債務奴隷と男女平等
ネパールの債務奴隷と性別役割の打破
債務奴隷制の廃止によってネパールでは男女平等が奨励されています。同国で実施されているILOの架け橋プロジェクトは、労働者の債務奴隷からディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への移行を支援し、伝統的に男性職とされてきた分野における技能を女性に提供しています。
2018年03月20日
最新の推計によれば、現代の奴隷制の被害者は世界全体で4,000万人に達し、このうち強制労働被害者は約2,500万人を数えるとされます。被害者には女性と少女が不均等に多くなっています。ILOの「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」は、強制労働の防止、被害者の保護と救済を得る機会の提供、加害者の処罰、そして他の機関等と連携しての強制労働撲滅に向けた措置を定めています。議定書の規定を現実に活用するため、ILOは米国労働省の任意資金協力を得て、「議定書から実践へ:強制労働グローバル行動への架け橋プロジェクト(通称、「架け橋プロジェクト」)」をネパール、モーリタニア、ペルーといった優先的な取り組みが求められる諸国で実施しています。ネパールにおいてこのプロジェクトは、元債務奴隷のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への移行を支援し、伝統的に男性の仕事とされていた分野の技能を女性が習得するのを手助けしています。
ネパールには伝統的に一種の債務奴隷制が存在しました。この制度の下、カマイヤと呼ばれる労働者とその家族は地主と非公式な契約を結び、農作業の見返りに収穫物のわずかな割合といったような現物で支払いを受けていました。生活が苦しい時には、地主から借金せざるを得ず、取り決めの非公式性、そしてカマイヤと地主の関係の基底に内在する不均衡な力関係は、カマイヤを搾取や虐待に弱い立場に置き、劣悪な労働条件や数世代にわたって受け継がれる長期的な債務奴隷状態にさらされることもしばしばでした。
2002年に活動家や非政府組織(NGO)コミュニティー、労働者自身からの圧力の高まりを受け、ネパール政府はカマイヤ制を廃止し、全てのカマイヤ家族を解放し、それぞれに2~5カッタ(679~1,690平方メートル)の土地を提供しました。土地の大きさは小さな家屋の建設には十分でしたが、自給自足で農業を営むには狭すぎました。現在、架け橋プロジェクトの下で大工になるための訓練を受けている解放カマイヤの女性プナン・ラナさん(22歳)の一家も土地を支給され、今は3カッタの土地を保有しています。
土地の所有権は解放されたカマイヤの社会復帰プロセスの第一歩に過ぎません。カマイヤ制の下での劣悪な条件の受諾を労働者に強いてきた社会・経済的な要因はいまだに残っていることが多く、農村部における限られた雇用機会は元カマイヤの家族を経済的に相当に圧迫しています。
多くの元カマイヤの人々同様、プナンさんの父親も自給自足の農業を営んでいましたが、怪我をして働けなくなった時、長子のプナンさんに家族を養う責任が課されました。第11学年を修了したばかりでそれ以上の正式な教育も訓練も受けていなかったプナンさんは仕事を見つけることができませんでした。恵まれない子どもたちの生活条件改善を目指して活動し、最近、ILOの架け橋プロジェクトの一環として、ILOと提携して元債務奴隷に訓練を提供し始めたUCEPネパールで社会動員担当者として働くビム・カイニさんは、元債務奴隷家族の出身者ということでプナンさんに手を差し伸べました。
架け橋プロジェクトはネパールにおいて、極西部開発区域のカンチャンプルとバージュラの両郡で元債務奴隷に生計支援を提供しています。プロジェクトは解放された債務奴隷に技能及び就業能力向上に向けた訓練を提供し、その後職業紹介を通じて労働市場に結びつけるか、追加的な支援を提供して自営業としての開業を促進します。訓練分野は建設業、農業、運輸業の14職種に及び、2018年末までに600人の労働者に訓練を提供することを目指しています。
元債務奴隷の共同体に手を差し伸べ、架け橋プロジェクトの生計支援・雇用サービスに紹介する活動を実施しているビムさんは、生計支援の受益者となる選考基準をすべて満たしたプナンさんをUCEPの提供する2カ月間の大工訓練に推薦しました。訓練後は3カ月間の見習い実習期間を経て会社に雇われるか、補足的な収入を得るためにさらに上のレベルの訓練を修了して大工指導員として働く資格を得る選択肢があります。「プナンさんは非常にがんばり屋の研修生で、将来的に主任指導員となって地元の他の女性と知識を共有する希望を表明しています」とUCEPのマヘシュ・カタリア主任指導員は明かします。
架け橋プロジェクトは、元債務奴隷に決定的に重要な生計支援を提供するだけでなく、女性に非伝統的な分野における技能開発の機会を提供しています。カンチャンプルにおける訓練に関する予備報告からは石工や大工のような非伝統的な職業における女性の参加比率が高く、時には7割を占めていることが報告されています。
とりわけ農村社会では女性がすべき種類の仕事についての性差別的な期待がなかなか解消されないため、こういった部門における仕事は伝統的に男性に取り置かれてきました。しかし、状況は変化しつつあり、教育機会が広がり、海外に出稼ぎに行く男性が増えるにつれ、女性に新たな雇用機会が開かれ始めています。
プナンさんも地元社会やネパール全土で起こりつつある変化を前向きに捕らえています。「この国では大統領も国民議会議長も最高裁判所長官もみんな女性よ。女性がこういった地位に就けるんだったら私が大工の仕事に就けないわけがあって?」とプナンさんは唱えています。
ILOは「自由のための50カ国キャンペーン」を展開し、強制労働条約の2014年議定書の批准を加盟国に働きかけています。
以上はILOアジア太平洋総局による2018年3月20日付の英文広報記事の抄訳です。