1936年の港に於ける海員福利勧告(第48号)
1936年10月24日
港に於ける海員の福利の増進に関する勧告(第48号)
国際労働機関の総会は、
国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百三十六年十月六日其の第二十一回会議として会合し、
右会議の会議事項の第三項目たる港に於ける海員の福利の増進に関する提案の採択を決議し、且
該提案は勧告の形式に依るべきものなることを決定し、
千九百三十六年の港に於ける海員福利勧告と称せらるべき左の勧告を千九百三十六年十月二十四日採択す。
海員は、其の職業の性質上しばしば(注:原文は旧字体、以下同じ)長期間に亙り家庭生活の利益を奪はれ、且港特に外国の港に於ては特別の危険と困難とに曝さるるの虞あるに鑑み、又一般労働者の余暇を組織的にし、福利を増進し及健康を保護する為執らるる措置の利益を受くること海員に取り必しも可能に非ざるに鑑み、或政府及各種の私の団体は、港に於ける海員を特別に援助し及保護する為の各種の措置を執ることに成功したるに鑑み、又右の保護は、能ふ限り多数の海員に及ぼさるべきものなるに鑑み、
国家的及地方的の必要上及慣習上に存することあるべき相違に拘らず、海員の間に人種の差別を設けざる様主要なる措置を国内的及国際的に発達せしめ且調整すること重要なるに鑑み、
総会は、国際労働機関の各締盟国が港に於ける内国民海員及外国人海員の福利の増進の為、左の原則及方法を考慮すべきことを勧告す。
第 一 編 一般組織
1 左の目的の為各主要港に船舶所有者、海員、国及地方の権力並に関係ある主なる団体の代表を包含すべき公の又は公認の機関を創設すること望ましとす。
(a) 海事国の領事官憲を包含する各種の関係ある権力又は団体と能ふ限り連絡を保ち、港に於ける海員の状況に関する一切の有益なる情報及提案を蒐集すること。
(b) 右状況の改善の為の措置を採用し、適応せしめ及調整することに関し、権限ある部局、権力及団体に勧告すること。
(c) 必要あるときは右措置の実行に付他の権限ある機関と協力すること。
2 国際労働事務局をして海事国政府に報道することを得しめ且右海事国政府の活動を調整することに援助することを得しむる為、各国政府が事務局と連絡を保ち且港に於ける海員の福利を増進するに付得られたる経験及此の方面に於て実現せられたる進歩に関する一切の有益なる情報を三年毎に事務局に提供すべきこと望ましとす。
第 二 編 規律
3 海員が或施設又は船渠自体に於て曝さるる危険に対し、左記を含む措置に依り之を保護する為、法令又は規則を設くべきものとす。
(a) 酒精飲料の販売を取締ること。
(b) 飲食店に於て一定年令未満の男女年少者を使用することを禁止すること。
(c) 麻薬の販売及使用を制限する国際協定の規定を国籍の差別なく一切の海員に適用すること。
(d) 好ましからざる者の船渠及一般港湾区域に立入ることを禁止すること。
(e) 固定又は可動の柵に依り船渠区域を遮断し且波止場、岸壁及船渠の他の危険なる部分の縁端を保護することの措置が実行可能の場合には之を執ること。
(f) 充分なる照明を施し且必要なる場合には船渠及通路の標識を設くること。
4 前記の措置の厳重なる実施を確保し且其の効果を増大する為、左記を包含する監督の為の措置を執るべきものとす。
(a) 酒精飲料の販売せらるる設備並必要且実行可能なる場合には旅館、カフエ、下宿屋及他の類似設備にして港湾区域に在るものを監督すること。
(b) 酒精飲料若は麻薬を不正に船内に持込むこと又は他の不法なる目的の遂行せらるることを防止する目的を以て、船舶を訪ふ者(船舶と陸岸との間を往来する船夫を含む。)を監督すること。右監督は、船長及公の権力に依り共同して為さるることを得。
(c) 特に訓練せられ且装備せられたる適当なる警察力にして他の監督機関と連絡を保つべきものを港湾区域に於て維持すること。
5 外国人海員を一層良く保護する為左記を容易ならしむる措置を執るべきものとす。
(a) 右海員と本国領事との間の連絡、及
(b) 領事と当該地方の又は国の権力との間の有効なる協力
第 三 編 保健
6 港湾の附近及海員がしばしば往来する地域に於て、直接たると間接たるとを問はず、誘惑及誘引することは極力防遏せられるべきものとす。
7 国籍を問はず、入港する一切の海員に左記を知らしむる為一切の適当なる措置を執るべきものとす。
(a) 危険並に疾病特に結核、熱帯病及花柳病にして右海員が曝され居るものの予防方法
(b) 疾病に罹り居る者が治療を受くるの必要及右治療の為利用し得る施設
(c) 麻薬の常用より生ずる危険
8 疾病に罹り居る海員の治療は、左記を包含する適当なる措置に依り之を容易ならしむべきものとす。
(a) 例へば千九百二十四年十二月一日ブラツセルに於て署名せられたる花柳病の治療の為商船船員に与へらるべき便宜に関する協定に依り定められたる花柳病に対する無料且継続的なる治療を特に船渠区域に於て能ふ限り広く拡張すること。
(b) 容易に且国籍又は宗教上の信仰の差別なく、海員を港に於ける病院及び施療所に入院せしむること。
(c) 結核に対し内国民を保護する為執らるる措置を能ふ限り広く外国人海員に適用すること。
(d) 海員の利用し得る医療施設を補充する目的を以て、必要なる場合に治療の継続を確保する為の措置を能ふ限り執ること。
第 四 編 宿泊所及娯楽
9 少くとも大なる港に於ては、港に滞在中の海員を物質的及一般的に援助する為措置を執るべきものとし、右措置は、特に左記を包含すべし。
(a) 海員宿泊所にして満足なる性質を有し且低廉なる価格を以て適当の食糧及宿泊を提供するものを設置し又は之を発達せしむること。
(b) 集会室及娯楽室(酒保、遊戯室、図書室等)を備ふる施設(本施設は、海員宿泊所と区別するを得べきも、之と能ふ限り連絡を保つを要す。)を措置し又は之を発達せしむること。
(c) 可能なる場合には、船舶のスポーツ倶楽部と協力し、スポーツ、遠足等の如き保健的娯楽を組織すること。
(d) 有らゆる手段に依り海員の家庭的生活を増進すること。
第 五 編 給料の貯蓄及送金
10 海員が貯金を為すこと及其の貯金を家族に送付することを援助する為、
(a) 海員特に外国に在る海員をして其の給料の全部又は一部を貯金し又は送金することを得しむる為、領事、船長、船舶所有者の代理人又は信頼し得べき私の機関の援助を得て運用せらるる簡易、迅速且安全なる制度を採用すべし。
(b) 海員をして其の希望するときは雇入の際若は航海中に其の家族への定期的送金に其の給料の一部を充当することを得しむる為の制度を創設し又は之を一層一般的に適用すべきものとす。
第 六 編 海員に対する情報
11 以上勧告せられたる措置の大部分が成功することは、海員の間に適当に周知せられることに大なる程度に於て依存すべきものなるの事実に鑑み、右の周知は、公の権力、本勧告第一編に掲げらるる機関並に能ふ限り船舶の職員、医師及スポーツ倶楽部に依りて援助せらるる権限ある団体に依り組織せられ且行はるべきものとす。
12 右の周知は、左記を包含するを可とす。
(a) 最も適当なる用語を以て刊行せらるる小冊子にして寄航港又は当該船舶の向ふ次の港に於て海員が利用し得る施設に関する明白なる情報を与ふるものを陸上に於て及船長の同意を得て船内に於て配布すること。
(b) 大なる港に於ては、海員が出入し易く且有益なる説明又は指導を直接に与え得る職員を有する情報所を海事庁又は他の場所に創設すること。
(c) 船員手帳、雇止証明書若は海員が平常携帯する他の書類又は船員室の見易き場所に掲げらるる掲示に海員の身体上の福利及一般的保護の為有益なる情報を記載すること。
(d) 海員の読む専門的及一般的関係の定期刊行物中に海員に対する一般的教育的関係の記事をしばしば掲載し且此の目的の為活動写真をも利用すること。
(e) 地方交通機関の料金表並に地方名所及娯楽場に関する情報を配布すること。
第 七 編 均等待遇
13 海員の福利の為の資金を管理すべき政府、権力及団体は、特定の国籍を有する海員のみに係はることなく、国際連帯の精神を以て、能ふ限り寛大に活動することを特に勧告せらる。