論評:母性保護
労働者にとっても小規模事業にとっても良いものである母性保護/産前産後休業を巡るルワンダの現状
2014年10月20日
| アダチILO母性保護・仕事と家庭の調和専門官 |
たいていの人にとって、たとえ苦労したとしても楽しい出来事であるはずの子供を持つということは、女性差別につながる可能性も秘めています。会社に妊娠を告げて契約更新が得られなかった女性の話は残念ながら枚挙にいとまがありません。母性保護は依然として、会社の競争力にとって不利になる金銭的負担と見られることが多く、中小企業の場合は特にその傾向があります。
今年5月に発表されたILOの刊行物『Maternity and paternity at work: Law and practice across the world(働く母親及び父親に係わる世界の法及び実際・英語)』によれば、調査対象185カ国の25%で母性休暇(産前産後休業)時における現金給付の支払いを個別企業に義務づける法規定が存在し、16%で母性給付の費用を企業が部分的に負担しています。そこで、幾つかの国は中小企業には支払い能力がないかもしれないとの仮定の下、母性保護の権利に関する規則の適用対象から中小企業を除いています。母性は企業にとって高くつくとの認識はまた、24時間365日働けるのが「理想的な労働者」であり、妊娠したまたは子を持つ女性は仕事に対する献身の度合いが下がるとの文化的な思いこみによっても強められています。
しかし、英国ミドルセックス大学に委託した研究の成果物としてこのたび発表されたILOの新刊書『Maternity protection in SMEs: An international review(中小企業における母性保護:国際概観・英語)』は、母性保護は中小企業でも実現可能なだけでなく、企業と社会全体の両方に利益をもたらす可能性があることを示していると、母性保護及び仕事と家庭の調和を専門とするILOのラウラ・アダチ専門官は説明し、サービス部門を中心に従業員の多くを女性が占める中小企業においてこれは非常に意味があるとしています。母性保護及び仕事と家庭の両立に向けた適切な措置は、従業員の定着率を高め、欠勤率を下げるなど、様々な利益をもたらし、この利益は従業員の数が少ない企業ほど一層顕著に現れますが、子供を持つことが「企業生活における普通の事実」となるためには中小企業の特性とニーズに配慮した新しい政策・方針が求められると専門官は説いています。そして、これにはとりわけ、対象を定めた支援措置と組み合わせた、企業が負担する母性保護や仕事と家庭の調和を支援する措置の費用を最小限またはゼロにするような国内法及び政策が含まれるべきとしています。
そのためには、決定的に重要なこととして、まず第一に、母性休暇時の給付の財源が強制社会保険または公的資金である必要があります。さらに、会社と従業員が支払う保険料に加えて政府の補助金が注入されているメキシコの母性保険制度のように、財政支援その他の奨励金が小企業にとって特に役に立つ可能性があります。また、行政手続きの簡略化や国家に代わって企業が支払う保険金が後から還付される場合に発生する可能性のある資金繰りの問題への対処を手助けするといったように間接コストの問題に中小企業が対処するのを支援することもできるでしょう。例えば、企業が従業員に支払った母性給付金の払い戻しを国に請求できる英国では、小企業は法定給付の支払い分を税金から控除できますが、現金給付が納税額を上回る場合には給付金額の前払いを申請できるほか、公的資金からの還付額が中・大企業では従業員の従前所得の92%であるのに対し、小企業では103%になるといった工夫が施されています。この他に、法規定とそれを守る方法や、育児休業中の従業員の穴を埋める方法、職場復帰を管理する方法、新米の親とその業務チームの革新的な作業形態などについて企業に情報や実務的アドバイス、ヒントを提供するなどといった支援策も考えられます。労使団体もまた、組合員や会員企業に対する権利と責任に関する情報の提供、訓練の実施、好事例の普及、生産性の利益の測定などにおいて重要な役割を演じることができるでしょう。
母性に関連した不利な立場という状況を変えることを試みる報告書は、このように様々な提案を行い、例えば、職場における授乳支援などのように幾つかの母性保護措置は従業員と企業の双方に利益をもたらしつつ、ほとんどまたは全く費用をかけずに実施できることを示しています。しかし、母性保護の権利が確保されない場合が多いパート労働や臨時労働などの増加を一因として、高所得国では母性給付の低減が見られます。加えて、景気後退の下で黒字を維持しようともがく企業が多い中、妊娠や母性に関連した差別の急増を示す証拠が見られます。報告書は母性保護が得られない女性が大半を占める途上国を中心に、母性保護規定が中小企業に与える影響についてさらなる研究が必要なことを指摘しています。
女性の生存か家庭責任か:産前産後休業を巡るルワンダの現状
『Maternity and paternity at work: Law and practice across the world』によれば、十分な母性保護を受けていない女性は世界全体で約8億3,000万人に上り、この約8割がアフリカとアジアに集中しています。
自らの生存か家庭責任かの二者択一を強いられる多くの女性の状況を変えられる可能性を秘めたものとして、ILOの母性保護条約(第183号)があります。「労働者の権利に重点を置いたルワンダにおける人権に関する啓発・能力構築プロジェクト」の一環としてILO国際研修センターが行った「ルワンダにおける労働者の権利メディア・コンクール」の受賞作品である、ルワンダ・テレビでニュース編集者を務めるレミー・モーリス・ウフィチネマ氏が作成した記事は、母性保護を巡るルワンダの状況を報告しています。
「主な稼ぎ手は男性で、女性は家庭に留まるべき」と見る文化が一部で根強いルワンダですが、状況は変化してきており、今では外に出て働く女性も多くなっています。2012年の国勢調査によれば公式就労人口585万人中53.5%に当たる313万人が女性です。2009年に成立した現行労働法は、女性労働者に12週間の母性休暇の権利を付与しています。最初の6週間は自動的に与えられ、その間給与は満額支払われます。しかし、それ以上延長する場合には給与は2割に減額されます。休暇に伴う現金給付は使用者が全額負担します。そこで、ほとんどの女性が、時にはまだ職場復帰できる身体でない場合にも6週間で仕事に戻ります。
ルワンダの労働組合は、家庭責任に基づく差別を受けずに労働市場で男性と競争できる女性労働者が増大するような措置の導入を政府に求めていますが、そのためにはILOの母性保護条約(第183号)の批准が正しい選択肢と考える人々がいます。第183号条約は14週間の有給母性休暇に加え、妊娠または哺育中の女性が母子の健康に有害な可能性がある仕事にさらされることの防止や、母性に基づく差別からの保護、妊娠中または母性休暇中の女性の雇用終了からの保護についても定めています。ルワンダ労働友愛会議(COTRAF)のドミニク・ビカムンパカ会長は、条約未批准に伴う問題として、母性休暇や妊娠を理由として欠勤している間に仕事を失った母親の事例が複数記録されていると報告しています。ルワンダ公務・労働省のポール・ルジンダナ法律顧問は、「条約を批准しても実行しないのは正しくない」として、条約の実行を許す手段と基盤構造が備わっているかまず検討する必要があると語っています。
ルワンダでは現在、労働組合と女性を助ける代案になるであろう母性基金設立の手立てについて検討する話し合いが進められており、ILOは少なくとも現在規定されている12週間の期間全体あるいは条約に沿って14週間の母性休暇のための十分な現金給付が社会保険を通じて確実に支給されるよう政府の基金設立努力を支援しています。アダチ専門官は、女性を差別から守り、母子保健及び家族の所得保障にとって重要な母性休暇を女性が十分に享受できるようにするためにはこれが「必要不可欠」と語っています。
* * *
以上は次の英文論評及び広報記事の抄訳です。
- ラウラ・アダチILO母性保護・仕事と家庭の調和専門官による2014年10月20日付論評記事-労働者にとっても小規模事業にとっても良いものである母性保護
- ルワンダ・テレビのニュース編集者レミー・モーリス・ウフィチネマ氏による2014年10月22日付広報記事-女性の生存か家庭責任か:産前産後休業を巡るルワンダの現状
Related content
ILO新刊
働く親に関するILO新刊発表:幾つかの国で経済危機が予期せぬ支援を家庭に提供/国家間のばらつきは大きいものの母性保護は前進