専門家に聞く:海上の労働に関する条約

船員の保護に向けた船舶の検査:海上の労働に関する条約の運用実態

 「海上の労働に関する条約」の遵守、したがって、人間らしく働きがいのある船員の労働・生活条件の確保には、船舶の検査が決定的に重要です。この業務に携わっているイタリアの沿岸警備隊に所属するルイジ・ジャルジーノ少将に検査の実際とあり得る結果について話を聞きました。

2019年05月03日

 2006年に採択された「海上の労働に関する条約」は、船員の「権利章典」とも呼ばれています。この条約の批准国は、自国籍船が条約の要件に従うよう確保する義務があると共に苦情対応や条約遵守状況確認のために自国の港に寄港する船舶を点検する権利を有します。現在、この条約の批准国は日本を含む93カ国に上りますが、ILOは創立100周年を機に、今年中に100カ国の批准を達成することを目標に掲げ、世界全体で150万人を数える船員にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を確保する努力を支えてくれることを加盟国に呼びかけています。

 海上の労働に関する条約の特別三者委員会のデイビッド・ハインデル船員側グループ・スポークスパーソンはこの条約を次のように評しています。「海上の労働に関する条約は発効によって状況を一変させました。全ての船員のために人間らしく働きがいのある最低限の労働基準と社会正義を前進させることに関し、海上で働く人々のためにこれほど潮目を変えることになろうとは誰も予測できませんでした」。そして、条約未批准国に対し、「ILO創立100周年に際し、世界の船員のために、より安全な労働環境とより良い条件を確保する」のを手助けしてくれるよう呼びかけています。国際海運会議所(ICS)のガイ・プラッテン事務局長も、「海上の労働に関する条約は、船舶所有者、社会的パートナーである労使、政府が心から誇れるものです。これはグローバル産業の中でも独特で、貴重な船員の保護に向けて人間らしく働きがいのある基準を定めています。批准国は93カ国に上りますが、このILOの特別の記念すべき年に、100カ国の批准が達成できれば本当に大したものと言えるでしょう」。

 この広報記事では、条約の実際の適用について、2013年11月にこの条約を批准したイタリアの沿岸警備隊に所属するルイジ・ジャルジーノ少将に報告してもらいました。

 寄港船舶を点検するか否かの決定は、船舶のリスクプロフィール、船舶の安全性に対する深刻な脅威の存在を示す印、苦情の有無に基づいて行われます。2018年にイタリアの港及び投錨地に寄港した船舶中1,362隻を点検しました。最も深刻な問題には、船員が職務遂行に必要な訓練を受けている証拠や資格・認証・証明を受けている証拠の欠如、船上で働いている16歳未満の年少者の発見などがあり、このような場合には、問題が是正されるまで、当該船舶は抑留されます。

 欧州27カ国にロシア、カナダを加えた29カ国で最も頻繁に見られる問題のトップ5は、衛生設備の保守に関わる問題、状態の悪いロープやワイヤ、機械回転部の防護措置の欠落、電気系統の問題、個人保護具の欠如あるいはあったとしても船員が通常の業務中に着用していないことです。このほかにも、食料が不十分であったり、十分に低い温度で保存されていないこと、冷暖房や換気の問題、機関室や寝室、トイレ、調理室などの掃除が行き届いていないこと、船員の賃金不払いなど一連の問題が見出されています。

 事故につながる可能性がある一つの大きな問題として、船員の疲労を挙げることができますが、これについては、客観的な証拠を用いて条約の適用状況を点検します。航海日誌や訓練記録の勤務時間と休息時間の記録を比較する場合や、船員、とりわけより低いランクの船員に面接すると、回答速度の遅さや集中の困難、起きていられない状態などに気づく場合があります。

 不注意な使用やひび割れ、ゆがみなどによる設備やシステムの機能不全、腐食などの構造上の欠陥は船員の安全に影響を与える可能性があるため報告し、期限を定めて是正を求めます。

 重大な欠陥は船舶の抑留につながりますが、海上労働証書を撤回したり、国内法に従った制裁が科される可能性もあります。条約の遵守に関連した問題は次第に減ってきています。これは批准が船員、船舶所有者、旗国、寄港国、労働力供給国にとって有益であることに海事産業が気づいてきた結果だと思われます。船舶に欠陥がないことや発生した問題の迅速かつ効果的な是正は船舶所有者の経済的利益にもつながります。たとえ数時間でも船舶の抑留は高い費用を発生させるだけでなく、船舶の業務記録に汚点を残すことになりますから。

 以上は2019年5月3日付の英文広報記事の抄訳です。

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