仕事の未来
人工知能は機会かそれとも雇用を抹殺するものか
人工知能(AI)が仕事の未来において大きな役割を演じるようになるのはほとんど疑いようがありません。自動運転車や株式市場のアルゴリズム取引、医療分野のコンピュータ支援診断などの例に見られるように、この未来は既に始まっています。
2019年02月27日
| エッケハルト・エルンストILO仕事の未来・人工知能専門家 |
人工知能(AI)が仕事の未来において大きな役割を演じるようになるのはほとんど疑いようがありません。自動運転車や株式市場のアルゴリズム取引、医療分野のコンピュータ支援診断などの例に見られるように、この未来は既に始まっています。AIの急速な進歩は新たな機会の創出、生産性向上、収入増の潜在力を秘めているものの、同時に、雇用喪失や不平等拡大を引き起こし、少数の幸運な者だけがAIの利益を専有し、それ以外の者は置き去りにされるのではないかとの懸念も見られます。
最近発表されたILOのワーキング・ペーパー『The economics of artificial intelligence: Implications for the future of work(人工知能の経済学:仕事の未来にとって持つ意味・英語)』は、政策策定者や社会的パートナー(労使)が正しい措置を講じたとしたら、ほどほどに楽観的な未来が予測できると結論づけています。
AIを基盤としたデジタル技術は、生産性を高め、より賃金の高い職業に就く機会を労働市場のより多くの人々に開く可能性があり、これは包摂的な成長を促進する助けになるかもしれません。歴史的に、専門化の進展と退屈で骨の折れる定型的な作業を人間から機械に移行することによって生産性と生活水準は向上してきました。洗練された機械を用いる現代の農家は明らかに、自前の道具を用いて畑を耕す場合よりも生産性は高まり、裕福になっています。
AI応用技術によってもたらされた資本コストの大幅減と、技術変化の方向性が少なくとも部分的には、熟練労働力よりもむしろ低技能労働力の相対的な供給によって推進されているとの事実は、途上国にも利益がもたらされそうなことを意味しています。多くの場合、AIの利用者は技術の仕組みを知ることも利用している装置に複雑なインプットを行う必要もなく、むしろその日常的な利用はAIを基盤とした道具が周囲の環境と組み合わせて全体的に最善の慣行に基づくアドバイスを生み出すことを可能にするようになるでしょう。これは新技術普及の参入障壁を下げることとなり、教育訓練が中核的な基礎能力・計算能力に焦点を当てることを可能にします。これはAI応用技術の開発に必要な技能を教える資源をもたない国でもそのような技術をを幅広く用いて、大きな成長潜在力の利益を生み出せることを意味します。
しかし、機会がリスクを上回るには、国内でも国際的にも政策を調整する必要があります。この一つが労働力の調整支援です。科学技術の急速な変化によって、労働者がそのキャリアの過程を通じて必要に応じて再訓練や技能向上を図れるよう、通常の学校年限を超えた教育訓練が必要になります。今日でもそして将来的にも、仕事の世界がこういった新技術の利益を得られるようになるには、生涯学習を現実のものとする必要があります。
そこで、技能政策が必要不可欠になりますが、それだけでは不十分であり、新技術の世界的な普及、データ・アクセスの開放を確保する必要があります。政策策定に携わる人々や社会的パートナーは、個別企業が市場を独占し、他社を排除しないよう確保しなくてはなりません。この点で現在見られるデジタル企業の市場集中度の上昇は懸念され、真っ向から取り組む必要があります。企業の活動の地歩を平等にし、国際協力を後押しし、社会対話を確保することによって、科学技術とその恩恵のより実効的な分かち合いが可能になるよう租税政策を工夫する必要もあります。
この問題は6月のILO総会で検討される仕事の未来世界委員会の報告書でも取り上げられています。ILOは経験共有のための重要な場を提供し、各国及び社会的パートナーによる必要な情報及び政策提案の交渉・調整を支援するのに適していると言えます。
* * *
以上は、ワーキング・ペーパーの著者の1人であるエッケハルト・エルンストILO仕事の未来・人工知能専門家が、ILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」に、2019年2月27日付で投稿した英文記事の抄訳です。