とすべきである。
   (a) ラベルに示されるべき情報(適当な場合には次のものを含む。)
    (i)  商品名
    (ii)  化学物質の物質名
    (iii)  供給者の氏名、住所及び電話番号
    (iv)  有害性の記号
    (v)  化学物質の使用に伴う特別の危険性の性質
    (vi)  安全上の注意事項
    (vii) バッチを特定することができる情報
    (viii) 追加的な情報が示される化学物質の安全に関する情報資料が使用者から利用可能であるという説明
    (ix) 権限のある機関が制定する制度に基づき定められる分類
   (b) ラベルの読み易さ、耐久性及び大きさ
   (c) ラベル及び記号(色を含む。)の統一
  (3) ラベルは、労働者が容易に理解できるようにすべきである。
  (4)  (2)の対象とならない化学物質については、標章を付すのは、化学物質の物質名だけに限定することができる。
9 容器の大きさ又は包装の性質により化学物質のラベル又は標章を付すことが不可能な場合には、票せん又は文書の添付のような認識のための他の効果的な方法のための規定を設けるべきである。ただし、有害な化学物質のすべての容器は、適当な用語又は記号により内容の有害性を示すべきである。

   化学物質の安全に関する情報資料


10 (1) 有害な化学物質の安全に関する情報資料の準備のための基準は、それに不可欠の情報(適当な場合には次のものを含む。)が記載されることを確保すべきである。
    (a) 化学物質の製品及び化学物質の会社の確認(化学物質の商品名又は通称及び供給者又は製造業者の詳細を含む。)
    (b) 組成及び成分に関する情報(有害性の評価を行う目的のため明確に物質名を確認できるような方法による。)
    (c) 有害性の確認
    (d) 応急手当措置
    (e) 消火措置
    (f) 災害による発散に対する措置
    (g) 取扱い及び貯蔵
    (h) 曝露の管理及び個人の保護(作業場の曝露の監視のとりうる方法を含む。)
    (i) 物理的及び化学的特性
    (j) 安定性及び反応性
    (k) 毒物学情報(体内へ侵入する潜在的な経路及び職場において直面する他の化学物質又は他の有害性の相乗作用の可能性を含む。)
    (l) 生態学情報
    (m) 処分の際に考慮すべき事項
    (n) 運送の情報
    (o) 取締りの情報
    (p) その他の情報(化学物質の安全に関する情報資料の作成日を含む。)
   (2)  (1) (b)に掲げる成分の名称及び又は濃度が秘密の情報である場合には、条約第一条2(b)に従って、当該成分の名称又は濃度を化学物質の安全に関する情報資料から除外することができる。労働者の安全及び健康の保護のためにのみ情報を使用し、他には開示しないことに同意する権限のある機関、関係のある使用者並びに労働者及びその代表者に対し、この勧告の5に従って、請求のあったときは、書面により情報を開示すべきである。

Ⅲ 使用者の責任


   曝露の監視


11 (1) 労働者が有害な化学物質に曝露された時には、使用者は、次のことを要求されるべきである。
    (a) 労働者の健康を保護するために労働者が有害な化学物質に曝露されることを制限すること。
    (b) 必要がある場合には、事業場における空気中の化学物質の濃度を評価し、監視し、及び記録すること。
   (2) 労働者及びその代表者並びに権限のある機関は、(1) (b)の記録を利用すべきである。
   (3) 使用者は、権限のある機関が定める期間、(1) (b)に定める記録を保存すべきである。
     事業場内の作業管理
12 (1) 使用者は、13から16までに基づき定められる基準を基礎として、職場における化学物質の使用から生ずる有害性から労働者を保護するための措置をとるべきである。
   (2) 国際労働機関の理事会が採択した多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言に従って、一又は二以上の事業場を有する国内企業又は多国籍企業は、そのすべての事業場(所在地又は所在国のいかんを問わない。)における労働者に対し差別なく、有害な化学物質への職業上の曝露による健康に対する有害性の防止及び管理並びにそれからの保護に関する安全措置を提供すべきである。
13 権限のある機関は、有害な化学物質の使用における安全のための基準(適用可能な場合には次のものを対象とする規定を含む。)を定めるべきである。
   (a) 吸入、皮膚からの吸収又は消化による体内への侵入による急性又は慢性の疾病の危険性
  (b) 皮膚又は目の接触による負傷又は疾病の危険性
  (c) 物理的な特性又は化学的な反応性から生じる火災、爆発又は他の事故による負傷の危険性
  (d) 次のものによってとられるべき予防措置
   (i)  (a)から(c)までの危険性を除去し又は最小にする化学物質の選定
   (ii)  (a)から(c)までの危険性を除去し又は最小にする工程、技術及び設備の選定
   (iii)  工学上の管理措置の使用及び適切な維持
   (iv)  (a)から(c)までの危険性を除去し又は最小にする作業制度及び慣行の採用
   (v)  適切な自己の衛生措置の採用及び適切な衛生設備の提供
   (vi)  (i)から(v)までの措置によっては(a)から(c)までの危険性を十分除去することができない場合には、労働者による費用の負担のない適当な保護具及び保護衣の提供、維持並びにそれらの使用
   (vii)  標識及び通告の利用
   (viii) 緊急事態のための適切な準備
14 権限のある機関は、有害な化学物質の貯蔵における安全のための基準(適用可能な場合には次のものを対象とする規定を含む。)が定めらることを確保すべきである。
  (a) 貯蔵される化学物質の融和性及び分離性
  (b) 貯蔵される化学物質の特性及び量
  (c) 貯蔵物の保安及び貯蔵場所並びに貯蔵物への接近
  (d) 貯蔵容器の構造、性質及び保全
  (e) 貯蔵容器の積込み及び積卸し
  (f) ラベル及び再ラベルの要件
  (g) 災害による発散、火災、爆発及び化学反応に対する注意事項
  (h) 温度、湿度及び換気
  (i) 漏洩の場合の予防措置及び手続
  (j) 緊急事態の手続
  (k) 貯蔵される化学物質に生じうる物理的及び化学的変化
15 権限のある機関は、有害な化学物質の運送に関係する労働者の安全のために、国内運送の規則又は国際的な運送の規則に適合する基準(適用可能な場合には次のものを対象とする規定を含む。)を定めることを確保すべきである。
  (a) 運送されるべき化学物質の特性及び量
  (b) 運送に使用する包装及び容器(パイプラインを含む。)の性質、保全及び保護
  (c) 運送に使用する車両の特定
  (d) 運行経路
  (e) 運送労働者の訓練及び資格
  (f) ラベルの要件
  (g) 積込み及び積卸し
  (h) 漏洩の場合の手続
16 (1) 権限のある機関は、労働者の安全を確保する目的で有害な化学物質及び有害な不用の製品の処分及び処理において従うべき手続のために、有害な不用物の処分に関する国内規則又は国際規則に適合する基準を定めることを確保すべきである。
   (2)  (1)の基準は、適用可能な場合には次のものを対象とする規定を含むべきである。
    (a) 不用の製品の確認方法
    (b) 汚染された容器の取扱い
    (c) 不用の容器の確認、構造、性質、保全及び保護
    (d) 作業環境に与える影響
    (e) 処分区域の境界
    (f) 保護具及び保護衣の提供、維持及び使用
    (g) 処分又は取扱い方法
17 条約及びこの勧告の規定に基づき定められる職場における化学物質の使用のための基準は、一般大衆及び環境の保護並びにこの目的のために定められる基準にできる限り適合すべきである。

   医学的監視


18 (1) 使用者又は国内法及び国内慣行に基づく権限のある団体は、国内法及び国内慣行に従う方法により、次のことのために必要な労働者の医学的な監視を行うことを要求されるべきである。
    (a) 化学物質への曝露に伴う有害性との関係における労働者の健康の評価
    (b) 有害な化学物質の曝露による作業に関連する疾患及び負傷の診断
   (2) 医療検査又は調査の結果、治療又は予防を必要とすることが明らかとなった場合には、関係のある労働者の曝露を防止し又は減少させ及び健康の悪化を防止するための措置をとるべきである。
   (3) 健康診断の結果は、化学物質への曝露に関する健康状態を決定するために使用すべきであり、労働者を差別するために使用すべきではない。
   (4) 労働者の医学的な監視の記録は、権限のある機関が定める期間、権限のある機関が定める者が保存すべきである。
   (5) 労働者は、自ら又は自己の医師を通じて自己の医療記録を利用できるべきである。
   (6) 個人の医療記録の秘密は、一般に認められている医療倫理の原則に従い尊重すべきである。
   (7) 健康診断の結果は、関係のある労働者に明確に説明すべきである。
   (8) 労働者及びその代表者は、労働者個人を確認できない場合には、医療記録から作成される研究の結果を利用できるべきである。
   (9) 職業病の認識及び管理を促進する場合には、医療記録の結果は、匿名性を維持することを条件として、適当な健康に関する統計及び疫学に関する研究を準備するため利用に供するべきである。

   応急手当及び緊急事態


19 権限のある機関が定める要件に従い、使用者は手続(応急手当の取決めを含む。)を維持し、職場における有害な化学物質の使用から生ずる緊急事態及び災害に対処し、及びこの手続の下で労働者が訓練を受けることを確保するよう要求されるべきである。

Ⅳ 協力


20 使用者並びに労働者及びその代表者は、この勧告に基づき定められる措置の適用において、可能な限り緊密に協力すべきである。
21 労働者は次のことを要求されるべきである。
(a) 使用者が行う訓練及び指示に従って、自己の安全及び健康又は作業中の自己の行動若しくは不作為による影響を受ける他の者の安全及び健康にできる限り配慮すること。
  (b) 自己の保護又は他の者の保護のために提供されるすべての装置を適切に使用すること。
  (c) 危険性があると信ずるに足り、かつ、自分では適切に対処できない状況を直ちに監督者に報告すること。
22 職場において使用する予定の有害な化学物質に関する広告物は、有害性及び予防措置をとる必要性について注意を喚起するべきである。
23 供給者は、職場における化学物質の特別の使用から生ずる特殊な有害性の評価に利用可能であり、かつ、必要とされる情報を請求により使用者に提供すべきである。

Ⅴ 労働者の権利


24 (1) 労働者及びその代表者は、次の権利を有すべきである。
     (a) 職場における有害な化学物質の使用による危険性から労働者を保護するために適切な予防措置を使用者と協力してとるため、化学物質の安全に関する情報資料及び他の情報を使用者から得ること。
     (b) 職場における化学物質の使用から生ずるおそれのある危険性について使用者又は権限のある機関による調査を請求し及びその調査に参加すること。
   (2) 請求された情報が条約第一条2(b)及び第十八条4により秘密である場合には、使用者は、この情報の使用を職場における化学物質の使用から生ずるおそれのある危険性の評価及び管理のために限定すること及びこの情報を潜在的競争者には開示しないことを確保するための合理的な手段をとることを労働者又はその代表者に要求することができる。
   (3) 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言を考慮して、多国籍企業は、他の国において遵守する現地の事業に関連のある有害な化学物質の使用の基準及び手続に関する情報を請求により、事業を行うすべての国における関係のある労働者、その代表者及び権限のある機関並びに使用者団体及び労働者団体の利用に供すべきである。
25 (1) 労働者は、次の権利を有すべきである。
     (a) 職場における化学物質の使用から生ずるおそれのある有害性について、労働者の代表者、使用者又は権限のある機関に知らせること。
     (b) 自己の安全又は健康に対する急迫したかつ重大な危険性があると信ずるに足りる正当な事由があるときには、化学物質の使用から生ずる危険から避難し、その場合には、自己の監督者に速やかに通知すること。
     (c) 化学物質に対して過敏であるような有害な化学物質による危害の危険性が増大する健康状態の場合において、その化学物質を伴わない別の作業が可能であり、かつ、関係のある労働者がその作業について資格を有するか又は合理的に訓練を受けることができるときは、その作業を行うこと。
     (d)  (c)に掲げる場合において離職することになるときは、補償を受けること。
     (e) 職場における化学物質の使用から生ずる負傷及び疾患の適切な治療及び補償を受けること。
   (2)  (1) (b)の規定に従って危険から避難し又はこの勧告に基づく権利を行使する労働者は、不当な結果から保護されるべきである。
   (3)  (1) (b)の規定に従って労働者が危険から避難した場合には、使用者は、労働者及びその代表者と協力して即時に危険性を調査し、必要な是正措置をとるべきである。
   (4) 妊娠又は授乳の場合には、女子労働者は、胎児又は乳幼児の健康にとって有害な化学物質の使用又は曝露を伴わない別の作業が可能なときは、その作業を行う権利を有すべきであり、及び適当な時に従前の職務に復帰する権利を有すべきである。
26 労働者は、次のものを受けるべきである。
  (a) 労働者が容易に理解する形式及び言語による化学物質の分類及びラベル並びに化学物質の安全に関する情報資料に関する情報
  (b) 作業の遂行に当たって有害な化学物質の使用から生ずる可能性のある危険性に関する情報
  (c) 化学物質の安全に関する情報資料に基づく指示及び適当な場合には事業場に固有の指示(文書から口頭かを問わない。)
  (d)  (b)の危険性の防止及び管理並びにその危険性からの保護のために利用可能な方法(貯蔵、運送及び不用物の処分の正しい方法並びに緊急な事態及び応急手当を含む。)による訓練並びに必要な場合の再訓練