ILOブログ:社会対話
新興経済諸国における労使関係
新興経済諸国における労使関係の制度化と開発に対するその貢献を取り上げる刊行物がILOから最近発表されました。
2018年05月09日
| スーザン・ヘイターILO労使関係上級専門官 |
中国、ブラジル、インド、トルコ、南アフリカの労働力人口を合わせると世界全体の42%に達します。2010年から2015年にかけて、この新興経済諸国ではストライキが頻発しました。その顕著な特徴は、すべてが健全な労使関係の円滑化を図るために設けられている正式な手続きや制度機構の外で自然発生的に起こった山猫ストであるという点です。
これらの国に労働組合は存在し、時には成長を遂げつつあり、正規に雇用されている労働者の多くが団体交渉の適用対象に含まれています。ここから様々な疑問がわいてきます。大規模新興経済諸国で労使紛争を管理する上で、この正式の手続きや制度機構はどんな役割を演じているのか。労使関係制度は経済開発を促進しているのかそれとも妨げているのか。そして、これらの国は現在多くの先進工業国で増大しつつある類の労働市場の不安定性や不平等について長い経験があることに鑑みると、包摂的な労働者の保護を提供するに当たっての政労使の役割から何を学ぶことができるか。ILOから最近出された有料出版物『Industrial relations in emerging economies: The quest for inclusive development(新興経済諸国の労使関係:包摂的な開発の探求・英語)』は、前記5カ国の動向を詳しく分析することによってこのような疑問に答えることを試みました。
まず明らかになったのは、労使関係は先進国同様、新興経済諸国でも重要であるという点です。先進国同様、新興経済諸国の制度機構も過去数十年間にわたる政治と経済の発展過程を反映しています。例えば、ブラジルと南アフリカでは民主主義への移行、そしてその後の労働基準の強化において労働組合が相当の役割を演じました。労使団体が享受してきた制度的な力は、ある程度の「規制された柔軟性」を達成してグローバル経済への統合過程をより良く管理することを可能にしました。他方、インドとトルコでは、労働市場の規制緩和、交渉の分散化、そしてインドの場合には労働組合の乱立によって、これらの団体が経済自由化の過程で演じ得る経済目的と社会目的の調和という潜在的な役割が希釈される結果を招きました。
明らかになった第2点は、新興経済諸国における経済の非公式(インフォーマル)性の高さと遅れたあるいは限られた産業発展が先進国とは異なる労使関係形態を生み出したということです。この形態を完全に理解するには働くすべての人を対象としたより幅広い労働関係に焦点を当てる必要があります。文書化されていない行動規範や規則、非公式な制度機構が正式な制度機構や労使関係制度と同じくらい重要となり得ます。経済自由化は正式な労使関係手続きに制限を課したかもしれませんが、公式(フォーマル)経済外の活動や集団的な発言力に対する欲求を低下させることにはなりませんでした。例えば、インドには世界最大のインフォーマル労働者の組織である自営女性協会(SEWA)があり、ブラジルと南アフリカには街頭の物売りやゴミ拾い、季節農業労働者、家事労働者などといった幾つかの最も脆弱な労働者の集団的な利益を代表する団体が存在し、街灯や下水設備のような基本的なアメニティー設備に対する資格を確保し、これらの労働者の収入を改善することに成功しています。
ここから判明した第3の点とは、働くすべての人々に対する革新的で実効的な労働者保護の仕組みを提供するに至った社会対話と団体交渉の支援的な役割です。南アフリカとブラジルでは、参加型手続き(団体交渉や政労使による社会対話など)と労働基準による保護(最低賃金など)を組み合わせた包摂的な賃金政策の達成において社会対話が重要な役割を演じました。2017年に南アフリカで採択された賃金不平等と労働市場の安定性に関する政労使三者宣言は、最低賃金に加えて、団体交渉を促進し、長々と続く暴力的なスト行動に対処する措置を導入しました。ブラジルで2007年に行われた最低賃金の調整は、最低賃金と結びついた様々な形態の社会保障に依存していた人々を含む所得分布底辺の労働者の所得を直ちに改善すると共に団体交渉における賃金設定のベンチマークとして機能しました。組織労働が強く主張した調整に際しては、幅広い関係者との協議が行われました。中国江蘇省の産業別賃金協約は調整が図られた賃金交渉とハイブリッド型の職場代表モデルの二つを生み出しました。
包摂的な開発形態の構築に当たっては労使の社会的パートナーの役割がカギを握っています。問題は労働者に包摂的な保護をもたらすに際して社会的パートナー並びに労働関係及び社会対話が行い得る貢献の可能性とその範囲をいかに広げるかにあります。
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以上は、スーザン・ヘイターILO労使関係上級専門官が、2018年5月9日付でILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」に投稿した英文記事の抄訳です。