職場内暴力

マダガスカルにおける職場内暴力の実態

 職場内暴力の形は国の発展水準によって異なりますが、最も一般的な形態のものはどこででも見られます。最貧国ではしばしば貧困が、許容できない慣行をさらに悪化させています。マダガスカルの状況を報告します。

2018年06月19日

 職場内暴力は至る所で見られますが、しばしば貧しさが状況を悪化させています。

 友好的な人々とおもてなし気質、経済資産・観光資産によって知られるマダガスカルですが、幅広く見られる貧困は暴力のような虐待に弱い状態を作り出しています。首都アンタナナリボ近郊の貧困地区タンジョンバトに住むボロロナ・ラサモエリソンさん(37歳)は、家族を虐待する酒飲みの夫と別れ、2人の子どもと暮らすシングルマザーです。繊維産業で機械工として働いてきた15年もの経験があるにもかかわらず、今の暮らしは不安定です。

 過去2年間、ラサモエリソンさんは輸出加工区で臨時契約を更新する生活を送ってきました。朝6時から午後6時半までの勤務時間に合わせて4時半には起床し、ラッシュアワーのために自宅に帰り着くのはいつも8時を回っていました。月給は30万アリアリ(約1万円)でしたが、高い失業率による過剰な労働供給を悪用する現場監督からは1日500アリアリ(約17円)の手間賃を賄賂として支払うよう請求されていました。最初はおとなしく払っていたものの、不公正だと感じ、払うのを止めました。結果はすぐに現れました。数日後、工場に着いたラサモエリソンさんは自分の名が雇い止め指名者リストに載っているのを発見しました。

 「仕事を得るために手数料を支払わなかったから職を失ったのです。でも、働く権利を得るために金を払う必要なんてあるでしょうか。こういった慣行について声を大にして告発しなくてはなりません」とラサモエリソンさんは憮然として語ります。こういった状況は労働組合代表も知っているようでしたが、怖がって何の行動も取ってくれません。

 数カ月の失業期間を経て、ラサモエリソンさんは慈善団体の「パストラール・ドゥ・モンド・ウブリエール(仕事の世界の羊飼い-PMO)」のメンバーに出会いました。PMOは暴力の被害を受けた女性の社会統合を目指すILOのプロジェクトの協働団体です。このパートナーシップのおかげで地元アンタナナリボ地域の女性約100人が精神的なサポートに加えて、縫い物や料理、理容美容、コンピューター技術のような職業について3カ月間の訓練を受けて経済的な自立を図りました。フランスの任意資金協力を受けて実施されているこのILOのプロジェクトを利用してラサモエリソンさんも小規模のお菓子屋さんの仕事を始めることができました。近所の注文を受け、プロジェクトから寄贈されたオーブンと厨房設備を用いて自宅でケーキやマドレーヌを焼き、販売するのです。訓練のおかげでパン製造工場で仕事を見つけることもできました。

 少し離れたところに住むボラさん(仮名)も同じプロジェクトの受益者です。話をするに当たって彼女が匿名を希望したことは、職場における暴力、とりわけそれが性的嫌がらせ(セクシュアル・ハラスメント)である場合には、その告発がいまだにデリケートな問題であることを示しています。

 ボラさんはアンタナナリボ市内のホテルで7年間、ウエイトレスとして働いていました。ホテルの上得意である、地元の名士にしつこく言い寄られるまではすべてがうまく行っていました。誘いを断ると上司に言うと脅かされました。ある日、レストランに客としてやってきたこの人物からしつこく言い寄られたことをウエイター長に涙ながらに訴えたところ、話を聞いてくれるどころか、接客するよう部屋に戻されました。怒った顧客は床に皿を投げ、ボラさんを人前で罵倒し始めました。

 翌日、ボラさんは役員室に呼ばれました。事情を説明したのですが、得意客の重要性を説明され、これ以上事件が起こらないよう、ウエイトレスではなくバーで働いてはどうかと提案されました。「バーの方がこの種の言い寄りをもっと受けるでしょうに」とボラさんは振り返ります。

 ILOのプロジェクトのおかげで新たな一歩を踏み出すことができたボラさんですが、緊急の行動が必要と強調します。「私たちに嫌がらせを行い、就労に係わる基本的な権利を侵害する人は告発されるべきです。私がホテルに働きに行っているのは、ウエイトレスとしてであって、売春婦としてではないのですから。何でもお金で買えていいはずはありません」と語っています。

 マダガスカル労働監督官組合のハニトラ・ラザカボアナ会長はボラさんのようなケースを多数耳にしています。労働監督官として労働法典の尊重が確保されるよう日々努力していますが、監督官自身がしばしば言葉による威嚇や時には命を奪うとの脅迫さえ受ける大変な仕事です。

 ラザカボアナ監督官によるとマダガスカルの労働法典ではハラスメントが明確に定義されておらず、仕事の対価として現場監督が賄賂を求める慣行が存在するものの使用者は必ずしもそれに気づいていないそうです。一つの解決策は労働監督官に法を適用する物理的な手段を与えることと監督官は指摘します。監督官の業務は匿名の告発を元にして進められますが、にもかかわらず、輸出加工区を中心に組合代表自身が仕事を失うことを怖がっている事態が存在するとのことです。

 職場内暴力の被害者には男性も含まれ、とりわけ精神的な嫌がらせが見られますが、言葉による攻撃や徐々に孤立させる状況の場合は立証が難しい可能性があります。

 しかし、時に正義がなされることがあり、これは特に複数の従業員が努力を結集した場合に見られます。例えば、ラザカボアナ監督官が数日前に市内の企業に対して行った職場臨検は複数の従業員がその会社の役員からセクシュアル・ハラスメントを受けたとの告発に基づくものでしたが、告発内容を裏付ける録音証拠があり、役員は会社から解雇されたそうです。

 使用者も問題の存在を否定してはおらず、職場における暴力と闘う意思を明確に示しています。マダガスカル商業会議所社会委員会のハニトラ・ラチラホナナ会長は、従業員が職場で暴力やハラスメントを受けているとすれば、士気の観点からだけでなく、従業員の業務成績が落ち、最終的には収益にも影響がある可能性を指摘して、これは「企業にとっても良くない」と強調します。ラチラホナナ会長はまた、非常に現実的な問題ではあるものの、途上国ではほとんど注目されていない事項として、精神的暴力と燃え尽き症候群のような現象を挙げています。職場環境に関連した抑鬱状態である燃え尽き症候群がマダガスカルでもしばしば見られるのは、多国籍企業の水準に合わせた業績を求めるプレッシャーがあるものの、地元の状況から必ずしもそれが許されず、その結果、労働関係がこじれた場合に精神的暴力や絶え間ないストレスのような様々な結果が生じるからです。

 会長は必要な対策として、とりわけ労働災害に対する給付の強化といった社会保障改革と労働監督官が法の遵守を確保させるのに必要な資金・資源の付与を挙げています。さらに、セクシュアル・ハラスメントについては、マダガスカルでは性に関する事項を人前で口にすることは決してなく、まして職場ではあり得ないといった文化的背景があるため、これを明らかにするのは特に難しいと指摘しています。

 労働組合もとりわけ家事労働者に対する身体的暴力に加え、セクシュアル・ハラスメントや精神的ハラスメントの存在を指摘し、輸出加工区における組合の活動が時に制約されることを認めています。そして、労働監督に配分される資金が不十分なことを指摘し、事件は非公式な取り決めを通じて和解に持ち込まれることが多いため、裁判を起こすことの困難さや汚職を激しく非難してもいます。マダガスカル労働会議(CTM)のレミ・ボトウジ調整役は、長年にわたる労働組合経験から「岩で卵を割ることはできない」という地元のことわざを挙げて、こういった問題にもっと効果的に取り組むには労働者に自らの権利を認識させる大規模キャンペーン、そして労働組合代表の権利を守りつつ、決然とした態度で汚職に対処することが必要と指摘します。

 同じ組合のララオ・ラソアマナノロ氏は、妊娠したら仕事を失うと言われている女性達の例を挙げて、臨時契約で働いている人の場合、問題は特に困難なことに注意を喚起します。組合からはまた、マダガスカルの工場で進められている自動化を、職場における精神的暴力の一形態と見なすべきとの指摘もなされました。企業は労働者が別の職業を学べる訓練活動を紹介することも求職活動を助けることもないと言います。この問題は使用者側も認識していますが、2018年に設けられることになっている合同職業訓練基金には企業からの出資も義務づけられているため、これによってショックが緩和される可能性を挙げています。

 一つの暴力行為が別の行為を覆い隠している可能性もあります。ILOプロジェクトのもう一人の受益者であるルイゼット・ファンジャマララさん(42歳)は、恋人に去られ、18歳と13歳の実子に加え、13歳と12歳の孤児の面倒も1人で見ています。首都近郊の工業地帯であるソアビナ市の質素な借家に住むファンジャマララさんは長い間、近くの輸出加工区の会社で6カ月毎の契約を、時には同じくらいの長さの失業期間を差し挟みながら更新して働いてきました。勤務時間中の授乳を会社に拒否されたため、ある時点で仕事を辞めることになりました。しばらく前からもう一つの形態の職場内暴力である年齢差別も受け、求職活動がますます困難になり、将来に不安と絶望を抱くに至っています。「42歳の私はもう年を取りすぎていると思われて、誰も雇いたがりません。求人広告に応募しても面接に呼ばれないことさえ多いのです。私は資格も経験もあり、よく働けるのに、何で差別されなくてはならないの」と涙ながらに訴えています。

 今はマダガスカルの首相となっているILOマダガスカル・コモロ・モーリシャス・セーシェル国別事務所のクリスチャン・ンツァイ前所長は次のように指摘します。「マダガスカルでは、たとえ法的枠組みがあったとしても、基本的な権利が公然と無視されるのは珍しいことではありません。結果として、より多くのストレスや身体的・精神的暴力などを含む様々な形態の暴力が生まれるのです。全体的な状況をさらに悪化させるものとして社会対話の欠如があります。これによって政府、使用者、労働者間の信頼関係の破断につながることが多いのです」。職場における暴力を減らす助けになるものとして、前所長は、「マダガスカルのような国は既批准基本条約の尊重確保、企業の近代化管理、社会対話の場所の再確保から得るべきものが多いでしょう」と提案しています。

 1944年に採択されたフィラデルフィア宣言は、「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」と謳っています。今年の総会で職場における暴力とハラスメントの問題が取り上げられたのはこれに基づいています。アンタナナリボの人々は、マダガスカルはこの宣言の原則に立ち戻り、暴力に対する闘いをステップアップさせることへの期待を示しています。

 暴力とハラスメントの問題は来年の総会で基準設定に向けた討議を継続することが決まっています。5月に発行された、ILOの広報誌『World of work(仕事の世界・英語)』誌は、総会特集号として、職場内暴力に関する上記のような記事に加え、社会対話、児童労働、仕事の未来といった、総会議題関連記事を掲載しています。