論説:職場における不平等
新刊書の責任者が語る、欧州の不平等を押さえる方法
国際的な議論の多くが所得不平等の拡大と経済及び社会に対するその悪影響に焦点を当てています。このたび発表されたILOの新刊書は、様々な労働市場政策や労使関係制度を分析することによって不平等の根本原因の解明を試みています。この論説では、その編者が同書の内容を説明しています。
2018年04月17日
2000年に欧州連合(EU)に加盟する全28カ国の所得階層上位1割と下位1割の所得格差は7.9倍でした。16年後、この比率は23%上昇して9.7倍になりました。が、この平均はEU内の大きな格差を覆い隠しています。例えば、所得不平等の度合いが最も小さいスウェーデンでは上位1割と下位1割の所得格差は5.7倍に過ぎないものの、対極にあるルーマニアでは20.7倍、スペインでは15倍に達しています。貧困削減に向けた社会的移転は2005年に社会保障支出の38%を占めたものの、2016年には33.6%に低下しました。
このような中、賃金不平等を取り上げた書籍は多数刊行されていますが、新たに発表されたILOの刊行物『Reducing inequalities in Europe: How industrial relations and labour policies can close the gap(欧州における不平等の縮小:労使関係と労働政策はいかに格差を縮小できるか・英語)』は、労働時間分布や訓練機会、昇進の機会、社会的保護の適用、就職機会あるいは再就職機会などといった他の形態の不平等も取り上げ、男女や年齢集団別の労働条件や収入における不平等も明らかにしています。研究対象にはパートタイマーや臨時労働者、自営業者も含み、仕事の世界における不平等の根本原因を追跡することを試みています。
スウェーデン、デンマーク、フィンランドにおける労使関係の積極的な役割は技能向上に向けた政策を後押しする助けになり、結果、これらの国は経済協力開発機構(OECD)諸国中で低賃金職の割合が最も低くなっています。団体交渉の強化はベルギーを賃金平等度が最も高い三つの国の一つに加えさせることになり、2015年に全国的最低賃金制度が導入されたドイツでは、団体交渉の強化と組み合わせることによってこの10年間続いた低賃金労働者の増加傾向に歯止めがかかりました。
しかし、報告書に含まれる国別研究から明らかなように、団体交渉と組み合わせてはじめて最低賃金は不平等の縮小に寄与します。例えば、英国では最低賃金が低賃金の増加を制限する助けになったものの、さらなる団体交渉の不足は交渉レベルの広がりを押さえることになりました。産業別の交渉はあまり見られず、民間企業レベルの交渉は非常に限られており、結果として民間労働者の16%しか労働協約の保護を受けていない現状では、賃金水準や労働条件が異なる様々な種類の労働契約を生じさせることになり、不平等が拡大しました。対照的に、アイルランドでは、労働契約と賃金条件に関する労使間の強い社会対話に補足されて、最低賃金が不平等の縮小を助けました。
団体交渉はまた、女性や若者に、より平等な結果をもたらす上でも中心的な役割を演じています。これは団体交渉が通常、賃金スケールの下端を押し上げることによって、女性や若者、移民といった低賃金集団の多くを占める労働者群の助けになるためですが、こういった労働者は団体交渉において十分に代表されていないという問題もあります。例えば、オランダで導入された学生制度は、最少限の労働時間と非常に低い賃金水準を特徴としていますが、しばしば団体交渉の適用対象外になっています。経済危機後の仕事の質の大幅な悪化は、イタリアやスペイン、ポルトガルをはじめとした多くの国で主に若者と低技能労働者に影響を与えています。
例えば、パートタイム労働者の6割が非自発的であるスペインのように、所得不平等の大きな原因である非自発的なパートタイム労働者がほとんどのEU諸国で増加してきています。オランダその他の国々の例が示すように、団体交渉はまた、パートタイム労働者の不十分な労働時間が不平等を後押ししている可能性があるような状況において、より平等な労働時間の再配分を助ける場合もあります。報告書は、フランスやフィンランド、アイルランド、スペインなど多くの国から、産業別労働協約にパートタイム労働者の最低労働時間が含まれている例を挙げています。
スロベニアやドイツなど複数の国で、派遣労働者の労働条件を改善する協約も結ばれています。カタロニアなどのような地域別労働協約の中には臨時労働者の常用労働者への転換を助け、労働時間の柔軟化を促進しているものもあります。
労使団体の能力強化は新たな労働形態への対処を助けることにもなるでしょう。例えば、サプライチェーン(供給連鎖)に沿ったサービスや製造の複雑な組織編成を通じた下請け構造の増加は、下請け労働者の場合を中心に不平等の原因になり得ます。報告書は雇用・労働条件の質が低い場合が多い下請け企業の賃金や労働条件の改善を助けた革新的な労働協約の例も紹介しています。他に、とりわけ訓練口座や訓練休暇を通じた技能向上における労使の役割に光を当てた協約もあります。デンマーク、ドイツ、スウェーデン、フランス、ルクセンブルクは仕事の世界における変容に従業員が備えるのを手助けしています。
危機にもかかわらず、欧州の多くの国で労使関係は強靱で、不平等傾向の縮小に重要な役割を担っています。幾つかの労働協約で男女賃金格差の縮小が目標になっているデンマークやフランス、スロベニア、スウェーデンの例からも見られるように、団体交渉は例えば、同一価値労働同一賃金を現実のものとするのにも寄与しています。
以上のように報告書の内容を紹介した上で、同書の編者であるILOのダニエル・ボーン=ホワイトヘッド上級経済専門官は、「労使関係の中心的な主体としての国家は労使間の実効的な社会対話を促進し、労使関係制度の維持・強化を助けることができる」と説き、「就労の権利と福祉国家の保護を全ての労働者に広げることによって労働市場の包摂性と平等性を高めるため、労働組合、使用者、政府は創造的な共同行動に乗り出す必要があることは明白で、急速に変化する仕事の世界においては包摂的で実効性のある社会対話に向けたイノベーション(革新)が緊急に求められています」と訴えています。
以上はダニエル・ボーン=ホワイトヘッド上級経済専門官による2018年4月17日付の英文論評の抄訳です。