ILOブログ:移民労働
父は移民労働者だった
移民労働者が大切な人たちに送る仕送り額は家族のみならず、より幅広い経済も支えています。ILO職員のアスミ・ムスタファにとって仕送りは夢を達成する助けになりました。
2019年10月31日
| アスミ・ムスタファILOスリランカ・モルジブ国別事務所労働力移動プログラム・アシスタント |
世界銀行の統計によれば、世界全体で2億7,000万人に上る移民が家族に送る金額は年間6,890億ドルに達しています。仕送りは今や、途上国にとっては外国から届く最大の資金源になっており、外国からの直接投資を上回り、グローバル化を陰から動かしています。スリランカでも仕送りは最大の外貨収入源になっており、国の経済に大きく貢献し、国内総生産(GDP)の1割を構成しています。
数十万人のスリランカ人が大切な人たちに経済的により良い未来を提供することを目指して出稼ぎに出ています。その仕送りは起業や教育、住宅、家族の基本的なニーズに投資されています。また、他の文化にさらされた多くの移民労働者が多様な世界観を持つグローバル社会の形成を手助けしています。
ILOスリランカ・モルジブ国別事務所のアスミ・ムスタファ労働力移動プログラム・アシスタントもそのような出稼ぎ労働者の父親に育てられました。スリランカ東部州に位置する住民約1万5,000人の小さな沿岸の村であるマルタムナイ村で3人の姉と1人の妹に挟まれて育ったアスミが生まれて間もない1986年6月に父親がサウジアラビアでお抱え運転手として働くために国を出ました。
出稼ぎは村では珍しいことではなく、住民の多くが漁業で生計を立てていたものの中東諸国に出稼ぎに行く人も多く、アスミの親戚にも海外で肉体労働者や家事労働者として働いていた人が何人もおり、2人の叔母と叔父もクウェートとサウジアラビアで働いていたために母親はあまり心配しなかったそうです。こういった人々から届く仕送りは1980年代初頭の村の経済を支え、当時の農漁村開発の礎石をなしていました。しばしば発生する停電の際には父親の送ってくれた充電型ランプが活躍し、非常時には近所の人々が借りに来ました。
携帯電話やインターネットもまだなく、国際電話は非常に高価についた当時、父親との連絡手段は手紙で、時にカセットテープにメッセージを吹き込んでやり取りしました。カセットを郵送してから返信が届くまで、この声のメッセージのやり取りには少なくとも1カ月はかかりました。
封印してバスで届けられるオレンジ色の郵便袋を待ちわびて人々は村の郵便局の周りにたむろしました。郵便局長が所定の手続きを終え、袋を開き、手紙や小包の宛名を読み上げるのをイライラしながら待ちました。
ある日、父親から届いた手紙に10サウジアラビア・リヤル(約300円)が同封されていました。スリランカ・ルピーに交換してくれる人を何とか見つけ、スパイス入キャッサバチップスを売っている屋台に直行し、この香味あふれるパリパリのスナックを口一杯ほおばりました。その当時のアスミのポケットに入っていたお金はそれでほとんどなくなりました。
一家の唯一の収入源は父親からの仕送りでした。夫から直接支援を受けることなしに5人の子どもを育て上げた母親は、極めて効率的に家計を運営し、届いた金額のほとんどを貯蓄に回しました。当時はもちろん外国からの送金に用い得るインターネットバンキングのようなサービスは存在せず、移民労働者は皆、普通の郵便で実家に小切手を送るのでした。父親の月収は約1,000サウジアラビア・リヤル(約3万円)でしたが、母親はこれで子どもたちの教育費を賄っただけでなく、残りを貯めて、地元の風習に従い婚姻の際の持参金となるよう姉妹4人に4軒の家を建てたのです。父母は貧困のために4年生の9歳の時に学校を中退せざるを得ませんでしたが、これほどの水準の家計管理力をどこで身に付けたのかアスミはいつも不思議でした。父親が移民労働者として働き、母親が受け取った仕送りを賢明に管理するのを見て育ったアスミはしばしば、海外で働いている妻から受け取った仕送りを男性はどう使っているのか、そういった家族の経験は自分の経験とどこが違うのか、地域社会にはどんな影響があるか、といったことを考えるのでした。
10年間ずっと運転手として働いた父親は1996年に帰国しました。父親とはあまり触れ合っていなかったため、戻った直後はアスミにはほとんど知らない人でしたが、改めて色々なことを知ることができました。それほど高い水準ではないものの、ほとんどの家よりは豊かに暮らしていたと振り返るアスミはまた、十分な教育を受け、夢に向かって働いている姉妹を見るにつけ、父親が外国で働くことによっていかに家族の暮らしを高める助けを提供してくれたか理解できると記し、そのような移民労働者の父親にどういった形で感謝を示せばいいか分からないと結んでいます。
ILOは送金について権利に根ざした手法で取り組んでおり、移民労働者と金融機関の両方と協力してこの金銭の流れの利益最大化を図っています。
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以上はILOスリランカ・モルジブ国別事務所のアスミ・ムスタファ労働力移動プログラム・アシスタントによる2019年10月31日付のILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への英文投稿記事の抄訳です。