1933年の廃疾、老令及遺族保険勧告(第43号)

1933年06月29日

廃疾、老令並びに寡婦及び孤児保険の一般原則に関する勧告(第43号)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千四年六月一日にその第九十二回会期として会合し、本会期の議事日程の第七議題である複数の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千四年六月十六日に、千九百三十三年の廃疾、老令及遺族保険勧告(第四十三号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百三十三年六月八日を以て其の第十七回会議を開催し、
 右会議の会議事項の第二項目の一部たる廃疾、老令並に寡婦及孤児保険に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は勧告の形式に依るべきものなることを決定し、
 国際労働機関の締盟国をして立法其の他の方法に依り之が実現を為さしむる目的を以て考慮せしむる為、国際労働機関憲章の規定に従ひ、千九百三十三年六月二十九日、千九百三十三年の廃疾、老令及遺族保険勧告と称せらるべき左の勧告を採択す。
 総会は、
 工業的又は商業的企業に使用せらるる者、自由職業に使用せらるる者並に家内労働者及家庭使用人の為の強制の廃疾、老令並に寡婦及孤児保険に関する条約並に農業的企業に使用せらるる者の為の強制の廃疾、老令並に寡婦及孤児保険に関する条約を採択したる上、尚
 此等の条約は強制の廃疾、老令並に寡婦及孤児保険の一切の制度に依り当初より準拠せらるべき最低条件を定むるを思ひ、
 廃疾、老令並に寡婦及孤児保険の正当、有効且適当なる組織を促進するに最も好く適合するものと実際の示す若干の一般原則を指示すること望ましきを思ひ、
 各締盟国が左の原則及び規準を考慮すべきことを勧告す。

Ⅰ 適用範囲

1(a) 被用者の為の強制の廃疾、老令並に寡婦及孤児保険は、年令、性又は国籍の如何を問はず、有償労務に平常従事する一切の者を包含すべし。
 (b) 経済上、社会上及行政上の状態が許す場合に於ては、国内の法令又は規則は、廃疾、老令並に寡婦及孤児保険が工業、商業及農業に於て自己の計算の下に労働する小資力者をも包含すべきことを定むべし。
2 尤も保険加入に付ての最低年令を定むること可なりと認めらるる場合に於ては、右年令は、修学義務が止み且職業の選択が行はるる年令に能ふ限り接近せらるべし。
3 保険加入に付ての最高年令を定むることは、年金を受くる権利に付資格期間の完了を条件と為す保険制度に於てのみ、且労働者にして其の平常の職業として有償労務に就く時に於て通常の年金受給年令に達する前に資格期間を完了することを得るには老令に過ぐるものに付てのみ正当なりとす。
4 保険加入義務の基準としての最高報酬(保険の為に考慮せらるる報酬の社会保険に固有なる限度は、之を別とす。)を定むること可なりと認めらるる場合に於ては、労働者にして其の報酬が賃金の一般標準を著しく超ゆる事実に依り廃疾、老令及び死亡に対し自ら備え得ると認められ得るもののみが之に依り除外せらるべし。

Ⅱ 年金

A 資格期間及保険加入期間

5 一切の年金受給者に固定率の年金又は保険の為に考慮せらるる報酬に応じ変化する年金を支給することを定むる保険制度に依り規定せらるる資格期間は、保険を不当に利用する目的を以て保険に加入することを防止し且支給せらるる給付に対する若干の対価を確保する為厳格に必要なる期間よりも長からざるべき醵出期間に限らるべし。
6 廃疾又は遺族年金に付ての資格期間は、如何なる場合に於ても、醵出六十月、醵出二百五十週又は醵出千五百日を超えざるべく、且老令年金に付ての資格期間は、右の限度の二倍を超えざるべし。
7 被保険者が疾病の為労働不能なる期間、分娩の為使用せられ得ざる期間又は非任意的に失業せる期間は、規定せらるべき範囲内に於て右期間に付疾病若は母性保険に依り又は失業基金に依り醵出金が払込まれざる場合と雖も、之を資格期間に算入すべし。
8(a) 払込まれたる醵出金に関する権利の保全に付制限を設くる保険制度は、最後の醵出金払込より起算し十八月の期間右権利の保全を保障すべし。尤も右期間は、醵出金が報酬に応じ差等ある制度に在りては保険加入以降貸方に記入せられたる期間の全体の少くとも三分の一(醵出金が貸方に記入せられざりし期間を除く。)に至る迄延長せらるべきものとす。右期間を計算するに当りては、被保険者が疾病の為労働不能なる期間、分娩の為使用せられ得ざる期間又は非任意的に失業せる若は軍務に服せる期間は、醵出金が貸方に記入せられざりし期間と看做されざるべし。
 (b) 醵出金に関する権利を更に保全することに付ては、強制保険又は任意継続保険に依る醵出金の払込の再開始又は之が為相当の料金の払込を条件と為すことを得。醵出金が報酬に応じ差等あり且保険加入期間に応じ変化する年金を定むる保険制度に在りては、醵出金払込の再開始は、取得の中途に在る権利の価値を増大せしむべし。
9 前に被保険者たりし者は、強制保険又は任意継続保険に依る所定回数の醵出金の払込に依り、既に消滅せる権利を回復することを得べし。年金が被保険者の勘定の貸方に記入せらるる醵出金の回数又は額に応じ変化する場合に於ては、右所定の醵出金の回数は、最初の資格期間に付要求せらるる回数より少かるべし。
10 長期間失業せる被保険者の取得の中途に在る権利を保全する為に払込むことを要求せらるる金額は、之が払込を被傭中の被保険者に専ら負担せしむることの不可能なるに鑑み公の機関の財政上の援助に依り得らるべし。尚同一の原則は、右失業者の権利を鞏固にし且増大する為の払込に対しても之を適用すべし。

B 老令年金

11 年金受給年令を六十歳を超えて定むる保険制度に付ては、労働市場を救済し且老年者に休息を確保する手段として、当該国の人口上、経済上及財政上の事情が許す限に於て且必要あるときは漸次に、年金受給年令を六十歳迄低下せらるべきことを勧告せらる。
12 特に困難なる又は不健康なる業務に多年従事したる被保険者は、他の業務に従事する労働者に比し一層若き年令に於て年金を請求することを得しめらるべし。
13(a) 労働者が其の老年に於て窮乏に悩まざるべきことを確保する為、年金は、基本的必要を充すに充分のものたるべし。従つて一定の資格期間を完了したる一切の年金受給者に支給せらるる年金は、生活費を正当に考慮して定めらるべし。
 (b) 醵出金が報酬に応じ差等ある保険制度に在りては、労働生活の通常の期間に相当する醵出金が勘定の貸方に記入せられたる被保険者は、其の労働生活中に於ける経済状態に相応する年金を支給せらるべし。此の目的の為現実の醵出金の三十年間を完了したる被保険者に支給せらるる年金は、保険の為に考慮せらるる保険加入以降に於ける又は年金支給直前の所定期間中に於ける報酬の半額を下らざるべし。
14 割増金は、左記に付年金受給者に支払はるべし。
 (a) 各被扶養者たる子にして修学年令のもの、一般教育若は職業教育を継続し居る十七歳未満のもの又は虚弱の為其の生計の資を得ること能はざるもの
 (b) 妻が老令又は虚弱にして且妻自身が之が為の年金を受くる権利を有せざる場合
15 常時他人の介護を必要とする年金受給者は、特別の附加金を支給せらるべし。

C 廃疾年金

16(a) 年金は、被保険者にして疾病又は虚弱の為其の体力及能力並に其の訓練に適応せる労働に依り相当の報酬を得ること能はざる者に支給せらるべし。類似の訓練及経験を有する健全なる労働者の通常の報酬の三分の一を下る報酬は、相当のものと看做されざるべし。
 (b) 尤も一定の業務に於ける筋肉又は非筋肉労働者の為に設けらるる特殊の保険制度に在りては、労働能力の減少は、従来従事せる業務又は類似の業務に関連して算定せらるべし。
17(a) 保険制度は、其の目的を果す為一切の被保険者に資格期間を完了したる後廃疾と為るものに其の基本的必要を充すに充分なる年金を支給すべし。従つて一切の年金受給者に支給せらるる年金の最低額は、生活費を正当に考慮して定めらるべし。
 (b) 年金の最低額が保険の為に考慮せらるる報酬を基礎として定めらるる保険制度に在りては、右の最低額は、右報酬の四十パーセントを下らざるべし。同一の結果は、年金が一切の年金受給者に付同一なる固定部分と自己の勘定の貸方に記入せらるる醵出金の回数及額に応じ変化する部分とを含む制度に依りても企図せらるべし。
18 割増金は、各被扶養者たる子にして修学年令のもの、一般教育若は職業教育を継続し居る十七歳未満のもの又は虚弱の為其の生計の資を得ること能はざるものに付、年金受給者に支払はるべし。
19 常時他人の介護を必要とする年金受給者は、特別の附加金を支給せらるべし。

D 遺族年金

20(a) 年金受給者又は被保険者が資格期間を完了したる後死亡し且寡婦を残すとき、右寡婦は、再婚せざる間年金を受くる権利を有すべし。
 (b) 尤も年金の支給が他の条件を充すことを要するときと雖も、年金は、年令又は廃疾の為自己の生計の資を得ること能はざる寡婦に及修学年令に在る又は十七歳未満にして一般教育若は職業教育を継続し居る被扶養者たる子を有する寡婦に支給せらるべし。
21 年金は、資格期間を完了したる後死亡せる女子被保険者に廃疾の為扶養せられ居りたる廃疾の鰥夫にも支給せらるべし。
22(a) 寡婦(又は廃疾の鰥夫)に支給せらるる年金は、基本的必要を充すことに充分資するものたるべし。年金の最低額は、之を計算する方法の如何を問はず、生活費を正当に考慮して定めらるべし。
 (b) 醵出金が死亡者の報酬に応じ差等ある保険制度に在りては、寡婦(又は廃疾の鰥夫)年金は、死亡者が権利を有し居りたる又は其の死亡の日に於て右死亡者が廃疾年金若は老令年金を支給せられ居りたりとせば権利を有すべかりし年金の半額を下らざるべし。尤も右制度にして死亡者が権利を有し居りたる又は有すべかりし年金の率に関係なくして遺族の権利を定むる場合には、寡婦(又は廃疾の鰥夫)年金は、保険の為に考慮せらるる死亡者の保険加入以降に於ける又は其の死亡直前の所定期間中に於ける報酬の二十パーセントを下らざるべし。
23(a) 資格期間を完了したる後死亡せる年金受給者又は被保険者に扶養せられ居りたる一切の修学年令の子は、子女年金を受くる権利を有すべく、且右年金は、子が其の一般教育又は職業教育を継続し居るときは十七歳迄又子が廃疾の為其の生計の資を得ること能はざるときは右の年令を超ゆるも引続き支払はるべし。
 (b) 子女年金は、寡婦たる母の年金に対する附加金の形式に於て支払はるることを得。
24(a) 子に支給せらるる年金の最低額は、之を扶養し且教育するの費用に充分資するものたるべし。右の最低額は、孤児に付ては一層高かるべし。
 (b) 醵出金が死亡者の報酬に応じ差等ある保険制度に在りては、子女年金は、死亡者が権利を有し居りたる又は其の死亡の日に於て廃疾若は老令年金を支給せられ居りたりとせば権利を有すべかりし年金の四分の一又は孤児に付ては二分の一を下らざるべし。尤も右制度にして死亡者が権利を有し居りたる又は有すべかりし年金の率に関係なくして遺族の権利を定むる場合には、子女年金は、保険の為に考慮せらるる死亡者の保険加入以降に於ける又は死亡直前の所定期間中に於ける報酬の十パーセント又は孤児に付ては二十パーセントを下らざるべし。
25 一人の死亡者に関し支給せらるる遺族年金の総額に付最高限度を定むること可なりと認めらるる場合に於て右の限度は、遺族年金が死亡者の年金に応じ変化するときは、家族に対する責任に付ての割増金を含み死亡者が権利を有し居りたる又は有すべかりし年金を下らざるべく、又は遺族年金が保険の為に考慮せらるる死亡者の報酬に応じ変化するときは右報酬の半額を下らざるべし。
26 資格条件が充されざりし為年金を受くる資格なき遺族は、家長の死亡に依り惹起せらるる境遇上の変化に遺族を適応することを得しむべき一時金を給与せらるべし。尤も最少回数の払込が死亡者の勘定の貸方に記入せられたることを条件とす。
27 埋葬費が法令又は慣習に依り他の保険就中疾病保険に依りて支給せられざる国に於ては相当なる埋葬の費用に関する給付は、被保険者が死亡せる場合に於て寡婦及孤児保険に依り支払はるべし。

E 年金の停止又は減額に関する規定

28 他の社会保険制度若は年金制度又は労働者の災害補償若は職業病補償制度に依り取得せらるる年金に対し競合的権原が存する場合に於て廃疾、老令又は遺族年金の停止又は減額に関し規定が設けらるる場合には、停止又は減額に関する規定は、年金受給者をして何れか一層高き年金の全額を受くることを得しむるが如きものたるべく、且如何なる場合に於ても、右年金受給者は、被保険者自身の醵出金に相当する廃疾、老令又は遺族年金の部分を支払はるべし。
29 廃疾又は老令年金が他の年金に対する競合的権原の存在以外の理由に依り停止せらるる場合に於ては、年金を停止せらるる者の被扶養者たる家族は、年金の全部又は一部に均しき生計手当を支給せらるべし。

Ⅲ 財源

30(a) 保険制度の財源は、被保険者の醵出金及其の使用者の醵出金を以て充てらるべし。
 (b) 公の機関は、保険制度に醵出すべし。
31 一般原則として、被保険者の醵出金は、其の使用者の醵出金よりも高からざるべし。
32 使用者は、労働者にして現物のみにて報酬を与へらるるもの、家内労働者及徒弟にして、其の報酬が所定の額を超えざるものに関する総合醵出金の全部又は大部分に付責任を負ふべし。
33 国は、兵役に服する前被保険者たりし者の強制兵役に服せる期間に関する醵出金に付責任を負ふべし。

Ⅳ 管理

34 国内の法令又は規則は、女子被保険者が廃疾、老令並に寡婦及孤児保険の管理機関に適当に代表せらるることを規定すべし。