ILO統計局ブログ:LGBT+

労働市場における包摂性と多様性:LGBTの人々に関する労働統計整備の呼びかけ

 雇用に関わる機会平等と平等待遇はディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の中核的な要素の一つです。世界中の労働市場で差別に直面している同性愛者やトランスジェンダーなどのLGBT+の人々にとって、この実現は遠いものとなっています。しかし、差別の規模と形態を知るには、こういった人々に関する労働統計が必要です。

2019年12月09日

ロシーナ・ガンマラーノ経済専門官

 労働市場における多様性と包摂性は中核的な価値として成長と開発を育む潜在力を秘めています。堅固で持続可能な労働市場は誰も置き去りにせず、全ての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を確保します。そして、雇用における機会の平等と平等な待遇なしにディーセント・ワークを導くことはできません。

 残念なことに、同性愛者や両性愛者、トランスジェンダー(身体の性と心の性が一致しない人)、そしてそれぞれに関連する共同体を総称してLGBT+と呼ばれる人々の多くが、いまだに世界中の労働市場で強い差別を受けています。性的指向や性自認による差別から人々を保護する法律を有する国においても問題は起こっています。

 このような問題の存在を私たちが知っているのは、十分な証拠があるからです。ILOでも性的指向や性自認による職場内差別の実態調査を行ったPRIDEプロジェクトの成果物などが存在します。しかし、この証拠は通常、逸話であって必ずしも統計ではありません。LGBT+の人々が直面している労働市場における差別の規模と形態を把握するには、そして労働市場がどれだけ包摂的かを知るためには、これらの人々の労働市場における状況を示す信頼のおける時宜を得た統計が必要です。

 いまだに多くの国がLGBT+を犯罪視し、こういった人々を差別する法を備えています。一方で、LGBT+の人々の人権及び労働者の権利の確保の点では、多くの国で長足の進歩が見られます。これには反差別法制の整備や同性婚の法的認識などが含まれます。とりわけ、欧州、北米、南米で法的枠組みの整備が進みました。にもかかわらず、法律面での前進が見られる国でさえも、LGBT+の人々の労働市場における状況に関するデータを定期的に編纂しているところはまれにしかありません。

 残念ながらデータの不在はしばしば行動の不在を意味し、数量化されないものは見過ごされがちです。すなわち、LGBT+の人々が労働市場で直面している困難は見過ごされている危険があり、こういった困難に対処しないことは、あらゆる労働者の生産潜在力の完全開花の機会が失われることを意味します。

 統計は目に見えないものの可視化を許し、問題は目に見えて初めて対処が可能になります。これは他の少数派や疎外されている集団同様、LGBT+の人々が社会や経済、労働市場で直面している格差についても当てはまります。

 機会平等と平等待遇は就労に関わる基本的な原則です。差別は悪であるだけでなく、企業のためにもなりません。差別の社会的コスト、経済的コストは高く、教育や労働市場における差別はLGBT+の人々の才能の全面開花を損ない、全体的な生産性や人間開発の水準にも影響を与えます。

 この点で、LGBT+の人々に関する労働統計は、根底にある労働市場の問題や事項を露わにすることができ、問題に取り組む第一歩となり得ます。

 均質の集団と見られることが多いLGBT+の人々の共同体ですが、実際には多様性が極めて高く、したがって労働市場における状況も直面している困難も全く異なります。LGBT+の人々に関する労働統計の編纂はこういった違いを理解する助けにもなり得ます。

 言うまでもなく、これは非常に複雑な分野です。LGBT+の人々の労働市場における状況に関するデータ編纂の可能性とデータの質はLGBT+の人々に対する社会の受容と法的枠組みに密接に関連しています。つまり、LGBT+の人々の統計上の視認性はその社会における視認性に左右されると言えます。

 ここで焦点を当てるのは同性婚や性自認を認め、LGBT+の人々を差別や暴力から保護している国ですが、そういった国でさえ、抑圧の歴史はLGBT+の人々が国勢調査その他の調査で公然とそのように自認することを妨げています。調査の回答者が性的指向や性自認に関する質問を誤解したり、単に回答しないことを選択する可能性もあります。こういった様々な困難から、LGBT+の人々を明らかにする国勢調査はいまだ存在せず、また、こういった人々を把握した調査の回答者は非常に少なく、信頼性の問題を伴います。

 一般的に言って性的指向と性自認は繊細なテーマですが、時と場所を選んだ繊細さであり、繊細さの度合いは状況によって変化します。法的枠組みの整備や社会の受容が進めば性的指向や性自認の繊細さは変わると考えられます。LGBT+の人々に関するデータを集める国勢調査が今存在しないからといって、それが不可能であることを意味するわけではありません。実際、例えば、英国の統計局は2021年の次の国勢調査に加えるべきテーマ候補に性自認と性的指向を含み、利用者のニーズや質問設計、全体的なデータの質に対する影響といった点を評価する詳細な調査研究を行い、16歳以上の人を対象に任意回答式の質問を加えることを提案しました

 国勢調査は全世帯の全人口を対象とする悉皆調査であるため、LGBT+の人々の共同体に関するデータソースとなる高い潜在力を秘めています。LGBT+の人々を把握し、その生活状況を知り、社会状況、経済状況、労働市場に関連した状況についての基本的なデータを得ることが可能です。LGBT+の人々を把握する国勢調査はこれまでは存在しませんでしたが、上述のような英国の動きに加え、アルゼンチンでも2020年の国勢調査でLGBT+世帯を把握し、性自認に関する情報を集めることが予定されています。また、既に、オーストラリアカナダアイルランドなど、複数の国が国勢調査に同性婚世帯に関するデータを含んでいます。

 全数調査に対して、標本抽出の場合には、大きく分けて無作為抽出などの確率抽出法と特定の根拠に基づいて任意に抽出する非確率抽出法があります。労働力調査などの確率抽出法による調査は人口に占めるLGBT+の人々の割合やこれらの人々とそれ以外の集団の労働市場における状況や社会・経済事情の違いを得ることができます。この手法によるLGBT+の人々の統計は幅広く存在するわけではありませんが、複数の国で見られ、例えば、経済協力開発機構(OECD)は『Society at a glance 2019(図表で見る世界の社会問題2019年版・英語)』で確率抽出法を用いてLGBT+の人々に関するデータを集めているOECD諸国の一覧を示し、その結果を「LGBTの課題:性的少数者をより良く包摂する方法」と題する章で紹介しています。

 それによれば、OECD14カ国において自らをLGBTと自認する人々は少なくとも1,700万人に達しています。それぞれの国の調査から得られた最新の数値では、人口に占める割合は次のようになっています。米国3.8%、カナダ3.3%、ニュージーランド3.3%、オーストラリア3.0%(2.1%)、アイスランド2.8%、英国2.3%、アイルランド2.0%、チリ1.9%、ドイツ1.9%、メキシコ1.9%、フランス1.8%、イタリア1.6%、スウェーデン1.6%、ノルウェー1.2%。LGBTの人々が労働市場で感じている困難として、これらの人々はそうでない人々と比べて就業率が7%、勤労所得が4%、上位管理職に占める割合が11%低くなっています。

 LGBT+の人々の状況を調べる非確率抽出法としては、調査回答者が選定基準に合う知人を次々に紹介していく雪だるま式抽出法が有名です。標本が非常に小さい時はこの手法は有用であり、回答者に関する掘り下げた情報を得ることができますが、全体の状況の推断に広げられないという欠点があります。この手法を用いたLGBT+の人々に関する調査は、アルゼンチンエクアドルペルーなど、数多くの国で見られます。

 LGBT問題はある意味。繊細で特別のテーマであるため、これに関するデータの収集を考える際には念頭に置くべき点が複数存在します。

  • 秘密保持と匿名性:回答者の秘密保持と匿名性の確保はどんなデータ収集においても決定的に重要ですが、LGBT+の人々に関しては、その抑圧や暴力、差別の経験に鑑み、とりわけ重要です。
  • データの収集目的:情報がどう用いられるかに関する不安や不信から回答者が性自認や性的指向に関する質問に答えたがらない場合があるため、データの収集目的を直截的かつ明確にすることが必要不可欠です。
  • 国勢調査員の訓練:調査員自身が質問を理解して回答者の疑問を解消でき、質問の理由を説明でき、プライバシーが守られることを回答者に納得させられるよう、調査員に適切な訓練を提供する必要があります。
  • 調査の形態と質問:調査の形態は結果の精度と回答率に大きな影響を与える可能性があるため、調査方法の選択は軽く見ていい問題ではありません。とりわけ、オンライン調査や自記入式調査票などのような、回答者が匿名性を感じる度合いを高める調査の種類が存在します。もう一つの重要な決定事項として、性自認や性的指向に関する質問を調査票のどの位置に置くかという問題があります。質問の文言も注意深く選ぶ必要があります。これに関しては、カリフォルニア大学ロサンゼルス校法学部のウィリアムズ研究所が掘り下げた研究を行い、最善事例を紹介しています。

* * *

 以上はILO統計局のロシーナ・ガンマラーノ経済専門官によるILOの労働統計データベースILOSTATの2019年12月9日付英文ブログ記事の抄訳です。ILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。

Related content

ILOが新たな統計ポータルサイトILOSTATを開設

労働統計

ILOが新たな統計ポータルサイトILOSTATを開設