1988年の建設業における安全健康勧告(第175号)

1988年06月20日

建設業における安全及び健康に関する勧告(第175号)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十八年六月一日にその第七十五回会期として会合し、
 関連する国際労働条約及び勧告、特に千九百三十七年の安全規定(建築業)条約及び勧告、千九百三十七年の災害予防協力(建築業)勧告、千九百六十年の放射線からの保護に関する条約及び勧告、千九百六十三年の機械防護条約、千九百六十七年の最大重量条約及び勧告、千九百七十四年の職業がん条約及び勧告、千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約及び勧告、千九百八十一年の職業上の安全健康条約及び勧告、千九百八十五年の職業衛生機関条約及び勧告、千九百八十六年の石綿条約及び勧告並びに千九百六十四年の業務災害給付条約に附属する千九百八十年に改正された職業病の一覧表に留意し、
 前記の会期の議事日程の第四議題である建設業における安全及び健康に関する提案の採択を決定し、
 その提案が建設業における安全健康条約を補足する勧告の形をとるべきであることを決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百八十八年の建設業における安全健康勧告と称することができる。)を千九百八十八年六月二十日に採択する。

Ⅰ 適用範囲及び定義

1 千九百八十八年の建設業における安全健康条約(以下「条約」という。)及びこの勧告は、特に次のものに適用すべきである。
 (a) 条約第二条(a)に規定する建築、土木並びにプレハブ建築物及び構造物の組立て及び解体
 (b) 石油掘削装置及び陸上で建設中の海上設備の製作並びに組立て
2 この勧告の適用上、
 (a)「建設」とは、次のものを対象とする。
  (i)  すべての種類の建築物又は構造物の建築(掘削及び建設を含む。)、構造的変更、修繕、修理、保守(清掃及び塗装を含む。)及び解体
  (ii)  例えば、空港、埠(ふ)頭、港湾施設、内陸水路、ダム、治山治水建造物、道路及び高速道路、鉄道、橋、トンネル、高架橋並びに通信、排水、下水、水道、エネルギー供給等のサービスの提供に関連する建造物の土木工事(掘削及び建設を含む。)、構造的変更、修理、保守及び解体
  (iii) プレハブ建築物及び構造物の組立て及び解体並びに建設現場におけるプレハブ部品の製造
 (b) 「建設現場」とは、(a)に規定する工程又は作業が行われる現場をいう。
 (c) 「作業場」とは、労働者が作業のためにいる必要があり又は行く必要があるすべての場所で、(f)に定義する使用者の管理の下にあるものをいう。
 (d) 「労働者」とは、建設業に従事する者をいう。
 (e) 「労働者代表」とは、国内の法律又は慣行に従って労働者代表と認められた者をいう。
 (f) 「使用者」とは、次の者をいう。
  (i)  建設現場において一人以上の労働者を雇用する自然人又は法人
  (ii) 状況により、主要な請負業者、請負業者又は下請業者
 (g) 「権限のある者」とは、特定の作業を安全に行うための適切な訓練並びに十分な知識、経験及び技能等適切な資格を有する者をいう。権限のある機関は、その者の指名のための適当な基準を定め、その者に課す義務を決定することができる。
 (h) 「足場」とは、労働者及び材料を支えるため又はそのような構造物に接近するために用いられる定置式、吊(つ)り下げ式又は移動式のすべての一時的な構造物及びその支持部分であって、(1)に規定する「荷揚用機械」に該当しないものをいう。
 (i) 「荷揚用機械」とは、人又は荷を揚げ又は下ろすために用いられるすべての固定式又は移動式の機械をいう。
 (j) 「荷揚用具」とは、荷揚用機械に荷を取り付けることのできる用具又は複合滑車であって、荷揚用機械又は荷の不可分の一部を成さないものをいう。
3 この勧告は、国内法令に定める自営業者についても適用すべきである。

Ⅱ 一般規定

4 国内法令は、使用者及び自営業者が安全で健康的な作業場を提供し、かつ、所定の安全及び健康のための措置に従うことの全般的な義務を負うことを求めるべきである。
5(1) 二人以上の使用者が同一の建設現場で作業を行う場合には、所定の安全及び健康のための措置に従うため、使用者相互及び所有者又はその代表も含め当該建設作業に携わっている他の者と協力する義務を負うべきである。
 (2) 建設現場における安全及び健康のための措置の調整についての最終的な責任は、主要な請負業者又は作業の遂行に主として責任を有する者にあるべきである。
6 建設現場における安全及び健康を促進するための使用者と労働者との間の組織的な協力を確保するためにとられる措置は、国内法令又は権限のある機関により定めるべきである。その措置には、次のものが含まれるべきである。
 (a) 所定の権限及び義務を有する使用者及び労働者を代表する安全及び健康のための委員会の設置
 (b) 所定の権限及び義務を有する労働者の安全のための代表の選出又は任命
 (c) 安全及び健康を促進するため、適切な資格及び経験を有する者の使用者による任命
 (d) 安全のための代表及び安全のための委員会の構成員の訓練
7 建設事業の設計及び計画に関係している者は、国内の法令及び慣行に従い、当該建設に従事する労働者の安全及び健康を考慮すべきである。
8 建設用具、工具、保護具及び他の類似の用具の設計は、人間工学的原理を考慮すべきである。

Ⅲ 予防的及び保護的措置

9 建設作業は、次のような方法で、計画し、準備し及び着手すべきである。
 (a) 作業場で生ずるおそれのある危険をできる限り速やかに防止する。
 (b) 過度に又は不必要に疲労を伴う作業姿勢及び動作を避ける。
 (c) 作業の構成は、労働者の安全及び健康を考慮する。
 (d) 安全及び健康の観点から適切な材料及び製品を使用する。
 (e) 化学的、物理的及び生物学的要因の有害な影響から労働者を保護する作業方法を採用する。
10 国内法令は、権限のある機関への所定の規模、期間又は性格の建設現場についての届出を定めるべきである。
11 労働者は、作業場において、その者が設備及び作業方法を管理する範囲内において安全な労働条件の確保に参加し、採用された作業手続に関してそれが安全及び健康に影響する限りにおいて意見を表明する権利及び義務を有すべきである。

   作業場の安全

12 建設現場においては、次の事項に関する規定を含む管理計画を設け、実施すべきである。
 (a) 材料及び用具の適切な保管
 (b) 適当な間隔を置いての廃棄物及び破片の除去
13 労働者を他の手段で高所からの墜落から保護することができない場合には、
 (a) 適切な安全ネット又は安全シートを組み立て及び維持すべきである。
 (b) 適切な安全ハーネスを提供し及び使用すべきである。
14 使用者は、労働者が個人保護具を使用することができるように適当な手段を提供し、その適切な使用を確保すべきである。保護具及び防護衣は、権限のある機関ができる限り人間工学的原理を考慮して定める基準に適合したものであるべきである。
15(1) 建設機械及び用具の安全は、形式ごとに又は個別に、適当な場合には権限のある者により、検査し及び試験すべきである。
  (2) 国内法令は、その設計に人間工学的原理が考慮されていない機械、装置及びシステムから職業病が生ずるおそれがあるという事実を考慮すべきである。

  足場

16 すべての足場及びその部分は、使用目的に対し、適切かつ堅ろう牢な材料のもので、かつ、適切な寸法と耐久力のあるものであり、適切な状態で維持すべきである。
17 すべての足場は、適切に使用されている際の倒壊や不測の転位を防止するように適切に設計し、組み立て及び維持すべきである。
18 足場の作業台、通路及び階段は、人を転落又は落下物による危険から保護するような寸法のもので、そのように建設し及び防護すべきである。
19 足場は、過重な負担をかけ、又は他の方法で酷使すべきでない。
20 足場は、権限のある者による場合又はその監督下にある場合を除くほか、組み立て根本的に改造し又は解体してはならない。
21 足場は、国内法令に従い、権限のある者が次の場合に点検し、その結果を記録すべきである。
 (a) 初めて使用される前に
 (b) その後は定期的な間隔で
 (c) 耐久力及び安定性に影響を与えるおそれのある変更、使用の中断、天候若しくは地震との遭遇又は他の出来事の生じた後に

  荷揚用機械及び荷揚用具

22 国内法令は、次の場合に権限のある者が検査し及び試験すべき荷揚用機械及び荷揚用具の部品を定めるべきである。
 (a) 初めて使用される前に
 (b) 現場に組み立てた後に
 (c) その後は国内法令の定める間隔で
 (d) 根本的な改造又は修理の後に
23 22の規定に基づいて行った荷揚用機械及び荷揚用具の部品の検査及び試験の結果を記録し、求めに応じて権限のある機関並びに使用者及び労働者若しくはその代表者が利用し得るようにすべきである。
24 一定の安全作業荷重を有するすべての荷揚用機械及び荷揚用具のすべての部品は、その最大安全荷重を明確に表示すべきである。
25 可変的な作業安全荷重を有するすべての荷揚用機械は、それぞれの最大安全作業荷重及びそれが適用可能な条件を明確に運転手に指示する効果的な方法を具備すべきである。
26 荷揚用機械又は荷揚用具の部品は、権限のある者により、その指揮の下で試験の目的で行う場合を除くほか、安全作業荷重を超える負担をかけてはならない。
27 すべての荷揚用機械及びすべての荷揚用具の部品は、特に可動部分と固定物との間に安全な間げき隙を設け、当該機械の安定性を確保するように適切に設置すべきである。
28 荷揚用機械は、危険防止に必要な場合には、適切な信号の手段又は装置を装備しないで使用してはならない。
29 国内法令に定めるところに従って、荷揚用機械の運転手及び操縦者は、
 (a) 所定の最低年齢に達しているべきである。
 (b) 適切な訓練を受け、資格を有すべきである。

  運搬、土砂運搬及び材料処理設備

30 車両及び土砂運搬又は材料処理設備の運転手及び操縦者は、国内法令により求められる訓練及び試験を受けた者であるべきである。
31 車両及び土砂運搬又は材料処理設備の移動から生ずる危険防止のため、適切な信号、他の管理手段又は装置を備えるべきである。後方に移動している際の車両や設備には、特別に安全の予防措置をとるべきである。
32 車両、土砂運搬及び材料処理設備が穴や水中に転落することを防止する予防措置をとるべきである。
33 適当な場合には、土砂運搬及び材料処理設備には、当該機械が倒れた際にそれに押しつぶされること及び物の落下から操縦者を防護するために設計された構造物を備え付けるべきである。

  掘削、立坑、土工、地下作業及びトンネル

34 掘削、立坑、土工、地下作業又はトンネルの部分のための支保工その他の支持物は、権限のある者の監督下で行う場合を除くほか、組み立て、変更し又は解体してはならない。
35(1) 人が雇用されている掘削、立坑、土工、地下作業及びトンネルのすべての部分は、権限のある者が国内法令に定める時期及び場合に点検し、その結果を記録すべきである。
  (2)  (1)の点検の後でなければ、そこで作業を開始してはならない。

  圧縮空気下での作業

36 条約第二十一条の規定に基づく圧縮空気下での作業に関する措置には、行われる作業の条件、使用されるプラント及び設備、労働者の医学的監視及び管理並びに圧縮空気下での作業期間を定めた規定を含むべきである。
37 国内法令に定める先立つ期間内に、資格のある者が既に点検を行った場合にのみ、ケーソン内での作業が許されるべきである。点検結果は、記録すべきである。

  くい杭打ち

38 すべてのくい杭打ち設備は、できる限り人間工学的原理を考慮に入れた優れた設計及び構造から成り、適切に維持すべきである。
39 くい杭打ちは、権限のある者の監督下でのみ行うべきである。

  水上作業

40 条約第二十三条の規定に基づく水上作業に関する規定には、適当な場合には、適切かつ十分な次の設備及びその使用を含むべきである。
 (a) 棚、安全ネット及び安全ハーネス
 (b) 救命胴衣、救命具、救命ボート(必要な場合には動力付きボート)及びブイ
 (c) 爬(は)虫類その他の動物による危険からの保護
     

  健康に対する危険


41(1) 権限のある機関は、建設業において使用される有害物質と関連する健康上の危険に関する情報を建築家、請負業者、使用者及び労働者代表に提供するため、国際的な科学的研究の結果を利用した情報体制を設けるべきである。
  (2) 建設業において使用される製品の製造者及び取扱業者は、製品と関連する健康上の危険及びとるべき予防措置に関する情報を製品と併せて提供すべきである。
  (3) 有害物質を含む材料の使用並びに廃棄物の除去及び処理に当たっては、労働者及び公衆の健康並びに環境の保存を国内法令に定めるところに従って保護すべきである。
  (4) 危険な物質は、明確に表示し、関連する特徴及び使用に関する指示を記したラベルを貼(は)るべきである。当該物質は、国内法令又は権限のある機関の定める条件の下で取り扱うべきである。
  (5) 権限のある機関は、建設業においていずれの有害物質が使用を禁じられるべきであるかを決定すべきである。
42 権限のある機関は、国内法令に定める期間中、作業環境の監視及び労働者の健康評価を記録すべきである。
43 労働者に安全及び健康に対する危険をもたらす過度な重量の人力による引揚げは、当該重量を減らすこと、機械装置を使用すること又は他の手段により避けるべきである。
44 新たな製品、設備及び作業方法が導入された場合には、安全及び健康に関して労働者が知らされ、かつ、訓練されることについて、特別の注意を払うべきである。

  危険な空気

45 条約第二十八条3の規定に基づいてとられる危険な空気に関する措置は、権限のある者からの事前の書面による権限付与若しくは許可又は他の方法を含むべきであり、これに明記された手続を完了した後においてのみ、危険な空気が存在するおそれのある区域に立ち入ることができる。

  火災予防

46 労働者は、危険防止のため必要な場合には、避難手段の使用を含め、火災の場合にとるべき措置の訓練を適切に受けるべきである。
47 火災の場合に避難する方向を明らかに指示するため、適当な場合には、適切な視覚的信号を備え付けるべきである。

  放射線による危険

48 特に原子力産業において、電離放射線にさらされる危険のある建築物の維持、修理、破壊又は解体作業に従事する建設労働者に関しては、権限のある機関が厳しい安全規則を作成し、実施すべきである。

  応急手当

49 条約第三十一条の規定に基づいて救急施設の設置及び職員が配置されるべき方法は、権限のある保健当局並びに関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の上作成される国内法令に定めるべきである。
50 作業が溺(でき)死、窒息又は電気ショックの危険を伴う場合には、救急職員は、蘇(そ)生その他の救命技術の使用及び救助手続に習熟しているべきである。

  福利

51 適当な場合には、労働者数、作業の期間及びその場所に応じ、他の方法を利用することができないときには、建設現場又はその近傍に飲食物を供し又は用意する十分な施設を設置すべきである。
52 自宅から離れた建設現場の労働者に対し、現場と自宅又は他の適切な居住設備との間で適切な輸送手段を利用することができない場合には、適切な居住設備を利用し得るようにすべきである。男子労働者及び女子労働者に対しては、区分された衛生、洗浄及び宿泊のための施設を設置すべきである。

Ⅳ 従前の勧告に対する効力

53 この勧告は、千九百三十七年の安全規定(建築)勧告及び同年の災害予防のための協力(建築)勧告に代わるものである。